チェス・プロブレム鑑賞記(1)

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
最近鑑賞したチェス・プロブレムを紹介していきます。

Jakob Leck
The Problemist 2019

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H#2.5 3 solutions

< 解 >
1...Se1 2.Rf3 Sg3+ 3.Ke3 Sg2#
1...Sge3 2.Kf3 Sxd2 3.Kf4 Sg2#
1...Sf4+ 2.Ke1 Se3 3.Be2 Sfg2#

Helpmateの基礎知識

「H」は「Helpmate」であることを表しています。
Helpmateとは白と黒が互い協力して黒の王様を詰ます設定のことです。
黒は自分の王様が詰まないように抵抗するのではなく、自分の王様が詰むように協力するのです。
詰将棋でいうと「協力詰」に近い設定です。
但し、詰将棋と違って王手義務はありません。

「#2.5」は詰ます手数を表していて、「2.5手で詰ます」という意味です。
チェスでは白が先手ですが、Helpmateでは黒から指し始めます。
黒と白が双方指して1手という数え方なので、「2手+0.5手」というのは白から指すことを示しています。
つまり、
  1手目:白の指し手
  2手目:黒の指し手 → 白の指し手
  3手目:黒の指し手 → 白の指し手(黒の王様が詰む)
という手順の流れになります。

また、「3 solutions」は解が3通りあることを表しています。

作品鑑賞

Jakob Leck
The Problemist 2019

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H#2.5 3 solutions

< 解 >
1...Se1 2.Rf3 Sg3+ 3.Ke3 Sg2#
1...Sge3 2.Kf3 Sxd2 3.Kf4 Sg2#
1...Sf4+ 2.Ke1 Se3 3.Be2 Sfg2#

それでは鑑賞していきましょう。
ポイントはg2にいる白のナイトです。
このナイトは一旦どこかに移動して、最後にg2に戻ってきます。
解が3つあるので、1つだけ見ていきます。

【 1...Se1 】

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白の1手目は「1...Se1」です。
g2にいた白のナイトをe1に移動させました。
ナイト(Knight)の棋譜表記は通常は「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。
これは変則ルールに登場するナイトライダー(Nightrider)という駒に「N」の表記が用いられるためです。
さて、e1に移動した白のナイトは最後にg2に戻って黒のキングをメイトします。
そのため、この解ではどこかで黒のキングをe3に移動させる手が必要になります。
しかし、f1にいる白のナイトがe3の地点に利いていて、すぐには黒のキングをe3に移動させることができません。
また、黒のキングをe3に移動させたとしても、e1にいるナイトをg2に戻してチェックしたときに、「e2」「e4」「f3」の地点に逃げられしまってはいけません。
f1にいる白のナイトを一旦除去して、e2にいる黒のキングをe3に、e1にいる白のナイトをg2に移動させた仮想図で見てみると分かりやすいでしょう。

【 仮想図 】

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つまり、「e2」「e4」「f3」の3箇所を塞ぎつつ、黒のキングをe3に移動させるという方針になります。
このように整理していくと、黒の2手目・白の2手目はどうすればよいか分かったでしょうか?

【 再掲図 1...Se1 】

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【 2.Rf3 】

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【 2...Sg3+ 】

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「2.Rf3」とf5にいた黒のルークをf3に移動させて自ら退路を塞ぎます(Self-block)。
次に「2...Sg3+」とf1にいた白のナイトをg3に移動させれば、e2とe4に利きができます。
これで「e2」「e4」「f3」の3箇所が塞がりました。

【 3.Ke3 】

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【 3...Sg2# 】

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e2にいた黒のキングを「3.Ke3」とe3に移動させ、e1にいた白のナイトを「3...Sg2#」とg2に移動させればメイトです。
初形でg2にいた白のナイトはe1を経由して元の地点に戻っているのが分かるでしょうか?(Switchback
手順をおさらいしてみてください。

Jakob Leck
The Problemist 2019

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H#2.5 3 solutions

< 解1 > 1...Se1 2.Rf3 Sg3+ 3.Ke3 Sg2#

残り2つの解も再掲するので、じっくりと鑑賞してみてください。

< 解2 > 1...Sge3 2.Kf3 Sxd2 3.Kf4 Sg2#
< 解3 > 1...Sf4+ 2.Ke1 Se3 3.Be2 Sfg2#

脳内で駒を動かすのが難しい方は、「Helpmate Analyzer」を使ってみてください。
① 下記のFENをコピーする。
8/8/4p3/4pr2/3p3K/3b4/3pkpN1/5N2
② 「Helpmate Analyzer」を開く。
http://helpman.komtera.lt/
③ コピーしたFENを「FEN」の部分にペーストする。
④ 「Stipulation: h#2」の「2」を「2.5」に変更する。
⑤ 「Analyze」をクリックする。

全ての解を鑑賞してみると、驚くべきことが分かります。
g2にいる白のナイトは「e1」「e3」「f4」と各解で別々の地点に移動しますが、いずれも最終的にg2に戻っています。
また、f1にいる白のナイトも「g3」「d2」「e3」と各解で別々の地点に移動しています。
全ての解において、g2にいる白のナイトはメイトする役割、f1にいる白のナイトは逃げ道を塞ぐ役割を担っていますが、その移動先は各解で異なっています。
絶妙な差異と統一感が実に見事で、「美しい」という表現がぴったりの作品です。