男性ブランコ単独公演「駐車場」を3回観に行ってみたら
男性ブランコの単独公演「駐車場」が完結した。東京は池袋での公演からスタートし、京都、福岡を巡って最後は上野でフィナーレ。
前回、上野の国立科学博物館で行われた単独公演「嗚呼、けろけろ」は残念ながらチケットにご縁が無く、行けなかった。その悔しさから今回はエイヤッと申し込んだ結果、池袋で2回、上野で1回、計3回公演に行くことになったのである。
舞台が好きな友人たちの話を聞くに、同じ舞台を複数回観に行くのはよくあることらしい。よく……あるんだ……?
とはいえ男性ブランコのお二人が作る世界なのだ、3回観てもきっと毎回同じように最高だろう。楽しみ〜〜!
……と思っていたが、考えが甘かった。
3回観たら、もう一度観たくなるのが男性ブランコの作る世界なのだ。エンドロールを眺めながら自然と「まだ観たいな、3回じゃ足りないや」と心の中で呟いていた。
そうでした、そういう人たちでした。だから好きなんでしたわ。
ということで、以下、自分のための備忘録を兼ねた感想の書き散らしです。たんまりとネタバレを含みます、ネタバレだらけです。あとパンフレット未購入なので、細かな表現は異なるかも。記憶で補っています。
ネタバレを避けて、ザックリした総括だけ読みたいなという方は目次の「余韻話」までピョイッと飛んでください🐇
……ていうか、目次にした各演目のタイトルからしてめちゃくちゃいいな?( 「余韻話」だけ合わせたくて、自分で考えました )
ぜひ観て〜というよりは、「ほんっっっっとうに最高でしたよね?!?!」と前のめりになりながら同じ感動を味わった人と共感し合いたいような、そんなやつです。では始めます!
停まれども停まれども、コントはまわる くるくる
まわる。
医者話
浦井さんが、平井さん演じるクセの強い医者に当たる/そのときの災難話を浦井さんと平井さんがする、という一本。
「お口あんぐりくださる?」「扁桃腺が仕上がっちゃってる」など、初っ端から平井語に溢れている!
以前の公演「やってみたいことがあるのだけれど」同様、役の移り変わりを洋服の脱ぎ着で表すところがお洒落。それもバサバサと脱ぎ変えるのではなく、ピタリと長い静止の後、クルリとふたりモチーフの周りを旋回するようにしながら白衣を羽織るのだ。その美しさといったら。
全体的に、サムネイルにした開場前の舞台の状態から、その一本ずつに応じてメインとなるモチーフをお二人がゴソゴソ動かして話の切り替えを表現していく。モチーフにちょこんと腰かけたり、肘をついたり、見上げたり。どれも丁度いいサイズ感で、美術さんのプロの仕事を感じた。
「話、……盛った?」
「嘘つきは泥棒の始まりっていうから……」
平井さんの表現、極端!と笑っていた、このやりとりがのちのち効いてくるなんて思わなかった。
ちなみに上野の公演では池袋の公演には無かった「俺ん血パーティー( ゆらゆら♪ )」「揺れんな( 怒 )」みたいなやりとりが加わっていました。本当にパーティーするやん。
心中察
平井さんが演じる心優しき領主であるお察し丸様と、その土地で農耕を営む浦井さんのやりとりを描いた一本。
二人して裸眼でやっているのでほとんど見えていないらしいのに、そのわりに動きが多い。3回観たけど、見えていないことには気付かなかった。( 終わった後のインスタライブでお話しなさっていた )
大掛かりな舞台セットがあるわけではないのに、鳥のさえずりや広い農地の風を感じる不思議。お二人の演技力ゆえなのだろうな。
「みんながお察し合える世の中にしたい( 意訳 )」という平井さんのセリフ、平井さんらしいな〜〜としみじみ思った。優しい平井さんが作る、優しい世界のコントだ。大爆笑!というより、ずっとあたたかな気持ちが続いて、ふふふ、ふふっ、と笑ってしまうような、優しい時間。
待時間
駅員さん( 平井さん )と、未来から来たAI搭載人型お掃除ロボット( 浦井さん )が出会うという一本。
「網棚にモップをギチギチに5本詰めて忘れていった人」を駅員さん達が仲間内で「モップ男」って呼んでるの、リアルに想像できて笑った。
「人間みたいにって。……人間の何が良いんですか( 意訳 )」みたいなことを浦井さんが言うのだけれど、た、たしかに……と思う。設定上、未来のAIは人工知能が発達し、感情や味覚を理解し、やりとりがスムーズになる。それでいて人間みたいになることに、何の魅力が?AIのほうがエラーも起こさず、パフォーマンスにムラもないというのに?優しく、クスッと笑えるやりとりの中で考えさせられた。そんな未来から来たAIの浦井さんは「こんなふうに、待ってくれている人がいる」ことを、人間にしかできないことだと言う。
上野で観たときは池袋の時と違い、浦井さんが平井さんの足を( 掃除機として搭載されている力で )吸い、「あぁっ……!……綺麗になった……」と平井さんがつぶやくシーンがあった。お掃除ロボットみが増していてとても良い。
あと他の方のSNS曰く、話の中に出てくる映画チケットもただの白紙ではなくきちんと印字されているらしい。どこまでも細やかだ……
物物語
個人的にもっとも好きだった一本。
持ち込んだその物が持つ物語に金額をつけるという質屋の話。平井さんがそのお店の女主人で、浦井さんがそのお店に買い取ってほしいものを持ち込むお客さん役である。
「幼くして離れた父との思い出が詰まっており、鳴らなかったらどうしようと開けられずにいる」オルゴールは、別の人から借りパクしてきた物だし、手に渡ったふたりは必ず別れてしまい、何度も店に戻されてしまう「不幸なネックレス」と呼ばれし装飾品はまだレジを通していない。そう、感動的な話に見せかけて単に浦井さんがサイテーな客である。苦労人かつ善良そうな見た目とのギャップ!
個人的に、平井さんのお姿にこだわりをヒシヒシと感じた。女店主役の平井さんは、ウィッグを被らない地の長さそのままの髪に、スラリとタイトで深い緑が鮮やかなドレス、モスグリーンのピンヒールに、小さめの丸いサングラスという出立ちだった。
それがもう、べらぼうにお似合いなのである。
抜群のスタイルに合っているのは言わずもがな、感動したのはピンヒールだ。わたしが歩くにもカポカポ、ガゴガゴと、マヌケな歩き方になってしまいそうな、高さのピンヒール。お芝居のしやすさだけで言えばきっと、もうすこしローヒールのもの、或いはいっそフラットな物が良いはず。
でも分かる。平井さんが演じるその方は、絶対にその靴を選ぶ。低いヒールの、歩きやすい靴なんて履かない。
スタイリストさんが付いているであろうとはいえ、演じる人に人生ごと乗っかるような彼らの姿勢に惚れ惚れした。
池袋で見たときは平井さんが「往( 去 )ね!!!」とぷんすか怒っていらしたけれど、上野では「失せやがれ〜〜!!!」と追い払っており、細かな言葉の表現もアップデートされていくんだな……と感動した。あと、歩くのがとっても遅いという設定でありつつ、「ダッシュ!」とチョコマカチョコマカ走る姿が追加されていてときめいた。カワイイ。
( 情報を後追いするに、ルミネなんかの寄席で改変したものを演るようになっていらっしゃるそう。また観たい〜〜!!! )
額装雨
雨の日に、「絵を見てから額を作る」額装屋さん( 浦井さん )を美大生( 平井さん )が訪ねるという一本。シチュエーションがまずお洒落すぎる。
インスタライブでお話しなさっていたけれど、平井さんが「嗚呼、けろけろ」の絵を額装したいとなったときにご紹介いただいた、実際の額装屋さんがモデルとなっているそう。
ドラマのワンシーンのように、美しく流れゆくなかに「……熱いお茶は好きか?」「……好きです!」「そうか、俺もだ。」「聞かれただけだった……」みたいに、クスッと笑えるシーンが散りばめられている。
多くは語られていないけれど、きっと学生時代に額装屋さんが片思いしていた、美大生のお母さんはご病気が何かで先が短いのだろう。だからこそ、「窓を作る」のだ。息子の絵と、「一番だ」と話す額装で。美しい話。それでいて、えぇ……?と、笑いながら気が抜けてしまうような最後が良かった。
地域祭
何かの罪を犯して或る祭りの手伝いに召集された浦井さんと、その祭りの運営役である平井さんが掛け合う一本。「一つ眼モグラ様」こと目がひとつしか無いモグラが神様として祀られており、そのお祭りの準備に駆り出されるのだ。一つ眼モグラ様とは?何を食べて生きながらえるの?みたいな話がどんどん進んでいく。
公演における、今回の「ヒヤッと回」( と勝手に呼んでいる ) がコレ。
前回の「やってみたいことがあるのだけれど」では「ちゅうしゅっちゃん」がコレに当たると思っている。微ホラーというか、世にも奇妙な物語的テイストだ。ほわほわの中にヌ……と混ざる奇妙さ、不気味さ、狂気みたいなものが来るとゾクリとする。
嫌なほう、嫌なほうに勝手に想像を膨らませた結果、どんどん本当に嫌なほうへ事実が向いてしまうというのは実際もよくある話。ハラハラする展開に、こちらまで息が浅くなる。
「医者話」に出てきた、「話を盛るのは嘘つき」「嘘つきは泥棒のはじまり」からの「罪人」というやりとりが、ここでキいてくる。ふ、伏線回収ここで来るかー!!!!
フィナーレ
そしてここで、「医者話」のときに災難話をしていた二人に戻る。これまで同様、作品のモチーフとしてそれぞれコントの度にゴトゴト動かされていたものはひとつに組むようにして並べられていた。
地域祭りから一週間後、「ここだったはず」と訪れた場所は、「土がすっごく柔らかくて」「どんどんどんどん掘り進められた」というのだが、そんな跡形は微塵もなく、駐車場になっている、という話だ。
「……また話、盛った?」
「盛ってないってー!!」
そんなふうにやりとりをしながら彼らが捌けた後、舞台が暗転し、カッ、とプロジェクションマッピングで映し出されたのは、先ほど組み立てられたモチーフ。なんと、一つ眼モグラ様の形をしている!
初日に池袋で観たとき、全員が感嘆を漏らしたのではと思うほど「わあ……!!!」とあちこちから思わず出たという感じの声がして面白かった。まあ、もちろんわたしもその一人なのだけれど。
余韻話
最後に公演を観た日から、もうすぐ一ヶ月が経つ。余韻に浸りながらチマチマ書いていたら、あっという間に時が流れてしまった。それでも、今もなお余韻には浸り続けている。雨が降るとウンザリしながらも「良い額が作れているかしら」と思うし、掃除機を使うたびに「未来のお掃除ロボが早く導入されないかしら」と思う。気付けば日常の中に、彼らの世界観が繋がっている。
違うところにも書いたけれど、男ブラの公演は「コントライブ」というより、舞台だと思っている。もっというと、観劇でありながら、映画のようだし遊園地のアトラクションのようだし小説みたいだ。普段TVや寄席で観る彼らのお笑いや、インスタライブで見る楽しそうな二人の会話ともまた違う。
賞レースでウケるかは正直分からない。ドカンと笑えるというよりは、しみじみと心に響いて豊かにする。他のコントもそうだ。笑って泣いてしまうようなネタが沢山ある。でも今の彼らが好きだ。彼らが面白いと思うものを、やりたいと思うことをのびのびやっていてほしい。わたしはそれを好きなだけありがたく享受するだけなので。
コントは続く、日常も続く。
まだわたしは、変わらず彼らの世界を愛でていたい。
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