見出し画像

詰将棋作家の視点

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。

同じ素材を与えたとき、詰将棋作家はどこに着目して逆算するのか?
というのが今回の企画の趣旨です。
具体的には下記の課題をTwitterで出題しました。

-----------------------------------------------------
【 課題 】
下記の3手詰の素材を逆算して5手詰にしてください。
更に逆算できそうなら、好きなだけ逆算してもらって構いません。
併せて創作初心者に教えるような感じで解説文を書いてくれると助かります。

画像1

24香、(イ)同玉、34飛成 迄3手。
(イ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。

-----------------------------------------------------

多くの作家が課題に答えてくださったので紹介していきます。
作者解説に加えて、私が補足解説を行っていきます。

(1) 雲虚空

画像2

23馬、同玉、24香、(イ)同玉、34飛成 迄5手。
(イ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。

【 作者解説 】
詰め将棋作ったことないのでよくわからないんですが、2手だけ逆算するんだったら、23玉→12玉、▲24馬追加としたいところです。
詰め将棋のうまい人は、たぶん香の限定の意味付けを掘り下げるような気がします。

【 補足解説 】
詰将棋を作ったことがないと大嘘をついている作者ですが、基本に忠実な解答をくださいました。
捨て駒で玉あるいは守備駒を動かすのは、逆算する際に真っ先に考えたい基本的な手順です。
駒をただで捨てるのは瞬間的には攻方の損です。
攻方が自ら不利な手を指しているように見えるのが面白いというわけです。
詰将棋では「不利感」という言葉がよく使われます。
困ったときは瞬間的に不利な手を入れるように意識してみるとよいと思います。
”不利”の表現の仕方は実に色々とあります。
さて、今回は玉を12→23と動かす手順にしていますが、22→23や24→23と動かす逆算も考えられます。
22→23は23Xと何か駒を捨てたときに、攻方31飛が取られる変化を考えなければなりません。

画像3

24→23は23Xと捨てる以前の話として、34飛成と詰ます手を消さなければなりません。

画像4


24玉の配置で23Xと捨てる逆算の場合は邪魔駒消去が有効で、それは後に登場します。
とにかく捨て駒で玉を移動させるなら、12玉と配置して23Xと捨てる逆算にするのが一番分かりやすいというわけです。
攻方24馬は玉の上部脱出を防いでいるように見えるので、これを捨てるのはやりにくさがあります。

(2) keima82

画像5

23金、同玉、24香、(イ)同玉、34飛成 迄5手。
(イ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。

【 作者解説 】
23の地点に何か捨てるのが一般的な逆算だと思う。
置き駒を捨てるよりは持ち駒捨てる方が個人的には好み。
銀だと余詰があるから金。
でも、これだとただ逆算しただけですね。
もっと上手い方法ありそうです。

【 補足解説 】
捨て駒で玉を移動させるという点は雲虚空作と同じです。
違いは盤上の駒ではなく持ち駒から捨てているところです。
持ち駒にすることで着手可能な手が増えて、解答者を悩ませることができます。
12玉と配置して23Xと捨て駒をするわけですが、当然斜め前に利く駒でなければなりません。
角・銀は初手21角・21銀という余詰が生じてしまうので、斜め後ろに利きがない駒の方が手順を成立させやすいでしょう。
これで捨て駒が金と決まったわけです。

(3) 駒井めい①

画像6

23飛打、14玉、25飛成、同玉、26香、(イ)同玉、36飛成 迄7手。
(イ) 同馬は34飛成迄。14玉は23飛成迄。

【 作者解説 】
ここまで捨て駒で玉を移動させてきましたが、その発展版が本作です。
馬や金を捨てる作品が登場しましたが、ここでは龍を捨てます。
龍を持ち駒から捨てるわけにはいかないので、盤上から移動させて捨てることになります。
素材から2手逆算したのが下図です。

画像7

24飛成、同玉、25香、(イ)同玉、35飛成 迄5手。
(イ) 同馬は33飛成迄。13玉は22飛成迄。

初手12飛成の余詰を消すために、図を1段平行移動させて玉方11香を追加しています。
ここから更に2手逆算する場合、どこに着目したらよいでしょうか?
色々と方針はありますが、玉を13→23として22飛打、13玉の逆算が入らないか考えてみました。
打った飛車をすぐに捨てるという手順です。
盤上や持ち駒からいきなり捨てるよりは勿体ない感じが出やすいです。
余詰消しのために更に1段平行移動させ、玉方21桂・31歩を追加したのが完成図です。
飛車のような強力な駒を持ち駒にすると余詰のリスクが増し、本作もその影響を受けています。
追加した玉方12香・21桂・31歩は余詰を消す役割しか果たしていません。
こういう駒はできる限り少ない方がよいです。
次の段階はこの図を推敲して、役割の小さい駒を減らせないか考えていくことになるでしょう。
推敲の結果どうしようもない場合、「3枚追加したことに見合う手順なのか?」と総合的に判断して、発表するか否かを決めていくことになると思います。
最終的に判断するのは作者なので、自分が何を重視するのか、自分の考えをクリアにしておくことが重要です。

(4) くろかず

画像8

24飛、同玉、25香、(イ)同玉、35飛成 迄5手。
(イ) 同馬は33飛成迄。13玉は22飛成迄。

【 作者解説 】
得意の原型消去をやってみました。
イメージは24玉型にして23X、同玉、24香、同玉、34飛成まで。
赤枠部分に駒置けばいけそうですね。
これを形にしていきます。

画像9

そしてできたのがこの図。
しかし18香の配置が不満です。

画像10

2手目25玉の変化で必要ですが、何とか消したいです。
そもそも25にいけない初手にすれば良くね?
ってことで下図に辿り着きました。
しかし初手34飛成で詰みですね。うーん…。

画像11

その時くろかずに電流走る…!
1段ずらして飛車を成れなくすれば解決ですね。
下図が完成図です。

画像12

【 補足解説 】
素材から玉を23→12として、23X、同玉という捨て駒で玉を移動させる逆算を見てきました。
玉を23→24として、23X、同玉という逆算を入れるにはどうしたらよいのでしょうか?
そもそも素材では24香、同玉と玉を23→24と移動させる手順なので、初形で24玉と配置してしまうと、当然ながら初手34飛成迄で詰んでいます。

画像13

初形で24玉と配置して23X、同玉の逆算を入れるためには工夫が必要です。
どうすればよいかというと、初手34飛成と指せないように飛車の利きを遮ればよいです。
32・33・34のどこかに攻方駒を置き、その駒を23Xと移動させて捨てられれば実現します。
本作では攻方34飛が初手35飛成を防ぐ邪魔駒になっていて、これを初手24飛と移動させて消去します。
4手目同玉迄の局面は、初形から攻方34飛を消去しただけの局面になっています。
とある小さな目的のために多くの手数がかかるような回りくどい手順は、詰将棋で評価されやすいテーマの一つです。
素材の作意手順を活かすような逆算ができると、ワンランク上の詰将棋になります。

(5) springs

画像14

52銀、(イ)44玉、43銀成、(ロ)同玉、44香、(ハ)同玉、54飛成 迄7手。
(イ) 42玉は41飛成迄。
  32玉は21飛成、42玉、41龍迄。
  同馬は同飛成、44玉、54龍迄。
(ロ) 45玉は56飛成迄。
(ハ) 同馬は52飛成迄。32玉は21飛成迄。

【 作者解説 】
(1) まずは原図の作意を確認。

原図

画像22

初手24香は複数の玉方の駒が利いている箇所への捨駒で、しかも紐なし。
捨てる駒が香なのは、12玉に21飛成ができるように。
構造上仕方ないが、同玉に34飛成の詰上りは14の地点に桂馬も利いていてちょっと気になる。

(2) 2手逆算することを考える。
原図に至る2手は、例えば下記が挙げられます。
・13桂→21桂とし、「13X、同桂」
・23玉→12玉or22玉とし、「23X、同玉」
・15歩→14歩、持駒に桂を追加し、「15桂、同歩」
・23玉→14玉、26桂→持駒とし、「26桂、23玉」
・23玉→33玉、32Xを追加し、「23X成、同玉」
今回は、邪魔駒消去(間接消去)の4手を逆算して7手詰を作ることにしました(5手詰という条件を読み落としている)。
間接消去とは邪魔駒を玉に取ってもらう邪魔駒消去です。
新たに邪魔駒を盤面に追加し、4手でその邪魔駒を消して原図に至るようにします。

(3) 作意を妄想する。
邪魔駒として盤面に攻方の駒を追加して、玉に取ってもらう4手を妄想します。
・22Xを追加、「14Y、22玉、23Y、同玉」
・33Xを追加、「32Y、33玉、23Y成、同玉」
・24Xを追加、「34Y(or14Y、32Y)、24玉、23Y成、同玉」
今回は24の邪魔駒を消す順を考えてみました。
・24Xを追加、「34Y(or14Y、32Y)、24玉、23Y成、同玉」
上記で X=桂or角、Y=銀or角 になりますが、柿木将棋と戯れながら、X=角、Y=銀が良さそうに感じました。
「34銀、24玉、23銀成、同玉」の逆算を目指します。

(4) 妄想を実現する。
原図に24角を追加しただけ(第1図)では、「14銀、24玉、34飛成」の3手で詰んでしまいます。

第1図

画像23

そこで、「26桂→玉方14香・攻方45銀」と配置を変えてみます(第2図)。

第2図

画像24

画像25

45銀は4手目25玉に36飛成で詰ます想定の配置です。
一旦第2図で柿木先生にお伺いを立てました。
初手32銀の順を解答されました。
初手34銀打に12玉や22玉と逃げた場合の考慮が漏れていました。
初手32銀なら12玉に21飛成があります。

画像26

実現が楽そうかつ32銀が若干打ちにくいかもなので、この順を作意にすることにします。
ただし、初手34飛成や34銀打でも詰むので、この余詰を消す必要があります。
全体を左にずらすことで、初手54飛成や54銀打は詰まないように目論みました(第3図)。

第3図

画像27

初手52銀に32玉が詰むように、11とを置いています。
6手目32玉は、41飛成ではなく21飛成で詰むようにしています。
柿木将棋に掛けたところ、まだ余詰が消えていませんでした。
33桂や34香を奪って詰むようです。
3筋の駒を調整して余詰が消えました(第4図)。
11との配置がつらいですが、盤面10枚なので自分を許すことにします。

第4図

画像28

さらに逆算できないか考えます。
① 43玉→42玉、持駒銀追加で「43銀、同玉」
② 33歩→X、持駒金追加で「33金、同X」
①はいくつか駒を置けば実現できそうでしたが、そこまでして入れたいとも思わなかったので却下。
わざわざ角を置いているので②の逆算は入れたいですが、ちょっと実現が難しそうでした。
以上より、第4図で完成としました。

【 補足解説 】
作者は入れたい4手を具体的に考えてから作っています。
作者解説を見れば分かりますが、狙いはそのままに作意を柔軟に変更しています。
思い描いたものがそのまま実現するとは限らないので、実際にはこのような地道な試行錯誤を経て完成することが多いです。
第一に考えなければならないことは、手順が成立するロジックです。
まず初形を眺めてみると、攻方44角がいなければ素材の作意通り44香から3手で詰みます。
この角の存在が素材の作意で詰ますのを妨げる要因になっているわけです。

画像29

初手52銀と打って44玉とさせて、邪魔だった角を間接的に消去します。
初手52銀は攻方が飛車の利きを自ら遮る手なのでやりにくいでしょう。
2手目44玉に代えて42玉・32玉・同馬の応手もありますが、全て5手以下で詰んで割り切れています。

画像30

2手目44玉迄の局面は、攻方52銀がいなければ素材の手順にも出てくる通り54飛成です。
しかし、打った銀が飛車の利きを遮っているために、やはり素材の手順では詰みません。
これはくろかず作と同じ仕組みです。
そこで43銀成と邪魔な銀を消去します。
45玉なら56飛成迄で、この変化が詰むようになっているのは、素材の配置を弄って攻方65銀に置き換えたためです。
さて、本作は邪魔駒の角を消去するために銀を打ちますが、その銀が次の瞬間に邪魔駒になるという手順構成です。
邪魔駒を消去するために邪魔駒を発生させるところが面白いというわけです。
ある要因を取り除こうとすると別の要因が生じるという連鎖的な手順構成は、創作難易度は高いですが面白いテーマです。

(6) 駒井めい②

5手詰2_課題創作

36飛、(イ)同玉、37香、(ロ)同玉、27龍 迄5手。
(イ) 45玉は34龍迄。
  44玉は34飛、45玉、43龍迄同手数駒余り。
(ロ) 同馬は25龍迄。
  45玉は34龍迄同手数駒余り。

【 作者解説 】
捨て駒で玉を動かす逆算として、飛打→香打という連打の手順を作りました。
これも素材の作意手順を活かそうとした逆算です。
飛車と香車は前に直線的な利きがある点では似ていますが、価値の高い飛車から打たないと正解ではないという面白さを求めたわけです。
初手が飛車でなければ詰まない変化を含めることができれば、原理的には成立するはずです。

画像16

ポイントは64→54という玉の逃走ルートを作っておくことです。
これで初手76飛に64玉なら74飛から飛車の横利きで詰ますことができます。
初手76香では64玉に74龍と入っても53玉と逃げられてしまいます。
これらの変化・紛れを入れるために、素材の図を左下に平行移動して玉の逃げ先を広くしたわけです。
これで完成でもよいのですが、駒数を減らせないか推敲してみましょう。
必ずしも駒数が少なければよいわけではありませんが、配置駒の経済性は高いに越したことはありません。
まずは攻方79桂・97桂の役割を確認しておくと、85と87に利かせて龍に紐がつくようにし、67に利かせて玉の退路を塞いでいます。
つまり、この2枚の桂は玉方67香・攻方96銀と置き換えても同じ役割になります。

画像19

駒数が減っているわけではないですが、玉の逃げ道を塞ぐ役割を果たしている玉方56香・66桂・67香に着目すると、攻方57とや57金に置き換えればトータルで2枚減らせます。

画像19

しかし、玉方66桂は78に利かせて余詰を消す役割も兼ねていたので、この役割は別の駒にさせる必要があります。
そこで玉方68歩を68金と置き換えます。

画像19

このように攻方駒を置いて駒数を減らす方法は一見良さそうですが、余詰のリスクが増すので慎重に行ってください。
また、やりすぎると攻めに参加しない攻方駒が増えて、解いた感触が悪くなる原因にもなり得るので注意が必要です。
左配置の詰将棋もたくさんありますが、特別な理由がなければ私は右配置が好きなので、左右反転して完成図としました。

(7) 駒井めい③

5手詰_課題創作

16桂、(イ)同金、25飛、(ロ)同玉、35飛成 迄5手。
(イ) 25玉は15飛迄。
  23玉は33飛打、同馬、同桂成迄同手数駒余り。
  同馬は33飛成、25玉、35龍迄同手数駒余り。
(ロ) 同馬は33飛成迄。

【 作者解説 】
捨て駒で守備駒を動かす逆算です。
素材の図で玉方15歩に着目して、歩を動かす手順を考えました。
盤上に守備駒を新たに追加して、その駒を動かす逆算もあります。
ただ、まずは盤上に配置されている守備駒に目を向けるのがスマートでしょう。
素材から玉方の歩を桂で動かす逆算を入れてみたのが下図です。

画像21

16桂、(イ)同歩、25飛、(ロ)同玉、35飛成 迄5手。
(イ) 25玉は36飛成迄。
  23玉は33飛打、同馬、同桂成迄同手数駒余り。
  同馬は33飛成、25玉、35龍迄同手数駒余り。
(ロ) 同馬は33飛成迄。

16の地点には歩以外に馬も利いています。
複数の駒が利いている地点にただ捨てするのは、感触の良い手になりやすいです。
素材の作意のように初手25飛とすると、同玉、35飛成と進めたときに16玉と上部に逃げられてしまいます。
玉方15歩を16に動かして退路を封鎖してからでないと、25飛は成立しないわけです。
逆算で入れる手順を考えていく際は、手順が成立するロジックを組み立てることが重要です。
初手16桂に23玉の変化を詰ますために持ち駒を香から飛に変更し、変同(変化同手数駒余らず)および余詰消しとして玉方13銀を追加で配置しました。
香車よりも飛車の方が駒の価値が高いので、捨て駒としては飛車の方が不利感が出やすいでしょう。
しかし、持ち駒に飛車のような強力な駒を持たせると、余詰のリスクが増すので気を付けてください。
短い手数に収めるならよいのですが、ある程度の手数まで逆算したいときはこれがネックになることが多々あります。
攻方37歩と追加で配置したのは、初手16桂に25玉の変化を詰ますためのものです。
また、素材の図を1段平行移動しているのは余詰を消すためです。
これで完成でもよいですが、別案を考えてみたのが下図です。
すぐに完成とせずに似た作意の別案を考えるのは、良い詰将棋を作る上でとても重要です。

画像31

玉方15歩を金に変更して、初手16桂に対して15→16と動かすのではなく26→16と動かすように配置を変更しました。
3手目25飛と打つ関係で、金ならば初手16桂で動いたときに25に利かないので、逆算をする上で分かりやすいでしょう。
26金と配置し直したことで15の地点が空いて26の地点が埋まります。
初手16桂に25玉とされても15飛迄で詰ますことができ、攻方37歩が不要になります。
駒数が減って良さそうですが、素材の作意である初手25飛には同金でも同玉でも詰まず、紛れとして主張するにはやや弱くなってしまいます。
本作を完成図としたのは、
・わざとらしく配置された攻方37歩が消えた。
・それに伴い、初手16桂がやりにくくなった(かもしれない)。
という点を評価したからです。
作者が何を重視するかで、どの図を採用するかが変わってくるでしょう。

(8) せら①

画像32

34馬、同桂、24香、(イ)同馬、32飛成 迄5手。
(イ) 12玉は21飛成迄。
  同玉は34飛成迄同手数駒余り。

【 作者解説 】
23へ捨駒する作が既にいくつか出たので別方面から。

【 補足解説 】
先程の駒井めい作③では、素材の守備駒に着目して逆算していました。
本作は素材に対して新たな玉方駒を配置しての逆算です。
しかし、作者は安直に駒を追加するのではなく、効率的な方法で行っています。
素材において初手24香に同玉・同馬・12玉の応手はどれも正解です。
玉方21歩・34歩を追加で配置した下図ではどうでしょうか。

画像33

24香、(イ)同馬、32飛成 迄3手。
(イ) 同玉は34飛成迄同手数駒余り。
  12玉は21飛成迄同手数駒余り。

2手目同玉・12玉は同手数駒余りで、正解は2手目同馬に限定されます。
実際、素材に玉方34歩を追加で配置した図が逆算の出発点です。

画像34

24香、(イ)同馬、32飛成 迄3手。
(イ) 12玉は21飛成迄。
  同玉は34飛成迄同手数駒余り。

まずは可能な配置を考えていきます。
34に置いて問題が起こらない玉方駒を考えましょう。
可能な駒は桂・香・歩で、24に利いてしまう飛・金では作意が詰まなくなりますし、角・銀では初手34飛成の余詰が生じてしまいます。
今回は玉方22桂と配置して、34X、同桂の逆算を入れたわけです。

画像35

34に捨てる駒を考える前に重要なことは、この図で初手24香から詰まないことです。
そもそも素材の作意で詰んでしまっては、邪魔駒消去のときのような工夫が必要になってきます。
初手24香に同玉、34飛成は同桂で詰みません。
2手目同馬は32飛成に12玉で詰まず、2手目12玉は21飛成に同玉とされてしまいます。
玉方22桂が34に利いていることと、手順中で龍や香の利きを遮っているために詰まない局面になっています。
玉方22桂を34に動かしてからでないと、24香が成立しないわけです。
では、34に捨てる駒を考えていきます。
とりあえず初手34金を考えてみると、12玉と逃げられて詰みません。

画像36

12玉と逃げられても詰むように配置を変更するのも一案です。
しかし、12玉と逃げる手は初手24香が成立しないロジックと密接に関わっているので、少し手に付けにくい場所ではあります。
ここは初手34馬として12玉とさせないのが明快です。

画像37

持ち駒からいきなり34馬とはできないので、盤上のどこかから移動してくるしかありません。
余詰さえなければ好みの問題になりますが、本作は攻方52馬を採用しています。

画像38

これは初手24香・32飛成・41馬といった紛れを意識したものだと思われます。
初手24香に同玉は34馬、同桂、34飛成迄5手駒余り。
12玉は34馬、同桂、21飛成迄5手。
といったように詰みます。
しかし、初手24香には同馬が唯一の逃れ筋で詰みません。

画像39

以下、41馬としても12玉で続きません。
解答者が読んでくれるような紛れであることが条件ですが、その紛れが唯一の応手で逃れるように作れると、作意が引き立ってきます。
作意の面白さはもちろんですが、紛れは詰将棋に深みを与える重要な要素でもあります。

(9) せら②

画像40

33飛、(イ)同香、36香、(ロ)同玉、46龍 迄5手。
(イ) 24玉は22龍迄。
  34歩は46龍、24玉、13飛成迄同手数駒余り。
(ロ) 同馬は44龍迄。
  24玉は33龍迄同手数駒余り。

【 作者解説 】
① 初手36香には24玉で詰まず、3手目36香なら詰むようにする
② 24玉に備えて33に質駒を作る捨駒を入れる
③ 条件を満たす配置を考える
④ 完成

【 補足解説 】
前作と同様に、素材に対して新たな玉方駒を配置しての逆算です。
素材に玉方21歩を追加で配置した図が逆算の出発点です。

画像41

24香、(イ)同玉、34飛成 迄3手。
(イ) 同馬は32飛成迄。
  12玉は21飛成迄同手数駒余り。

21に置いて問題が起こらない玉方駒を考えていきます。
可能な駒は飛・桂・香・歩ですが、飛車以外は1手戻す先がありません。
飛車にするにして21→11と配置し直したとしても、飛車が品切れで21に呼べる捨て駒がありません。

画像42

困ったようですが、1段平行移動して下図のようにしてみるのはどうでしょう。

画像43

22X、同歩という逆算を目指すわけですが、22に捨てるのは自然と飛車あるいは龍に決まります。

画像44

しかし、飛車を持ち駒にしている上図には大きな問題があります。
それは初手25香で詰んでしまうことです。
初手25香に13玉としたときに歩が利いていて22飛成では詰まないというのがこの逆算を成立させるロジックです。
しかし、13玉には12飛打や23飛と持ち駒の飛を打って詰んでしまいます。
下図のように変更してみるのはどうでしょうか。

画像45

図を更に1段平行移動させた後、歩→香・飛→龍と変更して配置を調整しています。
これで初手26香には14玉とすれば、3手目23龍が成立していないのはもちろんのこと、飛車を打って詰ます手も消えています。
また、初手23飛に同香と取ってくれれば、3手目26香以下素材の手順とほぼ同様に詰ますことができます。
残る問題は初手23飛に同香と取ってくれるかです。
初手23飛は詰むことには詰むのですが、2手目24合とされると詰ますのに7~9手かかります。
作意の2手目同香の手順よりも手数が長いので、この手順を処理しなくてはなりません。
そこで作者が考えたのが下図です。

画像46

初手33飛に34合は46龍、24玉、13飛成迄と5手駒余りで詰みます。
34の合駒が何であってもこの手順で詰むので変化処理として明快です。
ここまで様々な作者の変化処理を見てもらっていますが、読み・経験・知識が必要なので、この辺りは着実に実力をつけていくしかありません。
さて、逆算で入れた初手33飛はいわゆる限定打です。
打ち場所はいくつもあるのに正解は一つしかないのが面白いのです。
特に飛車の打ち場所が33でなければならない理由は、紛れや変化に隠れています。
手の意味付けが作意に現れないように隠せると、不思議な感じが演出できて面白くなります。

(10) ウマノコ

画像47

23銀不成、(イ)43玉、34角、(ロ)同飛、
35桂、(ハ)同飛、44香、(ニ)同玉、54飛成 迄9手。
(イ) 同飛は41飛成、同玉、23角成、32歩、42飛、31玉、32飛成迄同手数駒余り。
(ロ) 42玉は43香迄。44玉は55飛成迄。
  同桂は35桂、同馬、52飛成、44玉、54龍迄同手数駒余り。
(ハ) 42玉は43香迄。44玉は55飛成迄。
  同馬は52飛成、44玉、54龍迄同手数駒余り。
(ニ) 同馬は52飛成迄。

【 作者解説 】
(1) 課題の図が逆算しにくかったので、縛り駒を馬と香に変えて、桂打の逆算を入れてみた。

画像48

(2) 馬が強くて逆算が難しいことに気づき銀に変えてみた。
すると角の邪魔駒消去が入ることがわかった。

画像49

(3) 力任せに逆算してみた。
不動駒は少ないが、玉を引っ張り込む逆算はセンスが悪い。

画像50

(4) 23銀に同飛は、41飛成の好手で詰むことを発見し、冒頭の図に落ち着いた。

画像51

【 補足解説 】
まず、素材を逆算しやすい図に変更しているのがポイントです。

画像52

25桂、(イ)同と、34香、(ロ)同玉、44飛成 迄5手。
(イ) 32玉は33香迄。34玉は45飛成迄。
  同馬は42飛成、34玉、44龍迄同手数駒余り。
(ロ) 同馬は42飛成迄。

素材の玉方15歩に着目して、これを動かす逆算を入れる場合、飛車を縦に活用して詰ます手が度々出てきます。
これを香一本で済まそうというわけです。
また、駒井めい作③との違いは、持ち駒を香のままにして変化処理をしているところです。
持ち駒に飛車のような強力な駒を持たせると、どうしても余詰のリスクが増して逆算しにくくなります。
創作を進める過程で浮き彫りになった問題点を、素材の図に反映させて作り替えるのは、高度ですが重要な技術です。
これができると創作の幅が広がります。
作り替えた図において重要なことは、玉方14とは24とでも同様の手順が成立するということです。
配置の遊びがあることに着目して、作者が行った逆算は下図のようなものです。

画像53

35角、(イ)同と、36桂、(ロ)同と、45香、(ハ)同玉、55飛成 迄7手。
(イ) 43玉は44香迄。45玉は56飛成迄。
(ロ) 43玉は44香迄。45玉は56飛成迄。
  同馬は53飛成、45玉、55龍迄同手数駒余り。
(ニ) 同馬は53飛成迄。

なぜ初手36桂では詰まないのでしょうか?
初手36桂に45玉と進めた局面にその秘密があります。

画像54

ここで56飛成として詰ましたいところですが、攻方46角が龍の利きを遮っていて36玉と逃げることができます。

画像55

攻方46角は邪魔駒で、この角を消去してからでないと36桂が成立しない構造になっているのです。
このような配置の遊びがあるときは、邪魔駒消去が入ることがあるので、頭の片隅に入れておくとよいでしょう。
さて、作者はここから更なる逆算を行っていて、実際に行ったのは攻方の銀を活用する逆算です。
ここまで紐なしの捨て駒が中心でしたが、盤上の攻方駒を活用して不動駒を極力減らすのも考えてみたい逆算です。
不動駒が少ないから良い詰将棋というわけではありませんが、盤上の駒は目一杯動いてくれた方が感触は良くなりやすいです。
ただ、短編(17手以下)として仕上げるなら、下図のような逆算では面白くありません。

画像56

24銀、44玉、35角、(イ)同飛、
36桂、(ロ)同飛、45香、(ハ)同玉、55飛成 迄9手。
(イ) 43玉は44香迄。45玉は56飛成迄。
(ロ) 43玉は44香迄。45玉は56飛成迄。
  同馬は53飛成、45玉、55龍迄同手数駒余り。
(ハ) 同馬は53飛成迄。

攻方44歩は初手24銀に43玉とする変同(変化同手数駒余らず)を消した意味があります。
初手24銀は角の紐が付いていて玉を追っていく手です。
現代の短編では、こういう不利感のないゆるい手はマイナス評価になりやすいです。
妙手が一手入ればよいという考え方もありますが、現代では妙手に加えて終始緊張感のある短編が好まれやすいです。
短編に求められる要件は、昔と比べて厳しくなっているのが現状です。
さて、作者が行った逆算に戻ります。
作者の完成図ならば、初手で23銀と出ていく手に成と不成の選択肢があります。
更に2手目同飛の変化があって、その変化に3手目41飛成という少し発見しづらい手を含みます。

画像57

これにより、ゆるい手にならずに手順の緊張感が保たれています。
この逆算を成立させるのは読み・経験・知識が相当必要で、正直簡単ではありません。
とにかく盤上の攻方駒を活用するような逆算は、逆算の幅を広げるためにも覚えておきたいところです。

(11) いりす

画像58

33銀成、(イ)12玉、62龍、(ロ)42香、同龍、同馬、
23成銀、同玉、24香、(ハ)同玉、34飛成 迄11手。
(イ) 24玉は34成銀迄。
(ロ) 22歩は同龍迄。
  32歩は同龍、同馬、同飛成、11玉、22龍迄。
  42桂は同龍、同馬、24桂迄。
  42銀は同龍、同馬、23銀迄。
  42金は同龍、同馬、22金迄。
  42角は同龍、同馬、23角迄。
  52歩は同龍、同馬、32飛成、11玉、22龍迄。
(ハ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成。

【 作者解説 】
① 持駒に香があるので、合駒で香を出すことを考えます。
② 23に駒を捨てる逆算にする場合、1回動かした駒を捨てるほうが世間のウケがいいので、動かしておきます。
③ 初手の紛れを、限定合で詰まないようにします(偶然)。
④ ソフトにかけて完成。

【 補足解説 】
合駒で香車を入手して、その香車を捨て駒にして詰ます手順です。
これも素材を存分に活かした逆算と言えるでしょう。
ただ、香車に限らず受方に合駒を限定させるように作るのは簡単ではありません。
合駒が香車に限定されるロジックを見てみましょう。
初手から33銀成、12玉、62龍と進めたのが下図です。

画像59

22に合駒をするのは同龍迄。
32に合駒をするのは同龍、同馬、同飛成、11玉、22龍迄。
52に合駒をするのは同龍、同馬、32飛成、11玉、22龍迄。
さて、42に合駒できる駒は角・金・銀・桂・香です。
角・金・銀・桂は同龍、同馬と進めて、取った駒を打って簡単に詰みます。
42香と合駒をするのが最も手数が長く、素材の作意に合流します。
逆算で合駒を限定するためには、特定の合駒を打つ以外の手順を処理しなければなりません。
考慮しなければならない手順が単純に多く、簡単ではありません。
しかし、本作は素材を大きくいじることなく香合に限定しています。
ポイントは香合に限定できそうな局面まで逆算を進めていることです。
素材から攻方33金を追加で配置して23金、同玉の逆算を入れたのが下図です。

画像60

23金、同玉、24香、(イ)同玉、34飛成 迄5手。
(イ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。

合駒を限定するには駒の特性をよく考えることが重要です。
斜め前や横に利きがある駒を入手すると、すぐに詰むような配置にすることで合駒を明快に限定しています。
飛・角・金・銀の合駒は最善の応手ではなくなり、桂・香・歩が延命するための合駒として候補に残ります。
ただ、桂も入手すれば24桂と打ってすぐに詰むので、残る問題は香・歩を差別化することです。
本作は玉方43歩と追加で配置することで、二歩禁を利用して42歩と合駒ができないようにしています。
もっとスマートに歩合を処理できればよいのですが、そう都合良くいくことは少ないです。
仮に歩合の変化を割り切れたとしても、駒数が増えすぎてしまうのであれば悩ましいところです。
歩合を処理する最終手段として覚えておくとよいでしょう。
創作経験が浅い人にとって限定合の手順を入れるのは、とてもハードルが高いです。
限定合が出てくる詰将棋をよく鑑賞・分析して、知識を蓄えていくとよいと思います。
オススメは石川和彦著「詰将棋入門」で、PDF版は無料で入手できます。

様々な詰将棋が手筋ごとに分類されていて、創作を勉強する上でもとても役立ちます。
さて、逆算に話を戻します。
結局、香合をさせるためには例えば下図のようになるでしょう。

画像61

62龍、(イ)42香、同龍、同馬、23成銀、同玉、
24香、(ロ)同玉、34飛成 迄9手
(イ) 22歩は同龍迄。
  32歩は同龍、同馬、同飛成、11玉、22龍迄。
  42桂は同龍、同馬、24桂迄。
  42銀は同龍、同馬、23銀迄。
  42金は同龍、同馬、22金迄。
  42角は同龍、同馬、23角迄。
  52歩は同龍、同馬、32飛成、11玉、22龍迄。
(ロ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成。

作者は更なる逆算を行っている点が、次に重要なポイントでしょう。
攻方33金を成銀に変更して、攻方42銀・玉方23玉と配置を変更すると、作者が作った図に近くなります。
33銀成、12玉の逆算を入れたいということです。
作者解説にもある通り、23金と単純に捨てるより、一度33銀成と活用してから成銀を捨てた方がより効果的だと判断したわけです。
しかし、このままでは33銀成に24玉とされると詰みません。
本作の攻方65龍は5段目に利かせてこの変化を処理した意味があります。

画像62

これで33銀成に24玉は34成銀迄で簡単に詰みます。
9手詰の段階では攻方の龍は合駒で香を入手するためだけの役割でした。
2手逆算してこの配置にすることで、攻方の龍が変化おいても重要な駒になり、65に置かなければならない理由もできました。
配置駒の経済性を高めることは難しいことですが、作品の完成度を上げるために意識してみたいポイントの一つです。

(12) ss

画像63

13香、(イ)12香、同香成、同玉、15香、(ロ)13香、同香成、(ハ)同玉、
15香、(ニ)14香、同香、(ホ)23玉、33角成、(ヘ)14玉、15馬、(ト)13玉、
14香、(チ)同桂、24馬、同玉、25香、(リ)同玉、35飛成 迄23手。
(イ) ・21玉は31角成迄。
  ・12桂は同香成、同玉、15香、14香、同香、13香、
   24桂、23玉、33飛成、同馬、同角成、14玉、
   36角、25歩、15香迄。
  ・12銀は同香成、同玉、15香、14銀、同香、23玉、
   33角成、同馬、同飛成、14玉、15銀、25玉、35龍迄。
  ・12金は同香成、同玉、15香、13香、同香成、同玉、
   24金、12玉、13香、21玉、31角成迄。
  ・12飛は同香成、同玉、15香、13香、同香成、同玉、
   14香、23玉、33角成、同馬、同飛成、14玉、15飛迄。
(ロ) ・21玉は31角成迄。
  ・23玉は33角成、同馬、同飛成迄。
  ・13桂は同香成、同玉、15香、14銀、同香、同玉、
   26桂、13玉、24銀、13玉、23銀成、同玉、
   33角成、同馬、同桂成、24玉、22飛成迄同手数駒余り。
  ・13銀は同香成、同玉、24銀、14玉、15香、25玉、35飛成迄。
  ・13金は同香成、同玉、24金、12玉、13香、21玉、31角成迄。
  ・13飛は同香成、同玉、14香、23玉、33角成、
   同馬、同飛成、14玉、24飛迄。
(ハ) 11玉や21玉は22飛成迄。
(ニ) ・23玉は33角成、同馬、同飛成迄。
  ・14桂や14銀は同香、23玉、33角成、同馬、
   同飛成、14玉、15香、25玉、35龍迄。
  ・14金は同香、23玉、33角成、同馬、
   同飛成、14玉、24金迄。
  ・14飛は同香、23玉、33角成、同馬、
   同飛成、14玉、24飛迄。
(ホ) ・同玉は15香、23玉、33角成、同馬、同飛成迄。
  ・同桂は24角成、同玉、25香、同玉、35飛成迄。
(ヘ) 同馬は同飛成、14玉、15香、25玉、35龍迄。
(ト) 23玉は33桂成、同馬、同馬、14玉、
  23角、25玉、15馬迄同手数駒余り。
(チ) 23玉は33桂成、同馬、同飛成迄。
(リ) 同馬は33飛成迄。13玉は22飛成迄。

【 作者解説 】
まずこの図を逆算するにあたり、出題者が初心者向けに解説しやすいように、最終形の図面は変えないことにして話を進める。
ぱっと見で私が気付いたことは…
① 13桂は動かせるはず。
② 15歩も動かせそう。
③ 23X同玉は確実に入る。
逆算を始めるにあたっての方針はこの3つにした。
最初に考えたのが下図。想定(妄想)手順は23銀、同玉、15桂、同歩、24香、同馬、32飛成。
こうなればおいしいが初手24桂で詰んでしまうし、そもそも23銀、同玉、15桂には12玉と引かれて詰まない。
ただし、こういう入ったら味の良い手順を妄想してみることは大切である。

画像64

15桂を入れるのは難しそうなので次に考えたのは次図。
14馬、12玉、13歩、同桂、23馬、同玉、24香、同馬、32飛成まで。
入りは平凡だがこれなら桂も動かせる上に馬捨ても入って詰将棋らしくなっている。
創作初心者なら十分合格点を与えられる出来だろう。

画像65

ここで切り上げてもよかったのだが、しばらくいじっているうちに36馬を41角配置に代えれば1筋で香打から合駒を出せそうなことに気付く。
図のような配置にして14香、12香合、同香成、同玉、14香、13香合、同香成、同桂、23角成以下。
ただし残念ながらこれは桂合で詰まない。

画像66

そこで桂合を詰ますために持駒を香2枚にしてみたが、これには14香、12桂合、同香成、同玉、14香に13桂(移動合)!という作ったような絶妙の受けがあってやはり詰まない。
これで一作作れそうなシノギなのでどなたか使ってやって下さい(笑)
そこから紆余曲折あってたどり着いたのが本図。
図面を一段ずらしただけなのだがなんとこれで桂合の逃れをクリアしている。
すなわち15香、13桂合、同香成、同玉、15香、14桂(移動合)には31角成とこちらに角を成って詰む。
配置の平行移動を詰ますために使うのは珍しい。

画像67

これで完成でもよかったが、導入を繰り返し趣向っぽく見せるために玉を11に移動させて香合を増やして完成とした。
ただ初手の香打ちだけ打点が限定されていないのは嫌われるかも知れない。
以上報告終わり。お付き合いありがとうございました。

【 補足解説 】
素材から玉を23→12として攻方14馬を追加で配置したのが最初の逆算です。
23馬、同玉の逆算を入れたわけですが、雲虚空作との違いは馬を24ではなく14から捨てているところです。

画像68

23馬、同玉、24香、(イ)同玉、34飛成 迄5手。
(イ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。

馬の利きを活かして13X、同桂という逆算が入りそうですし、どこかで攻方26桂の利きを活かして14馬と入る逆算も期待できます。
こうした逆算が後々成立するかは別として、ある程度先を見越した逆算というのも慣れてくるとできるようになります。
ここからどのように逆算をしていくのがよいでしょうか?
作者によって目の付け所は当然変わると思いますが、攻方14馬と配置したからには、
① 攻方馬を活用する逆算
② 玉方桂を動かす逆算
といった手順はひとまず考えてみたいところです。
①については、23馬と捨てる前にその馬を何かしらの形で活躍させたいということです。
散々活躍してくれた大駒を最後に捨ててフィニッシュというのは、詰将棋においてしばしば使われる有効な演出です。
②については、捨て駒で守備駒を動かすという逆算の基本とも言える手順です。
攻方31飛がいる関係で玉の可動域は狭く、玉を動かす逆算ばかり狙ってるとすぐに限界がきます。
守備駒を動かしながら玉を動かす逆算も入れていくと、上手く手数が延びてくれることがあります。
そこで玉方21桂と配置を変更し、13X、同桂の逆算を狙ってみます。

画像69

13に捨てる駒は何がよいでしょうか?
例えば、金を持ち駒にして13金、同桂を考えてみます。

画像70

13金、同桂の逆算は成立していますが、23金、11玉、12香迄など多数の余詰があります。
斜め前に利かなければよいと考えて飛を持ち駒すると、13香、同桂、11飛打、22玉、13馬迄などの余詰が生じます。
盤上から捨てれば着手の自由度が低くなるだろうと考えて攻方25桂を追加で配置して初手13桂成を狙うと、13に桂の利きがあるために初手23馬と逆算前の作意で詰んでしまいます。

画像71

これらの余詰を潰していくのも一つの方針ですが、もっと簡単に成立させられる捨て駒はないでしょうか?
ここは香あるいは歩を持ち駒に追加するのが明快です。

画像72

13香、(イ)同桂、23馬、同玉、24香、(ロ)同玉、34飛成 迄7手。
(イ) 22玉は32桂成、同馬、同飛成迄。
(ロ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。

初手13香は馬の利きで支えられているので紐なしの捨て駒ではありませんが、22玉とかわす変化もあるので十分な手になっています。
念のため確認しておくと、初手23馬は同玉、24香に同玉や同馬で詰みません。
玉方21桂を動かして13の地点を塞いでからでないと、23馬と捨てる手は成立しません。
逆算をするときに手順が成立するロジックを確認しておくことはとても重要です。
ここから更に逆算していきましょう。
13の地点が空いたので、玉を12→13として14馬(あるいは14角成)と入る逆算を考えてみます。

画像73

捨て駒で守備駒や玉を移動させる逆算は基本かつ重要な手順です。
ただ、盤上の攻方駒を活用する逆算も是非とも覚えておきたいところです。
問題はこの馬をどこから持ってくるかです。
とりあえず攻方41角と配置してみます。

画像74

14角成、12玉という逆算は成立していますが、初手14香からも詰んでしまいます。
以下、24玉なら34飛成迄、22玉なら32角成、同馬、同飛成迄です。
14香に24玉の手順を不成立にして余詰を消すなら、攻方21飛の利きを遮ればよさそうです。
攻方32角あるいは32馬と配置することになるでしょう。

画像75

(A)14馬、(イ)12玉、13香、(ロ)同桂、23馬、同玉、
24香、(ニ)同玉、34飛成 迄9手。
(イ) 22玉は32桂成、同馬、同飛成、11玉、12香迄。
(ロ) 22玉は32桂成、同馬、同飛成迄。
(ニ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。
(A) 14香は24玉以下逃れ。

14香に22玉の手順を不成立にして余詰を消す場合、32の地点に攻方駒が3枚利いていることが原因なので、25~69に馬を配置すればよさそうです。

画像76

(A)14馬、(イ)12玉、13香、(ロ)同桂、23馬、同玉、
24香、(ニ)同玉、34飛成 迄9手。
(イ) 22玉は32桂成、同馬、同飛成、11玉、12香迄。
(ロ) 22玉は32桂成、同馬、同飛成迄。
(ニ) 同馬は32飛成迄。12玉は21飛成迄。
(A) 14香は22玉以下逃れ。

更に逆算するつもりなら、どの図からどのような逆算が入りそうか考えていくことになるでしょう。
最終的に作者が選んだのは攻方32馬と配置する図でした。
玉方13玉→22玉、攻方32馬→41角と配置を変更すれば、32角成、13玉の逆算が入るかもしれません。
「馬を1回動かせたならもっと動かせないか」などのように、ここまでの手順がより際立つように欲張ってみることは重要です。
余詰を消すために1段平行移動したのが下図です。

画像77

33角成、(イ)14玉、15馬、(ロ)13玉、14香、(ハ)同桂、
24馬、同玉、25香、(ニ)同玉、35飛成 迄11手。
(イ) ・12玉は22飛成迄。
  ・13玉は22飛成、14玉、24龍迄。
  ・同馬は同飛成、12玉、13香、43角迄。
(ロ) 23玉は33桂成、同馬、同馬、14玉、
  23角、25玉、15馬迄同手数駒余り。
(ハ) 23玉は33桂成、同馬、同飛成迄。
(ニ) 同馬は33飛成迄。13玉は22飛成迄。

私ならこの逆算に行き着くと思いますが、作者は別の逆算を見つけました。
玉を23→13と配置を変更したのが下図です。

画像78

15香、(イ)14香、同香、(ロ)23玉、33角成、(ハ)14玉、
15馬、(ニ)13玉、14香、(ホ)同桂、24馬、同玉、
25香、(ヘ)同玉、35飛成 迄15手。
(イ) ・23玉は33角成、同馬、同飛成迄。
  ・14桂は31角成、24玉、25香、同玉、35飛成迄。
  ・14桂打や14銀は同香、23玉、33角成、同馬、
   同飛成、15香、25玉、35龍迄。
  ・14金は同香、23玉、33角成、同馬、
   同飛成、14玉、24金迄。
  ・14飛は同香、23玉、33角成、同馬、
   同飛成、14玉、24飛迄。
(ロ) ・同玉は15香、23玉、33角成、同馬、同飛成迄。
  ・同桂は31角成、24玉、25香、同玉、35飛成迄。
(ハ) 同馬は同飛成、15香、25玉、35龍迄。
(ニ) 23玉は33桂成、同馬、同馬、14玉、
  23角、25玉、15馬迄同手数駒余り。
(ホ) 23玉は33桂成、同馬、同飛成迄。
(ヘ) 同馬は33飛成迄。13玉は22飛成迄。

私が先程挙げた11手案と手順は似ていますが、4手延びて15手になっています。
攻方32飛の利きが通っている状態で、玉が14まで動かされるのは危険であるためにこの手順が成立しています。
攻方が15香と合駒を伺う手に14Xと捨ててから23玉とかわすことで、攻方32飛の利きを遮断させつつ14玉と逃げる手を可能にしています。
初手15香である理由は、代えて14香としてみたときの手順を考えれば分かります。
初手14香に23玉、33角成、14玉、15馬、13玉、14香、同桂、23馬、同玉と進んだときに、攻方の持ち駒が不足していて詰みません。

画像80

そのために初手15香と離して打って合駒を伺うわけです。
また、14Xが香なら6手目14玉迄の局面で15馬と攻方32飛の利きを再び通すしかなく、延命できています。

画像79

上図で持ち駒が香+香ではなく、桂+香など香以外の駒を持っていたらすぐに詰むことを確認してください。
非常に高度な逆算で誰にでも真似できるわけではないですが、手順が成立するロジックだけでも理解してみてください。
本作はここから香合が更に出る逆算に辿り着いています。
素材の作意では香を捨てるわけですが、香合が複数回出る逆算が入ったことで、手順が一つのストーリーとして繋がりました。
真似できる部分・真似できない部分とどちらもあったと思いますが、一流作家の逆算技術が垣間見えた意味では、何回も鑑賞して理解してほしい一作です。


ここまでは実力のある作家の逆算を見てもらいました。
大変嬉しいことに、最近詰将棋創作を始めたという新人の方も課題に答えてくださったので、最後に紹介しておきます。
是非皆さんも本課題に挑戦してみてください。

(13) カワセミ①

画像81

42龍、(イ)同角成、23金、同玉、24香、(ロ)同玉、34飛成 迄7手。

【 作者解説 】
とりあえず23に金を捨てる筋が余詰なしなので駒を取ってから金を捨てる順を考える。
そこからさらに香車を取れる順がないかなーと模索してるけど今のところ分からない。
このままで完成なら41馬になるけど金を取る手から始めるのはちょっと嫌だなー。

【 駒井めいのコメント 】
作者は意図して盤上の駒を取る手を入れているわけですが、これは評価が分かれるところです。
龍を捨てて金を入手しているので、結果的には攻方は自ら損なことをしています。
しかし、龍で金を取った瞬間は攻方の駒得であるため、捨て駒などと比べるとどうしても手の不利感が分かりにくく、高い評価は得られにくいです。
盤上の駒を取るにしても、その駒を動かしてから取るなどの工夫をすると、手順の印象も少し違ってくるでしょう。
ただ、2手目同角成という応手が入っているところは十分な工夫でしょう。

(14) カワセミ②

画像82

84角成、(イ)72角、23金、同玉、24香、同玉、
51馬、42香、同銀、15銀、25玉、21飛成、
35玉、24龍、36玉、37香 迄17手。

【 作者解説 】
< 修正前図の作者コメント >
前に投稿したように金をどこかで補充したいので開き王手で金を回収、そこから角を再利用できるように配置して4筋の合駒を限定させつつ余詰を消す歩を配置して完成。
※下図を投稿した後、作者が修正を行った。

画像83

< 修正後図の作者コメント >
先程の図から16金を銀に変えるだけだと余詰があることが分かっていたので、まず27銀を17歩に変更し不詰にし、36玉〜47玉の脱出口を作る。
そこから38に金を設置して詰む形を作る。
せっかくなので初形に成駒なしでできることに気づき全部表にする。
今度こそ手順前後がないかを確認して完成!

【 駒井めいのコメント 】
収束を変えてしまっているので、課題作としては弱いです。
その代わりに十分な工夫が盛り込まれました。
盤上の金を取っている点は先程と同じですが、攻方42角が合駒で香を入手するのにも活躍しています。
これで全体の印象がだいぶ変わっています。
金を入手する方法はもう少し考えたいところですが、手順の流れを意識して創作しているところにセンスを感じます。
今後の作品にも期待したいです。