フェアリー詰将棋における二歩禁
バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
今回はフェアリー詰将棋における二歩禁について書いていきます。
1.詰将棋における二歩禁
まずは本将棋における二歩禁について確認します。
Wikipediaでは下記のように説明されています。
この説明文は「局面条件」と「着手方法」の情報を持っています。
二歩禁を一般化してみます。
この構造は打歩詰など他の禁手にも見られます。
「局面条件」と「着手方法」の観点から二歩禁を整理します。
普通詰将棋では独自に決められたルール以外は、基本的に本将棋のルールに準じます。
二歩禁についても本将棋と同じように運用されています。
2.フェアリー詰将棋における二歩禁
フェアリー詰将棋について簡単に説明しておきます。
フェアリー詰将棋とは、普通詰将棋のルールの一部に変更を加えた詰将棋のことです。
要は、変則ルールの詰将棋です。
では、フェアリー詰将棋に本将棋の二歩禁ルールを、そのまま適用しても大丈夫でしょうか。
結論から言うと大丈夫ではありません。
先程の説明文を再掲します。
2.1 着手後の局面
②については問題ないように思えるかもしれません。
しかし、「二枚がアウトなら三枚はセーフ?アウト?」という話が出てきてしまうのです。
本将棋で二歩をするには既に一歩配置されていなければなりませんし、三歩にするには既に二歩配置されていなければなりません。
同じ筋に三歩を配置しようとすると、絶対に二歩を経由することになります。
本将棋で三歩が手順に現れることはありません。
ただ、同時に二枚以上の駒を着手できるフェアリールールを用いた場合などで十分に起こりえるのです。
二歩禁ルールの本質は、同じ筋に同じ所属(先手or後手)の歩が「複数枚」配置されていることを禁じるものだと推察されます。
「二枚」であること自体が重要ではないということです。
フェアリー詰将棋においては、下記のように拡張するのが自然でしょう。
2.2 着手方法
③はどうでしょうか。
歩は前にしか利きがないので、ある筋に歩を配置するには本将棋だと持駒から打つしかありません。
ある筋に配置された歩が、別の筋に移動することは有り得ないわけです。
しかし、駒の利きが変化するフェアリールールを用いた場合などで十分に起こりえます。
本将棋の二歩禁は「持駒から二枚目の歩を自由に打てる」という状況を制限することで、ゲームバランスを保つのが目的だと推察されます。
「盤上で歩が移動した結果として二歩局面が生じる」場合を禁手とするか否かは悩ましいところです。
ただ、フェアリー詰将棋においてこれを禁手と許容することで、二歩禁が生じる着手方法が増えます。
創作上、表現の幅が広がるわけです。
フェアリー詰将棋においては、実戦的な事情はさほど重要ではありません。「定められたルールに基づいて解が導ける」ということの方が重要です。
従って、フェアリー詰将棋では「とにかく二歩局面が生じる着手は禁手」という運用がなされています。
2.3 着手前の局面
最後に①はどうでしょう。
これは②の議論と重複しています。
盤上に歩が一枚配置されていることは、フェアリー詰将棋では必要な条件ではなくなっています。
2.4 二歩禁の拡張
これまでの議論をまとめると、本将棋の二歩禁はフェアリー詰将棋で以下のように拡張されるでしょう。
この定義は特に共通理解が得られているものではないですし、明文化されてもいません(私が知らないだけの可能性も十分にある)。
ただ、フェアリー詰将棋で実際に運用されている二歩禁ルールとしては、概ねこの内容で正しいでしょう。
二歩禁の前提となっている部分を変更するフェアリールール(かなり特殊な変則盤など)を用いる場合には、二歩禁の扱いを別途定める必要があります。
3.二歩禁の表現
フェアリー詰将棋で二歩禁をどう活用して表現するかについて、少しだけ考えてみます。
禁手なので実際の解手順で現れることはありません。
二歩禁に抵触する着手は、仮想手として存在することになります。
考える切り口はいくつかあると思います。
「二歩禁が目的達成(詰みなどの問題設定)において邪魔なのか味方なのか」と場合分けすることは、考え方の一つでしょう。
3.1 二歩禁が目的達成の邪魔
という二つの状況があり、(1)から(2)を目指します。
「二歩禁を回避するような工夫」を解手順で行うことになります。
これは理解しやすい構造でしょう。
一例を示します。
安南協力詰 5手
「(1) 着手A(26金に同歩生)を行うと二歩禁に抵触する」という状況が、作意手順中に現れるケースです。
2筋に既に受方歩がいるので、この歩が2筋からいなくなればいいわけです。
本作では「歩」を「と金」に変えることで解決しています。
「(1) 着手Aを行うと二歩禁に抵触する」という状況が、作意手順中に現れない場合もあり得ます。
この場合はより複雑な表現となるでしょう。
二歩という状況は複数の駒によって成り立つものです。
駒一枚で完結しないので、その分多様な表現が可能になるわけです。
3.2 二歩禁が目的達成の味方
(1)が最終的に達成したい状況です。
(2)から(1)を目指すように創作することもあるでしょう。
一例を示します。
安北詰 3手
「(2) 着手A(22馬に同歩)を行っても二歩禁に抵触しない」というのが最初の状況。
これを「(1) 着手A(22馬に同歩)を行うと二歩禁に抵触する」という状況に変化させます。
本作では既に2筋に歩がいますが、取ってしまう手順を紛れにしています。
従って、歩を取らないように動かすことで解決しています。
3.1と3.2のどちらの立ち位置を選んだとしても、拡張された二歩禁は表現が多様化されていることを、少しでも感じていただければ幸いです。
二つの立ち位置が複合的に現れると、更に複雑な表現になるでしょう。
フェアリー詰将棋における二歩禁については、下記の記事でも書かれているので、興味があったら併せてご覧ください。