WFP2023年5月号 感想

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
Web Fairy Paradise 2023年5月号(第179号)の感想を書いていきます。

1.零の活用

(p.3)

1-1 本稿の概要

フェアリー駒Zero((0,0)-leaper)に何か活用方法はないか?という内容。
Zeroは「現在位置に動く駒」です。
私は「これ何に使えるの?」と以前から強く思っていました。
有効的な活用は未だ見出されていないようです。
本稿では変寝夢さんが最近発表した作品に軽く触れつつ、AntiAndernachで使用した例や、Zeroを合成した駒の例が紹介されています。

1-2 ステイルメイトでの活用

ここからは本稿とは別に、私がZeroについて少し掘り下げていきます。

Zeroの活用方法として、他にはステイルメイトが挙げられます。
「現在位置に動ける」という性質が、ステイルメイトの達成を困難にします。
Dummyという少し性質が異なるフェアリー駒があり、ZeroとDummyをステイルメイトに使用した例を神無七郎さんが示しています(WFP第96号「行き所のない八方桂」神無七郎 参考図2,3)。
※WFP第96号:http://www.dokidoki.ne.jp/home2/takuji/WFP96.pdf
ZeroとDummyの違いを利用する方向性は、掘り下げてみる価値がありそうです。

1-3 本家のチェスプロブレムでは?

そもそもの話として、Zeroはフェアリーチェスから輸入された駒です。
「チェスプロブレムではどう使われているのか?」と疑問に思って、Twitterで呟いてみました。
チェスプロブレム作家のantillesさんから1作紹介していただきました。

Ludwig Zagler作 Problemkiste 2000年
https://pdb.dieschwalbe.de/P1285757

黒ポーンがプロモーションでZeroに成ることで、黒キングの退路を封鎖します。
他の駒に成るのは6…Qh3がメイトになりません。

チェスプロブレムにおいてZeroを使用した作品は少ないようです。
データベース(PDB server)で調べてみたところ、6件しかヒットしませんでした。
(PDB serverの「Search expression」に「PIECE='Zero'」と入力して検索すると出てきます。)
データベースに登録されていない作品があったとしても、Zeroを使用した作品が少ないことは確かでしょう。

ちなみに、Dummyをデータベースで調べたところ、90件ヒットしました。
ざっと見た感じでは、Dummy Kingとして使われることが多い印象を受けました。
確かに「身動きの取れない王」ならそこそこ使い道がありそうです。

1-4 Zeroに使い道はある?ない?

Zeroは本当に有効な使い道がないのか、それとも人類が使いこなしていないだけなのか。
てか、この駒を発明した人はどういう意図で導入したのでしょうか。

2.第150回WFP作品展結果

(pp.14~29)

WFP作品展鑑賞室:http://k7ro.sakura.ne.jp/wfp/EnjoyWFP.html

150-3 上田吉一作
攻方角を消去するために受方角をぐるっと回して元の位置に戻す。
あまりにも明快な機構なので「私も作れそう」と一瞬勘違いしそうになります。
細部に目を凝らすと緻密で洗練された機構であることがよく分かります。

150-4 上田吉一作
受方飛鋸×2。
一枚の飛車を一度遠くへ呼び出すのも意外な展開。
その後、二枚の飛車を交互に動かすのもこれまた驚き。
仕組みとしては二枚の飛車が互いに邪魔し合わないようにということですが、よくもこんな仕組みを思い付きますね。

150-5 駒井めい作
自作。
受方の先打突歩詰が狙い。
どうやら1号局のようです。

150-7 上谷直希作
まさに「美しい」という言葉がぴったりの作品。
作者の美に対する意識が如何に高いかがはっきりと伝わってきます。

150-8 さつき氏
新ルール「衝立協力詰」の登場。
受方が協力しているのか否かがはっきりしないのがこのルールの面白いところ。
同時にそこが理解を妨げる一因にもなっています。
とは言え、発展性がありそうなルールで今後が楽しみ。

150-10 伊達悠作
委託打歩詰の作品。
Lortapブームはしばらく続きそう。

3.今月の手筋

(p.36, 107)

テーマは「原形成」。
言われてみればフェアリーでは表現の自由度が高いテーマですね。

4.協力詰・協力自玉詰 解付き #12

(pp.49~52)

私の担当コーナー。

12-1 springs作
邪魔駒とは別の駒を消去するユニークな邪魔駒消去。
他の表現も考えてみたくなります。

12-2 上谷直希作
「馬を角にひっくり返す」という通常では不可能な可逆変化。
狙いは違えど青木さんと似た構図を考えていたとは驚き。

5.「詰将棋メーカー」好作選(2023年1~4月)

(pp.54~58)

占魚亭さん主導で始まった新コーナー。
詰将棋メーカーでもフェアリー詰将棋の発表が最近増えてきました。
※詰将棋メーカー:https://tsumeshogi.com/

6.Fairy TopⅨ 2022 投票結果

6-1 短編部門

(pp.59~82)

1位 駒井めい・羽毛布団合作
私と羽毛布団さんの合作。
Imitatorを利用した双方銀の一回転。
受賞できたことより、誰かの記憶に残る作品を創れたことが何よりも嬉しいです。

1位 真T作
最後の1ピースで七種駒追加。
単に狙いを実現しただけではない高い完成度の作品。

3位 神無太郎作
双裸玉からこんな趣向手順が出てくるとは。

5位 占魚亭作
ImitatorとNightriderを使った作品で、完璧な対比表現。
私はこの作品に投票しなかったのですが、投票するか凄く悩みました。
素晴らしい作品であることに間違いはありません。

7位 springs作
Torus-P(2022)-Leaper王という珍しい設定の作品。
複雑なようで解に至る論理が実に美しい。
私はこれ凄く好きです。

15位 藤原俊雅作
Forsberg twinsを持駒に適用した作品。
アイデア自体は過去にも前例があります。
ただ、本作はその中でも群を抜いています。
まず創ろうとする人が少ないと思うのですが、こういうところに挑戦する姿勢は素晴らしい。

18位 真T作
歩から歩に成るという奇妙な設定。
まさか同格成にこんな表現方法があったとは。

18位 青木裕一作
持駒消去+受方飛一回転。
協力自玉詰で持駒消去は珍しい手筋ではないです。
ただ、それを受方飛の一回転と組み合わせたところに、作者の高いセンスを感じます。

24位 藤原俊雅作
Feather mechanismを実現した作品。
受先で受方が攻方駒を取るような展開は、もっと作品が増えていいと思います。

6-2 中編部門

(pp.82~88)

1位 springs作
禁欲+ステイルメイトという設定で、こんな奥深い持駒消去ができるとは。

7位 上谷直希作
連続王手の千日手がテーマの作品。
「どちらが起点になるか?」が重要になります。
表現の仕方が巧い。

6-3 長編部門

(pp.89~99)

5位 上田吉一作
まさかの香鋸。
とても印象に残っている作品。

12位 神無七郎作
アイデアが天才的。

7.WFP15周年記念・いろいろな原稿募集

(p.109)

来月180号でWFPは15周年のようで、原稿を募集しているようです。
私も担当コーナー以外の原稿を書く予定。

8.あとがき

(p.109)

フェアリー入門の担当者と連絡が取れないのは本当に心配。
何事もなければよいのですが。
あと馬屋原さんは元気かしら。