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#1 留学前夜、初めての欧州、初めての英国 30代からの英国語学留学記 2018年2月11日

留学前夜、英国までの長いフライト


最後の夜は上野のカプセルホテルで


実家の仙台から直接成田空港へ向かうのは物理的に不可能であったため、前日は上野にて一晩過ごす。ビジネスホテルではなく、敢えて前職の頃常宿としていたカプセルホテルダンディで日本での最後の夜を過ごす。
ダンディのフロントにデカいスーツケースを預けるのは異様な経験

初っ端から無茶苦茶な滑り出しであるが、こんな自分にも大学の後輩であるBが一緒にダンディにも泊り、態々成田空港まで見送りに来てくれたのは感謝しかない。

13時間 ブリティッシュエアウェイズによる快適とは呼べない旅


前日はしこたま二人で飲み、二日酔いも残った状態でブリティッシュエアウェイズによる13時間強のフライトに臨む。
機内では社会人成りたての頃、自己研鑽へのやる気があった時期に御布施したアルクのヒアリングマラソンの残滓である英単語帳を読み、英国での好調な滑り出しを期したのだが、途中でやる気がつきてしまい、ダラダラと機内エンタメサービスに耽る。

リメイク版のオリエント急行殺人事件を見たのだが、まさかの日本語字幕吹き替えなし。これも英語力を鍛える経験と思い頑張ってちゃんと聞き取れているとは到底思えない。古典故に内容自体は知っていたので、何となく内容は追えるのだが、こんな状態で英国で半年生きていけるのか不安に苛まれる。

その後、只管睡眠を取ろうと試みるも、元々乗り物で眠れない体質であり、全く眠れず。
今まで半日以上のフライトは殆ど経験した事がなく、中々時間が消費されないのが辛い。

通常、レガシーキャリアに乗る際は無料サービスであるアルコールを只管取って悦に浸るのだが、今回は観光ではなく、一応人生を変えるための決断、ということもあり、がばがばと一人で酒を飲む気持ちにはなれなかった。

果たしてこれで俺はよかったのだろうか、と長い長い英国までの機内で後悔にも似たネガティブな感情に包まれる。
まだ現地に着いてすらいないのにネガティブな感情に支配される。

時間のかかったイミグレとホームステイ先への道


ヒースロー空港のイミグレーションは審査が厳しい


あれこれ悩んでも時間が経てば飛行機は目的地に着いてくれる。
人生初の欧州、それも自分が昔から憧れていた英国にようやく到着。

異常に待たされることで悪名高いロンドン・ヒースロー空港のイミグレーションを初体験。噂に違わず1時間以上待たされた。観光ではなく、一応語学留学目的で長期滞在するせいか、入国審査官の質問もしっかり質問をしてくる。留学斡旋業者から事前にレクチャーを受けていたとは言え、結構シンドイ。

滞在先のホームステイ先の住所と連絡先、語学学校の入学通知書を見せてもあれやこれや質問してくる。何故イギリスで半年間も英語を勉強するのか、という細かい質問まで浴びせられたのは参った。
ビザ無し滞在できる期間6か月ギリギリまで滞在する、という事情もあり、不法滞在目的と怪しまれたのかもしれない。
Because I'm an Anglophile!  と露骨な媚びの姿勢を見せる身も蓋も無い回答でお茶を濁す。

今までは最強と言われる日本のパスポートでイミグレでは何不自由なく突破できただけに、審査官との5分程度やり取りを精神を削られた。結果的に別室送り等の処置はなく、無事入国は認められた。いやいやよかった。

人生初のブリテン島

イミグレ突破後は斡旋業者に依頼していたタクシーでホームステイ先のオックスフォードへ向かう。150ポンドとかなり高い運賃であったが、初っ端から躓くことは避けたかったからである。

今までの海外旅行の場合、空港で手配したタクシー業者で碌な経験がなかったのだが、流石G8の一員である英国だけあり、タクシードライバーのお兄さんも愛想が良い。
料金は業者を通じての前払いであり、後ほど法外なチップを要求されるのではないかと懸念していたが、杞憂に終わる。無事目的地であるオックスフォードまでたどり着けた。

道中は、タクシーの車窓で憧れの英国風景をただただ堪能。
イギリスに限った話ではないのだが、空港周辺は辺鄙であり、工業団地と田園風景がただただ続くばかり。

だが流石欧州ブリテン島、日本とは明らかに植生が違う。現地人にとっては何の変哲もない退屈な光景かもしれないが、極東の島国から来た30代のアジアンにとっては新鮮に感じる。

1時間程度タクシーに揺られようやくホストファミリーの家に到着。事前にグーグルストリートビューで家周辺は確認していたが、かなり年季の入ったレンガ造りの建物であった。しかも一軒家ではなく、壁を共有して水平方向に全く同じ造りの建物が連なっている。これはまるで長屋ではないか。レンガ造りの長屋とはこれ如何に?

後で知ったことではあるが、英国ではterraced house(テラスハウス)と呼ばれる形式の集合住宅で、特に珍しいものではなく一般的な形態とのこと。労働者階級向けではあるが、極端に貧困層向けというわけではないらしい。

写真を取り忘れたのでグーグルストリートビューより


ホームステイ先で早速躓く


呼び鈴が無いってどういうことよ?

意を決してホームステイ先へ。
古い家だからか呼び鈴のようなものが全く備え付けられておらず、ハローと言いながらドアをノックし、扉が開くのを待つのは地味に精神を削られたが、にこやかな笑顔でホストファミリー夫妻は僕を迎えてくれた。

50代の白人女性のキャリーと、その夫である黒人・白人ミックスのポール、そして高校生くらいの娘がここオックスフォードでの僕の家族である。

第一印象は良く、親切そうであり、外国人と過ごすのも慣れているようで、あれこれと生活する上で必要事項を説明してくれたのだが、早速問題が発生。

ホストファミリーの英語が全く分からない


訛りが極めて強い!
今まで聞いたことがない音を発してくるのである。
数字ですら聞き取れない!

イギリスは地域毎に、そして階級毎に独特の強い訛りがあると知識では知っていたが、ここまで全く分からないとは思いも知らなった。
しかもオックスフォードはイギリスでも標準的な発音に近い地域である、と聞いてはいたが、彼らは労働者階級だからか、それとも元々の出身がオックスフォードではないからなのか、全く聞き取れない。

一応学生時代にバックパッカーで東南アジアを回った際、英語でのコミュニケーションで極端に困ったことはなく、他の外国人旅行者と交流もできたし、前々職も仕事で何度か外国の方々と英語でやり取りをしていたので、必要最低限のやり取りにはそれなりに自信はあった。

だがここまで全く相手の英語が分からないとは!

幸運な事に、こちらが話す英語は何とか通じているようだったので、こちらから話題を提供し、何となく雰囲気と文脈で理解しようと試みるも、相手の言葉が単語一つすら聞き取るのが困難な状況。
相手はこちらの英語能力等を一切気にすることなく、地元民同士で会話するのと同じノリで話をしてくる。

これは困った。本当に困った。

想定外だった土足禁止ルール

雰囲気だけで何となくコミュニケーションを取っていたのだが、想定外の事には(当然ながら)全く対応できない。

早速、限界が来て、やらかしてしまった。
それはこの家のルールが土足禁止であることを知らず、土足で30分ほど家の中を歩き回ってしまったことである。


欧米では室内でも土足が普通、という先入観を持っていたのだが、この家は日本のように家の中では完全土足厳禁であったのだ。

これは後で知ったのだが、イギリスでは家庭によって土足に関するルールがマチマチらしい。英国と言えば高級革靴の本場であり、寝るまで土足が普通だと勝手に思い込んでいただけにこれは予想外だった。

見苦しい言い訳になるが、そもそもこの家はドアを開けると即フローリング張りのダイニングがお出迎え。
靴を脱ぎ気するようなスペースが全くなく、それに靴箱すらない。そりゃあ土足OKだと思うのが普通じゃないか。

ポール父さんが柔和な笑顔をしながらも靴を脱ぐよう、激しいジェスチャーでアピールするまで、土足禁止であるとは夢にも思わず。

開始20分で早速平謝り。

相手も外国人の受け入れに相当慣れているようで笑顔で許してくれたが、初っ端からこんなトラブルがあると気持ちが萎えてしまう。


同居人との邂逅

その後、色々と食事の時間帯、お風呂の入り方とルール、ごみの出し方、家庭用WI-FIのパスワード、外出に関するルール、洗濯へのルール等色々教えてくれたのだが、断片的にしか理解できず。

断片的な理解でも身の回りのことは何とかなるのだが、明日の学校への行き方が全く分からなかったのが致命的。
一体どうやって学校へ行けばよいのだろうか。

割り当てられた自分用の部屋、一人暮らしを始めた息子の一人が使っていたらしき、シングルベッドと机とクローゼットしかない六畳程度のシンプルな部屋でひとり途方に暮れる。
しかも教えてもらったWi-Fiも何故かパスワードが通じない。困った時、7いつもネットに頼っていた自分であるが、そのネットが使えない。

異国で独りきり、という心細さに、早速初日から苛まれるというのは情けないことこの上ない。

小さいシングルベットの上でゴロゴロしながらネガティブな感情に支配されていると、突如キャリーさんから呼び出しがかかる。
ぶっちゃけ自分の名前以外何を言っているのか全くわからなかったのが、部屋を出て、声のする方向へ向かう。
例の玄関直後のダイニングにたどり着くと、見知らぬ若い男が二人がニコニコしながら僕を待ち構えていた。

このホームステイ先には僕以外にも二人の外国人が語学留学のため滞在していたのだ。

ホストファミリーは事前にその説明をしていたらしいが、そんなことは夢にも思っていなかったため、リスニング能力が欠如している僕には全く理解できていなかったのだ。

一人が立ち上がり自己紹介をする。
丸っこい20代のアラブ人風の男。
彼もアラブ訛り?が強く、全く何を言っているのかわからない。

後で分かったのだが、サウジアラビア人のアブドゥル、という人らしい。
速射砲の如く色々と話をしてくるのだが聞き取れない。Rの音がやたらハッキリしており、長母音と短母音の区別がない感じ。

そうなるとヘラヘラと笑顔でお茶を濁すことしかできない。
非ネイティブと英語で会話ができない、なんて今まで一度もなかった。これはショックだ。
今思うと、前述の件があり自信を喪失していた精神的なダメージにより、聞き取る能力、聞き取ろうとする気概が欠如していたのかもしれない。

適当にいなす他なかったアブドゥルの自己紹介が終わると、
もう一人の男、髭面のガタイの良い男がスッと立ち上がり彼も自己紹介。

名前はシナン。トルコ人で23歳。知人のツテでメガソーラー系の会社で働いていたが、英語能力を鍛えるため休職し、一年近くこの家に暮らしている。大体のことはわかるから困ったことがあれば何でも聞いてくれ!酒とタバコが大好きなので、君も好きだと嬉しい。

シナンの自己紹介

分かる!わかるぞ!彼の話している英語が分かる!

涙が出るほどうれしかった。今の今まで一方通行のコミュニケーションに苦しめられていたのだが、彼とはちゃんと取れる!

まさに無人島だと思ったら仲間がいた、という奴である。

自己紹介が終わると二人はそそくさと部屋を離れ自分の部屋に戻ってしまった。
そしてキャリーさんが夕食を運んでくれた。
実は機内で2食分のご飯を食べており、満腹状態ではあった。
だが断るのも野暮であるし、断る理由を英語で述べる自信もなかったし、
何より悪い意味で有名な英国の家庭料理を早速経験したい、という思いが僕を動かした。

料理はラザニアと硬いパン、デザートとしてダノンヨーグルトとプラムがついていた。
肝心の味は悪くはない。

むしろおいしい。

まぁラザニアだもんね。

十中八九冷食なんだろうが、冷食でもラザニアはおいしい。
付け合わせの硬いパンはボソボソしてあまりおいしくはなかったが、
ダノンヨーグルトはダノンヨーグルトであるし、
プラムは想像より硬いが、酸味があり美味しい

誰だ、イギリス料理は不味いと言っている奴は!
普通に食べられるではないか!

と、当時は思ったのだが、後にその考えは改められることになる。

そもそもラザニアはイタリア、ダノンヨーグルトはフランス産である。
イギリス要素は硬いパンとプラムしかなかった。

救世主シナン


夕食後、なんでも聞いてくれ、と心強いことを言ってくれたシナンの部屋をノック。色々と聞きたいことはあったのだが、明日から始まる学校の行き方だけは何としてでも彼から聞き取る必要があったため、必死で尋ねる。

なんだそんなことか!
8時くらいに起きてダイニングに来て一緒に朝食を取ればいいさ。同じ学校だから俺が連れて行くよ。

学校にはバスで行くんだ。
俺は定期持っているけど君は持っていないだろ?
ポンドはある?ポンドがなくても俺が行きの切符は買ってあげるから心配すしなくていいいよ。
日本はイギリスから遠いからフライトで疲れているだろ?まずは寝なよ。俺が連れて行くから何も心配するな。良い夜を!


まさに救世主!なんて良いやつなんだ!

無人島の仲間どころか、救助隊レベルのシナンのホスピタリティ。
何よりも会話が通じるのが非常に非常に大きい。

救世主シナンの自撮り。
彼との出会いは良くも悪くも大きかった

とりあえず直近の懸念事項は解決できて一安心。
シャワーを浴びてベットに入る。

長期間のフライトの疲れで直ぐ夢の世界へ、と思ったのだが、時差ボケと今後の不安に押しつぶされ全く眠れない。
気を紛らわせるためネットに触れようにも、未だWi-Fiパスワードが通らずネットでもできない。ただただ狭いシングルベットの中で蠢きながら一睡もできず、英国生活初日を終えたのだった。

オックスフォード Cowley Roadにて


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