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プリパラで一番好きな回の話

 GW+プリチャン含むアニメが軒並み放送延期という昨今の情勢のため、今までちまちま消化していたプリパラを一気に全話視聴しました。
1~3期どれも良かったのですが、特に3期の「神アイドル編」は非の打ち所がなくて、1~2期のノウハウもあり色々と洗練されているだけでなく、話の構成がとても素晴らしく無駄がない。開始当初は「母性本能に目覚めた女子小中学生の微妙にリアルな育児風景」を延々見せつけられてどうなるかと思いましたが、最終的には自信を持って全話面白かったといえる珠玉の作品でした。
 その神アイドル編の中でも今回は、自分がガン泣きしながらその場で3回リピートした回がとても良かったという話をつらつらと。

■プリパラ 第104話「LOVE!デビル色!魔力があればなんでもデビル!」

 プリパラは話数の多いシリーズのため、回ごとに脚本を担当するシナリオライターは都度変わるのですが、104話担当は安定感と人物描写に定評のあるふでやすかずゆき氏。「ヤマノススメ」などでもお馴染みで、森脇監督とは「ミルキィホームズ」コンビでもありますね。

 さて、この回で話の主軸を担うのは主人公の「真中らぁら」……ではなく、「ガァルマゲドン」というアイドルユニットの面々。
 凡人で極めて真人間だが徹底したキャラ設定と地道な努力でのし上がって来た「黒須あろま」と、天才肌だが興味の方向性が食欲orあろまの二択しかないという生粋の狂人である「白玉みかん」特殊な生い立ちを持つボーカルドール「ガァルル」という、個性派がそろうプリパラ内でも屈指の色物が揃ったチームです。

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左から「あろま」「みかん」「ガァルル」。それぞれ「悪魔」「天使」「怪獣」というコンセプトでアイドル活動をしている。


 さて、本編はプリパラ開園222周年記念(!?)として新コーデブランド立ち上げのためのコンテスト開催が告げられるところから始まります。締切は一週間後の正午。
 プリパラにおいて自分が身にまとうコーデブランドは自身のアイドルとしての方向性を決定づける非常に重要な要素であり、当然それをデザインするデザイナーへの道のりは只人にとって狭き門。
 そのため、幼い頃からデザイナーになる夢を抱いていたあろまにとっては、この機会はまたとないチャンス。そしてその夢は、「既製品ではない、親友のみかんに最も似合うコーデをデザインして贈る」という、二人の幼い日の約束でもありました。是が非でも叶えたい。

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 しかしあろまは、直前になって自分自身への自信のなさから参加を尻込みしてしまう。みかんという天才を最も近い場所から見続けていたあろまにとって、自らの凡庸さ────夢と現実との距離感は、常日頃から痛いほど身に沁みているのだ。それでも周囲に後押しされ、半ば売り言葉に買い言葉であろまはコンテストへの参加を表明してしまう。

 そして、納得のいくものができないまま締切り当日に。なんとか作品は完成させたものの、まともに睡眠も取らない状態が続いていたため、あろまは致命的なミスを犯す。自身の応募作品とカレーうどんのレシピを取り違えて提出してしまったのだ。

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 それに気付いたみかんたちは、懸命にあろまを追い掛けコンテスト会場に向かうものの間に合わず、結果選外。コンテストそのものも、優秀作品が選考されなかったためノーコンテストという形で幕を閉じるのだった。

 極限の疲労と、コンテストに参加すらできなかったという事実に打ちひしがれ寝込むあろまはしかし、「悲しいときは我慢しないで泣くといい」と慰めの言葉をかけるネコに対して「泣いていない」と強がりを返す。
 自分のことを心配してくれる皆を想い、辛い場面でも毅然と振る舞うものの、しかしひとりのときには静かに嗚咽を漏らす……黒須あろまとはそういう女の子なのだ。

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余談ですが、沈痛な場面でも深刻になりすぎない画面作りのバランス感覚がとても良い。
普段は喧しくあろまにべったりなみかんが、この時はあろまを尊重して「そっとしておこう」と提案するのも地味にテクニカルで技術点が高い。

 数時間後。目を覚ましたあろまの瞳に映ったのは、気遣わしげに自分に寄り添う仲間たちの姿だった。
 一眠りして冷静になると同時に、仲間たちの姿に勇気づけられたあろまは、自分の作品について客観的に分析し、「例えアクシデントがなくてもこれでは採用されるわけがない」と、驚くほどあっさり結論付ける。
 感情ではなく論理で動き、自身の才能の無さを受け入れ、だからこそ自己の実現のために徹底的に分析と挑戦を繰り返し続ける……黒須あろまとはそういう女の子なのだ・2。

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 そして、皆からのメッセージを受け取ったあろまは考える。「過去の自分」がした約束ではなく、「今の自分」にできることは何なのか。今の自分が持っているものは何なのか。そして、心からやりたいことは何なのか。
 それは、「審査など関係なく、自分を信じ支えてくれる仲間のために、彼女たちの魅力を最大限に引き出すためのコーデをプレゼントすること」だった

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 皆のためにデザインした新ブランド「ラブデビ」を身にまとい、早速ライブに挑むあろまたち。結果は大盛況に終わると同時に、プリパラ内最高ランクである「神アイドル」になるための条件である「神チャレンジライブ」をも発生させる快挙を成し遂げる。しかし、憧れの舞台であるはずの神チャレンジライブの舞台には、ガァルルの姿だけがなかった。彼女はとある事情から、正規の手続きを経てチーム結成をしていなかったため、神アイドル候補に選ばれなかったのだ。

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選ばれしアイドルだけが立てる絢爛の舞台。
しかし、そこにもう一人の仲間の姿はなかった。

 ライブ終了後の刹那、喜色の表情を浮かべるあろまとみかんだったが、しかし、すぐにガァルルだけが取り残されていたことに、気付きショックを受ける。けれど当のガァルル本人は全く落ち込んでいないどころか、二人の躍進を自らのことのように喜び、祝福すると同時にこう宣言する。

「問題ないガァル! ガァルルもすぐ追いつく! 今日がダメなら明日! 明日がダメならあさって! どこまでいっても明日ガァル!」

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 ガァルルは他の二人とは違い、「アイドルになりたくてもなれなかった少女たち」の負の集合意識がプリパラ内で実体化した存在であり、人間ではない。挫折した少女たちの思念体である彼女は、生まれながらにして歌も踊りも全くの不得手であり、文字通り「何も持っていない」少女だった。
 だからこそ、アイドルたちの放つ輝きの美しさとその裏側で流れた汗と涙の尊さを知った今のガァルルは、他人を妬まないし、自らを呪わない。今日という昨日をただただ真っ直ぐに歩み続け、明日という今へと至ったガァルルだからこそ、「今の自分が夢へと繋がっている」と、どこまでも実直に信じることができるのだ。

 しかし、事態はさらに予想外の展開へと動き出す。「時差のあるパリのプリパラ本部ではまだコンテスト締切時間の正午前である」というめが兄からパリ兄への意趣返しによって、あろまの考案したラブデビが新ブランドとして正式に採用されることになったのだ。あまりにもドラマチックで唐突な展開の連続に事態を飲み込めず、自らのキャラ設定も忘れて素の表情で呆然とするあろま。

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 だが周囲からの割れんばかりの歓声と、全国各地のアイドルが次々に自分の考えたコーデを着用する様子を見て現実を受け止めると同時に、その瞳には大粒の涙が浮かぶ。
 しかし歓喜も束の間。すぐにそれを拭うと、悪魔としての黒須あろまとして高らかに宣言する。「魔力があればなんでもデビる!」と。
そう、彼女はデザイナーである前に「ガァルマゲドンの悪魔アイドル・黒須あろま」であり、そして彼女の言う"魔力"とは、換言すると"仲間との絆"、それそのものなのだ。最高のタイトル回収、ガァルマゲドンに1000000点じゃ!!

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 第104話は、プリパラという作品において全体を通して静かに横たわっている「天才と凡人」「努力と才能」「夢と現実」というテーマと、キャラクターの魅力・関係性とが高い次元で織りなされ、比類のない構成力でまとめられた文字通りの神回……いや悪魔回と言って過言のない素晴らしい回でした。
 特にこの回は、あろまのキャラ造形が非常に深い部分まで掘り下げて描写されていて、皆と一緒にいる場面と一人でいる場面とで現れる表情や言葉選びの差異がとても丁寧に、繊細に描き分けられているのが印象的。

 なおこの後の105・106話もガァルマゲドンというチームにおける重要エピソードが続き、言わば本回は一連のガァルマゲドン・サーガにおけるほんの序章に過ぎない。恐ろしいポテンシャルを秘めたチームである。

 これはどうでもいい持論として、アニメは消費するものではなく消化するものであるべきと思っていて、一過性のトレンドとして風化させるのでなく、視聴後に自らの血肉となり行動原理をも変容させてしまうようなエネルギーを持った作品にこそ出会いたいなと思いながら日々鑑賞しています。
 プリパラやプリチャンはまさにそういった力を秘めている作品だと感じていて、だからこそこうして外部に出力することで作品に対する解像度を高めていきたいなと思っています。完全なる余談でした。


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オワリ。

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