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短いおはなし7

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2018年3月の記事一覧

足元を指差して。

足元を指差して。



‪庭の手入れをしているクマにキツネが言った。おれはひどいやつさ。自分ばかり肯定している。悪い風にばかり考えてしまう。本当は丁寧でも誠実でもない。クマがキツネの足元を指差して言った。そこ。すずらんの芽が出てる。キツネはさっと足をよけた。クマがキツネにゆっくりと声をかけた。ありがとう。‬

最期の夢。

最期の夢。



‪フランケンシュタインが言った。サイゴニキミノユメヲミタイ。私は映画を撮った。朝の広い海岸で私がなにかを探している映画。映画を見せに行ったら、フランケンシュタインはいなくなっていた。今でも、私は海岸でなにかを探している。フランケンシュタインの最期の夢が続いている。#エルスール‬

私の海は晴れている。

私の海は晴れている。

否定され、断罪されたらどうする?見捨てられ、ひとりきりになったらどうする?それでも、今日も、私の命の海は晴れている。無闇に美しく、無慈悲に自由に。水はひらめきつづけ、風は逃げつづける。うたいたくない日はうたわない。知っていることばは、スイヘイセン、だけ。#エルスール

その小屋にフランケンシュタインはいなかった。

その小屋にフランケンシュタインはいなかった。

その小屋にフランケンシュタインはいなかった。盗賊が墓を暴くと三日三晩雨が降り、麦が青々と喜んだ。彼は言葉が壊れていてまつ毛が綺麗だった。一緒にエルスールに行く約束は?麦をかき分け盗賊の馬車を盗んだ。砂は重く春はイライラした。で。どこ?あたしのフランケンシュタインは。#エルスール

ご感想モーメント、更新しました。



去年、尾道、京都、神戸、大阪、浜松、名古屋、上田、東京。手作りの本をどっさりと入れた紙袋を両手にさげて本屋さんをめぐりました。ほどなく手にされた方からご感想が。眠る前になでる本。光に透ける魔法付き。についてのモーメント。夢みたいなモーメント。たぶん、動けば、出会える。

ご感想モーメント。
https://twitter.com/i/moments/862153779923132417

音楽はどうやってつくるの?

音楽はどうやってつくるの?

子ぐまが聞いた。音楽はどうやってつくるの?クマが答えた。音楽はつくるものじゃないよ。もうあるものだよ。好きなひとのことを思い浮かべてごらん。そのひとの髪の色、まぶたの色、歩き方、考え方、肩のかたち、沈黙、声のトーン、癖、くち癖、選ぶ服。ほら。音楽だろ?

へんてこ。

へんてこ。



‪子ぐまが言った。僕には何もないよ。クマが言った。何もないひとなんていないさ。君の魅力は、君を好きになるひとしかわからないへんてこなところさ。君にすらわからない。だから君は、君を見捨てないで、こつこつ君の庭をつくるべきだね。君自身と、なんだかここ落ちつくわ、という子のために。‬

よい一日を。

よい一日を。



‪クマは花と光を見ながら思った。‬
‪よい一日を。‬
‪今日お休みの方も。‬
‪今日お仕事の方も。‬
‪ちいさな美しさに‬
‪気づけますように。‬

きれいな言葉がちょうどよく汚れる。

きれいな言葉がちょうどよく汚れる。

嵐で落ちた花びらが
春の泥にまみれたら
手紙に入れる
きれいな言葉が
ちょうどよく汚れる

いちばんの贅沢ってなに?

いちばんの贅沢ってなに?



子ぐまが聞いた。いちばんの贅沢ってなに?クマが答えた。刺激を受けるともだちがいることさ。ちょっとへこむくらいの。ちょっとあせるくらいの。そういうともだちは、木片が芯の蝋燭の音と、みずみずしい苺くらい、贅沢だね。

雨の日の人魚。

雨の日の人魚。

‪海辺の町。雨の休日。人魚がカフェでお茶を飲んでいた。台湾のお茶が入ったから。と店の主人。しばらく貧しい正解と豊かな嘘について話した。店を出ると雨の中に春の海が薫った。潮の流れに身をまかせるあのふくよかな感覚を思い出しながら、踊るような気持ちで雨の中を歩いた。#WorldStorytellingDay‬

ムスカリのところを曲がれば。

ムスカリのところを曲がれば。

クマが招待状を書いていた。お忙しいと思いますので夢の中でもかまいません。春の電車で海の駅まで。海岸行きのバスを降りたら、ムスカリのところを曲がれば、庭に着きます。庭にはあぜ道があって春の朝露で靴が磨かれます。素敵でしょ?目が覚めたら玄関にはきっと、磨かれた靴と春の朝露が少し。

一緒に独りで。



クマは夜中に紅茶を淹れた。しんとした独りの時間。敬愛するジャズシンガーの女性がくれた紅茶。ライブをさせてもらった本屋さんで買ったカード。参加した花屋さんのイベントのお礼のカード。うさぎのお菓子。蝋燭。好きな画家さんがつくった旅行の本。クマはみなさんと一緒に独りのまま紅茶を飲んだ。

いつかパンの隣に。



終点で目を覚ました若いキツネに、ボブディランの車掌が予言した。あんたはいつかこころあるCDをつくる。こころあるパン屋の主人がパンの隣にCD、と札をつけて並べてくれる。こころあるひとが手に入れてくれる。あんたに、ミスタータンブリングマンはつくれない。でもおれにあんたのうたはつくれない。