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渦中から君へ12

寝かしつけで撃沈する。

21時には3人で寝室に入り、みおさんはそのまま君と寝ちゃう。
ぼくは君が寝たら寝室を抜け出し、ランニングをするか、ゲームをしたり映画を見たりするかして夜を満喫する。
それが理想的な夜のあり方なのだが、実際はそううまくいかない。飲まずにランニングするときは大丈夫なのだが、お酒を飲んでしまった状態で暗闇に横にならなきゃならないというのはけっこうな試練だ。とくに最近は日本酒をやっちゃってることが多い。何度か訪れている長野から取り寄せている地酒がうまくて、その四合瓶をみおさんと空けちゃったあとに生き残るというのは覚悟と努力が必要だ。

その日本酒について触れておこう。
君もすでに2回、黒姫高原にあるペンションにお世話になっているのだけれど、こんな状況なので当然そこもいまは休業中。
そこは料理もおいしいのだけど、そこで飲んだ日本酒もとてもおいしくて、それを取り寄せることはできないかしらとみおさんと話していたのだ。
すぐにみおさんがペンションに連絡し、酒屋に取り次いでもらった。そうしてうちに届いたのが「大信州」という銘柄のお酒だった。
これはなんでも冬の間に雪の中で冷やして作っているんだそうだ。雪で冷やすのに意味あるの?って思うのだけど、雪の中は冷蔵庫よりも温度が安定するために味も安定するのだという。
実際に飲むと、とってもフルーティでスパークリングワインみたいな飲み口。あまりものおいしさにすぐに再注文したのだけど、そのときのその酒屋さんの話では今年は本当にできがいいのだけど、なんせ観光客がいないので大量に売れ残っていて悔しいということだった。
こんなにおいしいのに残っているなんてもったいない。ということで3本も注文し、弟にもあげた。さらに日本酒が好きだという知り合いにも紹介した。本当においしいお酒が酒屋の中に眠っているというのは想像するだけでも勿体ない。
仕方ないのでこれからも飲んで応援するしかないと思っている。

ぼくが農業をやっている間に君と一緒に過ごしているばあば曰く、最近は前ほど外に出たがらず、室内で過ごすことが多いらしい。
ぼくが仕事から戻ると、ばあばと一緒にカレンダーの裏に描いた絵やハサミで切った紙切れなどがテーブルに散らかってたりする。
数週間前、君はばあばの寝室に入り、枕元の本棚を物色している中でミッキーマウスの柄のファイルを発見。君は「ミッチー」と連呼しながら欲しがったので、中身を取り退いてしまって持たせようとファイルを開いてみた。するとそこにはメモが書かれた数枚の紙とともにわりと重みのある白い封筒が。封筒の中を覗き込むと案の定そこにはお札が数十枚。それじゃ持たせるわけにはいかないので君にはミッチーを諦めてもらい、ばあばにそのことを報告した。すると予想通りばあばはその現金の存在に気づいておらず、あとで確認したところ十万円以上もあったらしい。しかしそれがなんのお金なのかは記憶にないんだそうだ。おかげでぼくらはばあばに焼肉屋のテイクアウトをおごってもらった。

君はお札にはまだピンと来てないけれど、コインは大好き。ぼくやみおさんが財布をいじっているのを見ると「おかねくだしゃい」と言ってくる。家の中に落ちてた百円玉を見つけたときも「じゅーちゅ」と言って玄関へ。アパートのすぐ脇にある自販機に行ってジュースを買いたいというわけである。お金というよりも、自販機やガチャガチャにお金を入れたい年頃らしい。そんな君は今日もばあばがリビングの棚の奥に隠していたポストの形の貯金箱を発見。君はそれを見てすぐに「おかねおかね」と言い出したので、ばあばはなんでお金が入っているとわかったのだろうかと驚いていたよ。まんまとそれを手にした君は底にある取り出し口に気づき、入っていたコインを全部テーブルの上にぶちまけた。するとそこには五百円玉などもたくさん含まれていて、ばあばは「なんか思ってたよりもいい金額になりそう」ともらしていた。もしかしたら今週末はまたいいことがあるかもしれない。

今朝もまたベランダで遊んでいたら階下の家主さんが君に声をかけてきた。
相変わらずお孫さんに会えていない彼は、お孫さんのために小さな砂場を設えていた。自分で枠板などを買ってきて作ったらしい。緊急事態宣言が近日中に解除されるらしいので、そしたら名古屋まで車で会いに行くつもりなのだという。とてもうれしそうだった。「他県のナンバーだといじめられるらしいけどね」と笑ってたけど、まあそんなことをするやつはよっぽどだと思いたい。
もうすぐ君も誕生日なんだけど、東京のじじとあーちゃんに会えるのはそれより先になるのかな。

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