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2019年6月の記事一覧

ただ憧れているかだけを。

ただ憧れているかだけを。

‪子ぐまに、#お洒落なオカマのキツネ が言った。いい?うたをうたう時は、評価を気にしちゃだめ。あんたが、きちんと混じり気なく、その美しさにただ憧れているかだけ気にしなさい。そうすれば、うたじゃなくて、その憧れが届く。たったひとりのひとに。‬

まっさらな憧れ。

まっさらな憧れ。



もう若くない男が言った。
わたしにひとつだけ
まっさらなものがあります。
わたしのうたです。
わたしのうたは憧れです。
美しい風景への、花への、
絵への、ピアノへの、
こころのきれいなひとへの、
まっさらな憧れです。
ふだんは喫茶雨という
薄暗い喫茶店の
いちばん奥にいます。

うまくいくことには、あまり価値がない。

うまくいくことには、あまり価値がない。

#お洒落なオカマのキツネ が言った。
最近うまくいかなくなった?
でもね、うまくいくことって
偶然の幸運のせいもあるの。
だから、うまくいくことって
あんまり価値がないの。
幸運が離れた時が
あんたの勝負どころだし
学べるし、成長できる時なわけ。
ラブラブハッピーなドラマ
つまんないじゃん。

紫陽花が夜に刺繍されていた。

紫陽花が夜に刺繍されていた。



‪紫陽花が、‬
‪夜に、‬
‪刺繍されていた。‬

‪今日、会社、忙しかった。‬
‪いちばん大変な‬
‪スタッフィングのことを何件か。‬
‪現実はままならなさがすごい。‬

‪紫陽花が、‬
‪夜に、‬
‪刺繍されていた。‬

紫陽花流星群

紫陽花流星群



‪紫陽花流星群が‬
‪キツネに言った。‬

‪さ、‬
‪大事なひととのお別れよ。‬
‪出会えた幸運に感謝しましょう。‬

‪さ、‬
‪大事なひとが繋いでくれた‬
‪新しいともだちが待ってるわ。‬

‪本当に‬
‪独りになった時にだけ出会える‬
‪本当のともだちが。‬

‪キツネは涙をぬぐわず前に進んだ。‬
‪紫陽花流星群が‬
‪たくさんにじんだ。‬

いのちってなに?

いのちってなに?

いのちってなに?
子ぐまが訊いた。
クマが答えた。
銀河の終点まで列車に乗ると
〝いのちの海〟に着く。
いのちの海に蒼い紫陽花をくべると
海が蒼く燃え上がる。
その蒼い炎を
夏至の列車が運ぶ。
きみの胸まで。

「シリウスの浅瀬、鳴き砂の銀河」
https://youtu.be/IeknVVFmjl4

ルルーシュ

ルルーシュ

闇の深い夜。
男は、ここはまるで
魂の暗がりのようだと思った。
ふと灯の揺らめきが見えた。
近づくと花屋だった。
女主人が言った。
夜だけ店を開けているの。
蝋燭を灯して。
朝になれば消えてなくなるの。
あなたの魂の暗がりにだけ
この花屋はあるの。

「ルルーシュ」

迎え火

迎え火

次は迎え火の授業だった。
先生が言った。
火には注意してね。
なにかを迎えることも
できるけれど、
迎えられてしまうこともあるの。
男の子はじっと火を見つめた。
次第に男の子は
うっすらとしてゆき
やがて消えた。
その晩は長く雨が降った。

「迎え火」

よぞらちゃん

よぞらちゃん

盲の老婆が少年に言った。
美しい青い雨のような
秘密を持ちなさい。
お前はこれから
いろいろなつらい目に遭う。
でもある時、女の子が
きれいな羽根の小鳥につけた
名前を教えてくれる。
その名前を大事にして生きるんだよ。
誰にも言わずに。

「よぞらちゃん」

図太さと共にありますように。

図太さと共にありますように。

‪明け方の紫陽花教会で‬
‪神父がひとりで祈っていた。‬
‪今日もすべてきちんとできなくても‬
‪生きてゆける図太さと‬
‪共にありますように。‬
‪かっこつかないまま‬
‪成長してゆけますように。‬
‪自分を最後に護ってあげられる‬
‪自分の最後の親友になれますように。‬

ライブのお写真と短篇でブックレットをつくろうと思います。

ライブのお写真と短篇でブックレットをつくろうと思います。



昨日のライブは、風と場所と光とひとと幻想が集まって、なんだか良いトラウマになってしまいました。お客様からお借りしたお写真と演奏曲にまつわる短篇、歌詞で構成したブックレットをつくろうと思います。

きちんと失う。

きちんと失う。



キツネは思った。
ものは朽ちる
風景は変わる
ひとはいなくなる。
なにかをつくることは、
よりよく生きることは、
失うことへの抵抗かな。
もしかすると、そうしてはじめて
自分のものになるのかも。
皮肉な話し。
きちんと失うほどに。
おれの中にそれはある。
キツネはボロボロと泣いた。

きれいなうたは。

きれいなうたは。

子ぐまが訊いた。
きれいなうたは、
きれいに生きるひとが
うたうものなの?
クマが答えた。
ちがうよ。
きれいなうたは、
ひとつもきれいに生きれないひとが
唯一その中でだけ
解放されるものだよ。

夏を越す花々をかきわけて。

夏を越す花々をかきわけて。



‪キツネは思った。‬
‪おれは、ほんとうは、‬
‪きれいな写真を撮る資格がない。‬
‪きれいなうたを歌う資格がない。‬
‪自信や光や信仰は続かない。‬
‪ぶれていびつで失敗ばかり。‬
‪感情がうずまき‬
‪いつまでも大人になれない。‬

‪でも。‬

‪進むしかない。‬
‪繰り返しつぶやく。‬
‪進むしかない。‬
‪夏を越す花々をかきわけて。‬