「マイ・フェイバリット・フェアリー 10」を読んでみよっ?

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。

上谷直希さんが自身のブログ「フェアリー時々詰将棋」で2018年に連載した「マイ・フェイバリット・フェアリー 10」を読んでみようという内容です。

作品紹介という意味もありますが、作者の価値観が語られている貴重な資料でもあります。
インターネットが普及して個人で発信できる時代になったとは言え、作家が自分の価値観を語ることは案外少ないように思えます。

ここでは全9回のシリーズのうち(序)だけ触れて、後は読んでねという感じにしたいと思います。

まずは書き出し。

 いきなり私事で恐縮だが、先日は大学の卒業式があった。
 4月からは忙しくなるだろう。3月はゆっくりできるので、今のうちに既発表作の整理でもしてみようか。
 ただ整理するだけではつまらない。せっかくなのだからマイベスト10のように自作フェアリーを紹介してみようかと思った。

これを書き始めたのは大学を卒業したタイミングのようです。
つまり…?と年齢計算して個人情報に触れている場合ではなく、この連載は自作フェアリーを10作紹介するという趣旨のようです。

 フェアリーをはじめてちょうど10年になる。長いのか短いのかはよく分からない。この10年で100作以上を発表したが会心作と呼べるものは1作もない。発表した以上すべて好きな作品ではあるし、作品単独として見れば納得できるものもある。しかしながら、どうも私の実力不足のせいでそのフェアリーの魅力を最大限に引き出せている気がしないからだ。

フェアリーに詳しくない人は上谷さんを普通詰将棋における著名な作家と認識しているかもしれません。
看寿賞を受賞しているので、詰将棋に詳しい人ならほとんどの人が知っていることでしょう。
ただ、実際にはフェアリー作品の方が発表数が多いのではないでしょうか。
「フェアリーの魅力を最大限に引き出せている気がしない」という文章からも、フェアリーを深く愛し可能性を信じていることがはっきりと伺えます。

 そんな事情もあって表題はマイベストではなく「マイ・フェイバリット・フェアリー10」とした。

それでこの連載のタイトルに繋がるわけです。
上谷さんの飽くなき探究心が表れたタイトルです。

さて、この回は1作目の「アンチキルケばか詰(受先)」を説明するためにアンチキルケについて説明しています。
その辺りの説明は元の記事に譲るとして、ここではフェアリーを始めたての頃の話が述べられているので、そこをいくつか引用していきます。

 フェアリーを始めたての頃、自分にはアンチキルケしかなかった。
 当時の自分は「アンチキルケばか詰」は分かっても「ばか詰」は分からなかった。
 そんな馬鹿な、冗談だろう?と思われるかもしれない。でも私はかなり本気で言っている。もちろん、ルールの理解だけならばばか詰単独のもののほうが簡単に決まっている。しかし面白さの理解ならばどうだろうか?

こんな文章から始まり、フェアリー創作のモチベーションについて述べられています。

 すごい!楽しい!つくってみたい!と思えるルールとの出会いが技術以上に重要なのではないか。そんなルールがあったから、ズボラで怠惰な自分でもここまで続けることができたのだ。

好きという気持ちが何よりも重要というのが主張。
これは詰将棋作家なら共感できるはず。
フェアリー作家ならもっと多いはず。
「自分もつくってみたい!」という出来事が何よりも重要なのです。
上谷さんにとってフェアリーにのめり込むきっかけとなったのがアンチキルケだったわけです。

ここで余談を差し込むと、私が初めて面白いと思ったのが安南です。
これがフェアリー創作のきっかけになったわけではありませんが、安南は以前からとても好きです。
安南に出会ってなかったら、そもそもの話としてフェアリー創作をやろうという発想になっていなかったでしょう。
その意味で安南は私にとって大きなきっかけとなったルールです。

話を戻しましょう。
アンチキルケの説明を終えた最後にこんなことが述べられています。

 説明が長くなったが、その分「アンチキルケでやるべきこと」はルールを読むだけである程度明確になるのではないだろうか。

私からすれば「そんなわけないやろ!」とツッコミを入れたくなります。
まぁ次を読んでみましょう。

 ルールに素直になれば、おのずとやるべきことが見えてくる。こんなに初心者に優しいルールはそう無いだろう。

このような考えで創作しているからこそ、上谷さんの作品は自然かつ魅力的なものが多いのかもしれません。
この点は私も見習いたいものです。

 こんだけ長いのは最初だけです笑

こんな言葉で締めくくっています。
確かに初回が一番熱量がすごいです。