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WFP2023年11月号 感想

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
Web Fairy Paradise 2023年11月号(第185号)の感想を書いていきます。


1.はじめに

(p.2)

2025年2月号で200号だそうです。
2016年10月号が100号でした。
今から楽しみですね。

2.非対称性の影響と応用

(pp.3-4)

駒の利きの上下非対称性に関する考察。
ここでは記事内容から少し脱線して話をしていきたいと思います。

利きの非対称性を活かした最近の例として、るかなん氏が発表した中立駒作品(WFP第181号 WFP作品展153-4)があります。
中立玉に対して玉以外の中立駒で王手を掛ける場合、金・銀・桂・香・歩といった利きが非対称な駒種でしか成立しません。
特に金や銀は縦・横・斜めの三方向に分解して考えると、対称・非対称が入り混じっています。
どの方向を利用して王手を掛けるかに注意する必要があります。
一方、利きが完全に対称な飛・角の中立駒では、どう王手を掛けても自玉にも王手を掛けた扱いになってしまいます。

更に話が脱線しますが、ここで一つの疑問が生じます。

利きが完全に対称な中立駒で、中立玉に王手を掛けるには?

フェアリーなので更なるフェアリー要素の追加で”スマートに”実現できるのか。
極論として、都合の良いフェアリールールを作ってしまうという力技で実現できます。
そうではなく、自然に実現する方法はあるでしょうか?
私も考えてみますが、興味がある方は是非考えてみてください。

話を戻します。
利きが左右非対称な駒はどうでしょう。
本将棋にはありませんが、大局将棋の横牛などフェアリー駒も含めれば少数ながら存在します。
他にも中将棋の角鷹飛鷲のような上下非対称性が特殊な駒もあります。

生駒と成駒で対称性の有無がピュアに変化する駒を使うのも、アイデアの一つでしょう。
下図は中将棋の仲人が歩に成るフェアリー駒を導入した例です(仲人は本来は成ると酔象)。

作意手順:
13仲、同玉、12仲、14玉、13仲成 迄5手

チェスのナイトを使って、下半分の利きがない”ハーフナイト”を新たに定義するのも面白そうです。

これら駒自体の性質に加えて、記事で述べられている近縁ルールのことも考え出すと、まだ誰も着目していないテーマの一つや二つは平気で眠っていても不思議ではありません。

3. WFP154-2再出題及び第155回WFP作品展結果

(pp.14-33)

WFP作品展鑑賞室:http://k7ro.sakura.ne.jp/wfp/EnjoyWFP.html

155-3 駒井めい作

自作。
点鏡を単なる駒二枚の性能入れ替えとして使うのは勿体ないと考えたのが本作の出発点。
点対称というのが他の性能変化ルールにはない独特な概念。
状況を丸ごと入れ替えられるというのが私なりの答えです。

155-4 せら作

受方Q王と攻方王の双玉。
Queenの利きは広範囲に渡るので、捕まえにくいだけでなく、Q王による逆王手も強烈です。

155-5 せら作

逆算不可能な詰上図。
着眼点が素晴らしい。

155-9 さつき作

衝立詰において情報を得るための戦略が味わえる作品。

4.第5回フェアリー短編コンクール

(pp.50-64)

第8番 さつき作

衝立詰で邪魔駒消去。
邪魔駒である攻方歩を消去すると、65馬に対して無反応のときの候補が二択から三択に増えます。
邪魔の意味付けや不利感が衝立らしく表現されています。

5.協力詰・協力自玉詰 解付き #18

(pp.65-71)

私の担当コーナー。

フェアリー雑談

Anti-Kingルールを紹介しました。
Anti-King詰やAnti-King協力詰として使ってる分には概ね問題ありません。
他のルールと組み合わせる際に、その都度決めなきゃいけない細則は出てくるでしょう。

18-1 上谷直希作

作者は既に透明駒自作ミニ作品集を出していますが、第2弾を検討中とのこと。
本作は受方に協力させるための攻方歩生。
ルールの特徴がよく表れています。

18-4 上谷直希作

行き所のない駒と二歩という二種類の禁手を利用。
詰上りに複数の禁手が絡むのは原理的に当然有り得えます。
しかし、実際に作品に登場するのは割と珍しい気がします。

18-5 springs作

受方に角合をさせるために攻方龍が寄り道。
ちょっとのつもりが大きな寄り道になってしまうのも良い表現。

6.「詰将棋メーカー」好作選(2023年9・10月)

(pp.72-83)

今回も選題とコメントで関わっています。

No.85 げん作

受方香をピンする明快な手順構成。
表面的には受方角で受方香をピンしていて、天竺ならではのピン構造になっている。

No.91 springs作

攻方金を66から56の地点に動かすが、一手で行けるのにわざわざ遠回り。

No.93 takubon作

市松模様の初形から次々と駒が消えていくのが楽しい。

No.97 springs作

二枚の受方角の利きをそれぞれ遮断して詰ます過程を、攻方銀一枚で行います。
目的も手段も明快で、とても気持ちの良い作品。

No.99 げん作

角の利きが11の地点まで届くか否かは、角の位置が重要となります。
桂を打つ33の地点が境界で、攻方角を44から22の地点に移します。
この考え方は詰将棋では既に存在していますが、特に名称のない手筋です。
チェス・プロブレムの用語を借りるなら、Critiral moveが近いでしょう。
詰将棋だと持駒の概念があるので、同種駒の打替えもバリエーションとして生じます。

No.113 げん作

打歩詰を打開するために受方駒を呼び込むのは、普通詰将棋でも見られます。
ただ、本作の打開方法はIsardamに由来するもので、普通詰将棋とは異なる雰囲気になっています。

7.るかなん雑記

(p.83)

連続王手の千日手に関して「双方が王手を掛け合ったら…?」というテーマがあります。
このテーマは最近では上谷直希作(WFP第171号 WFP作品展145-7)で論じられています。
千日手の起点がどこになるかが重要なわけですが、コラムで示されたるかなん作はこのテーマが明快に表現されています。
コラムでサラッと示されてしまったものの、このテーマを論じる上で非常に価値のある作品でしょう。

8.作品募集一覧

(p.85)

ちょっと早い2024年年賀詰作品展

WFPで毎年行われている恒例行事。
前回は秒で諦めたのですが、今回は辰年でハードルが低そうだったので、頑張って作品を投稿しました。