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短いおはなし7

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2018年4月の記事一覧

野原をつくる。

野原をつくる。

‪クマが子ぐまに言った。ターシャテューダーが先生さ。野原みたいな自然な庭をつくる。でもね、ひとつの花がその場所でうまく咲くまで12年かかった、って。その間、土の酸性度とかを調整して試行錯誤したって。いいかい、自然に生えてくる幸福なんてひとつもないよ。幸福は無から自力で咲かせるのさ。‬

どこか外国のカフェで。

どこか外国のカフェで。



‪キツネは夢の中で外国のカフェにいた。ポルトガルとかアルゼンチンとか。老人がいて店主の女の子と話していた。やがて老人が古いギターを持ち。わからない言葉でうたいだした。そのうたの間、キツネは旅をした。苦く甘く悲しくうれしい旅。店主の女の子がサービスですと、ブラウニーをくれた。‬

ありがとう。人生の痛みを。

ありがとう。人生の痛みを。

バラがクマに言った。もうすぐあなたに恋しい気持ちがやってくる。その次に固執の気持ちが、その次に憎しみがやってくる。そして最後に無関心になる。クマが言った。全部うたにするよ。どうかしそうな美しいメロディで。君のこともうたにする。ありがとう。出会ってくれて。ありがとう。人生の痛みを。

写真は。

写真は。

‪子ぐまが聞いた。写真は、それをとどめて永遠に楽しむもの?クマが答えた。ちがうよ。それがとどまらないことに、胸がつぶれそうになりながら、焦燥を美しさに反転するものだよ。‬

いい映画。

いい映画。

‪キツネは休日、古い小さな映画館を偶然見つけた。キツネは知らなかった。そこは観る者の人生を上映する映画館だった。主人公はいい時もあったけどいまはいろいろ失って、いろいろ上手くいってない。けれど自分の足元を見つめ、より良く生きようとしていた。キツネは観終えて思った。いい映画だな。‬

おかえり。

おかえり。



‪子ぐまが聞いた。いちばん価値のあるものってなに?クマが答えた。ただいまとおかえり、だね。みんな、ただいまとおかえり、を手に入れるために、苦々しく長い旅をしているのさ。翌日子ぐまが傷だらけで帰って来てちいさな声で言った。ただいま。クマが言った。おかえり。‬

つるさがる木馬の下で。

つるさがる木馬の下で。

‪クマは、まだなんだかわからないものをともだちと一緒につくった。わからないものができあがる楽しさは蜜の楽しさ。わからない方が面白い。全部を知りたくない。失望されながら、センスのないことを何度も思う。生まれて来てくれて良かった。つるさがる木馬の下で。‬

好きは依存?

好きは依存?

‪子ぐまが聞いた。好きは依存?心は変わる?人生は無情?クマが言った。悩んだ時は?をジェラートの絵文字に変えてごらん。好きは依存🍧心は変わる🍦人生は無情🍨こだわりジェラッテリアのメニューみたいだろ。3つオーダーするとMIXにしてくれる。はじめ甘くて後で後悔する。でもまた食べたくなる。‬

今日ぼくをふちどる花は何?

今日ぼくをふちどる花は何?

‪子ぐまにクマが言った。君が嘆いていても、調子悪くても、上手くいかなくても、君を、君の日々を季節の花がふちどっている。花のふちどる中で君の苦々しく愛らしい物語が進む。子ぐまが聞いた。今日ぼくをふちどる花は何?クマが答えた。花びらを赤くふちどるアザリアだね。‬

目を閉じてその音を聞く。

目を閉じてその音を聞く。



真夜中の病院で女の子は目を覚ました。でも目は閉じていた。長い廊下をメンデルスゾーンを口ずさみながらキツネがやって来た。キツネは花瓶の水を換え新しいすずらんを生けた。女の子は目を閉じながら、その音を聞いていた。幸せな気持ちになった。キツネはしばらくそばにいた。女の子は深く眠った。

ライブ、定員まじかです。

ライブ、定員まじかです。



‪4月28日の庭のお茶会とライブ、ありがたいことにお席うまりつつあります。ふだん庭の光を浴びてできたうたを庭の光を浴びたあとに聴いていただきます。よい香りのすずらんのおみやげ付き。いつものようにミニ冊子もご用意。今回の冊子はかなり良いのかもです。こっそりお出かけください。‬

コトリと花を。

コトリと花を。



晴れた日、キツネは思った。あのひとから少しずつ自由になれてきたな。キツネはざわつくこころの奥の部屋に、ちいさな花を、コトリと置いていた。こころがざわつくと、その奥の部屋に戻って、椅子に座って花を眺めた。水を取り替え、少しずつ花も入れ替えた。ちいさな花はキツネの教会だった。

たぎる生の実感。

たぎる生の実感。

クマは思った。芽吹きを待つ冬は幸福だ。春の庭に花が咲くということはまもなく花が終わるということだ。だから春の庭は死の予感に満ちている。死の予感に満ちた庭で感じるのは、たぎる生の実感だ。死に近いものほど艶めかしい。庭は死のそばの艶めかしい音楽。ぼくもそんな音楽や写真をつくりたい。

木の根元に。

木の根元に。

‪おれは誰かに認めて欲しかった。キツネは思った。認められないとふてくされて殻を閉じた。誰であれ内容がなんであれ認められれば嬉しかった。否定されると落ち込んだ。自分に過保護だった。キツネは「自分」を木の根元に埋めた。身軽になった。身体に風が吹き抜けた。キツネは生きることに専念した。‬