めいのぼやき20 面白い

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
今回は詰将棋の「面白さ」について考察してみようと思います。

1.「面白い」って何?

M. S. Davis: "That's Interesting! Towards a Phenomenology of Sociology and a Sociology of Phenomenology", Philosophy of the Social Sciences, 1 (1971) 309-344

という面白そうな論文(有料)を見つけたので読んでみました。
超ざっくり言うと、「”面白い”って何?」というのを社会学的な観点から論じたものです。

How do theories which are generally considered "interesting" differ from theories which are generally considered "non-interesting"?

で、結論としては「予想を裏切られることで人は面白いと感じる」ということです。

Interesting theories are those which deny certain assumptions of their audience, while non-interesting theories are those which affirm certain assumptions of their audience.

詰将棋に当てはめて考えてみると、予想を裏切るような意外性のある手順や詰め上がりなどは確かに面白いですね。
当たり前のことを言っているように聞こえますが、こうやって言語化して意識することは大切だと思います。

2.「面白い」の分類

更に、「面白い」と人が感じる現象について、12パターンに分類できると論文では述べられています。
論文を引用しながら、詰手筋に無理矢理当てはめていきたいと思います。
今回扱った詰手筋は石川和彦著「詰将棋入門」に記載されているものです。

① 組織 Organization

a. What seems to be a disorganized (unstructured) phenomenon is in reality an organized (structured) phenomenon.
b. What seems to be an organized (structured) phenomenon is in reality a disorganized (unstructured) phenomenon.

a. 無秩序な事象のように見えるものが、実は秩序のある事象である。
b. 秩序のある事象のように見えるものが、実は無秩序な事象である。

・駒の連続活用
・駒の打替え

「手順の規則性」と解釈しました。
同じ駒を連続で活用したり、空いた地点に別の駒を打ち替えるなど、何かしらの秩序を持った手順が相当するでしょう。
馬鋸、あぶり出し、立体曲詰などもここに該当するでしょうか。

② 混成 Composition

a. What seem to be assorted heterogeneous phenomena are in reality composed of a single element.
b. What seems to be a single phenomenon is in reality composed of assorted heterogeneous elements.

a. 異質な事象の集まりのように見えるものが、実は単一の要素から構成されている。
b. 単一の事象のように見えるものが、実は異質な要素の集まりから構成されている。

・限定打
・限定合

「手の選択性」と解釈しました。
打ち場所や合駒の種類などに複数の候補があるけど正解は一つというパターンです。
攻め方あるいは受け方の指し手に駒を成るか成らないかの選択肢があるときも該当するでしょうか。

③ 抽象化 Abstraction

a. What seems to be an individual phenomenon is in reality a holistic phenomenon.
b. What seems to be a holistic phenomenon is in reality an individual phenomenon.

a. 個々の事象のように見えるものが、実は全体的な事象である。
b. 全体的な事象のように見えるものが、実は個々の事象である。

④ 普遍化 Generalization

a. What seems to be a local phenomenon is in reality a general phenomenon.
b. What seems to be a general phenomenon is in reality a local phenomenon.

a. 局所的な事象のように見えるものが、実は普遍的な事象である。
b. 普遍的な事象のように見えるものが、実は局所的な事象である。

⑤ 安定化 Stabilization

a. What seems to be a stable and unchanging phenomenon is in reality an unstable and changing phenomenon.
b. What seems to be an unstable and changing phenomenon is in reality a stable and unchanging phenomenon.

a. 安定かつ不変的な事象だと思っていたのに、実は不安定かつ変動的な事象である。
b. 不安定かつ変動的な事象だと思っていたのに、実は安定かつ不変的な事象である。

・吊るし桂

詰め上がり図における玉の周りの空間的広さ、つまり「玉の解放感」と解釈しました。
この指標は小山らの研究によって示唆されたものです。

小山謙二,河野泰人: "名作詰将棋における感性の定量的評価", 情報処理学会論文誌, 35 (1994) 2338-2346

詰め上がり図に限らず、任意の局面においても適用できそうな指標です。

⑥ 機能 Function

a. What seems to be a phenomenon that functions ineffectively as a means for the attainment of an end is in reality a phenomenon that functions effectively.
b. What seems to be a phenomenon that functions effectively as a means for the attainment of an end is in reality a phenomenon that functions ineffectively.

a. ある目的を達成するための手段として効果的に機能しない事象のように見えるものが、実は効果的に機能する事象である。
b. ある目的を達成するための手段として効果的に機能する事象のように見えるものが、実は効果的に機能しない事象である。

・邪魔駒消去(現在型)
・開き王手
・両王手
・打歩詰(現在型&勢力過剰型)

「駒の機能性」と解釈しました。
開き王手や両王手の場合は線駒(飛角香)の利きが別の駒で遮られていますが、その駒を移動させることで機能するようになります。
邪魔駒消去(現在型)や打歩詰(現在型&勢力過剰型)は、攻め方の駒が機能していない典型例でしょう。

⑦ 評価 Evaluation

a. What seems to be a bad phenomenon is in reality a good phenomenon.
b. What seems to be a good phenomenon is in reality a bad phenomenon.

a. 悪い事象のように見えるものが、実は良い事象である。
b. 良い事象のように見えるものが、実は悪い事象である。

・金頭の桂
・飛筋消角、角筋消飛
・香頭の打捨て
・邪魔駒(将来型)
・焦点の捨駒
・打歩詰(将来型)

「局面評価の変化」と解釈しました。
駒損は指し将棋の局面評価に用いられるので、一時的に損をする捨駒系(金頭の桂、飛筋消角、角筋消飛、香頭の打捨て、焦点の捨駒)はここに分類されると思います。
指した手が後に悪手の評価に変わるという意味で、邪魔駒(将来型)・打歩詰(将来型)もここに分類しました。

⑧ 相関関係 Co-relation

a. What seem to be unrelated (independent) phenomena are in reality correlated (interdependent) phenomena.
b. What seem to be related (interdependent) phenomena are in reality uncorrelated (independent) phenomena.

a. 無関係な事象のように見えるものが、実は相互に関係のある事象である。
b. 相互に関係のある事象のように見えるものが、実は無関係な事象である。

⑨ 共存 Co-existence

a. What seem to be phenomena which can exist together are in reality phenomena which cannot exist together.
b. What seem to be phenomena which cannot exist together are in reality phenomena which can exist together.

a. 共に存在し得る事象のように見えるものが、実は共に存在し得ない事象である。
b. 共に存在し得ない事象のように見えるものが、実は共に存在し得る事象である。

⑩ 共変動 Co-variation

a. What seems to be a positive co-variation between phenomena is in reality a negative co-variation between phenomena.
b. What seems to be a negative co-variation between phenomena is in reality a positive co-variation between phenomena.

a. 事象間に正の共変動(同方向)であるように見えるものが、実は負の共変動(逆方向)である。
b. 事象間に負の共変動(逆方向)であるように見えるものが、実は正の共変動(同方向)である。

⑪ 反対 Opposition

a. What seem to be similar (nearly identical) phenomena are in reality opposite phenomena.
b. What seem to be opposite phenomena are in reality similar (nearly identical) phenomena.

a. 似た事象のように見えるものが、実は正反対の事象である。
b. 正反対の事象のように見えるものが、実は似た事象である。

⑫ 因果関係 Causation

a. What seems to be the independent phenomenon (variable) in a causal relation is in reality the dependent phenomenon (variable).
b. What seems to be the dependent phenomenon (variable) in a causal relation is in reality the independent phenomenon (variable).

a. 因果関係が独立した事象(可変的)のように見えるものが、実は従属的な事象(可変的)である。
b. 因果関係が従属的な事象(可変的)のように見えるものが、実は独立した事象(可変的)である。

3.詰将棋の「面白さ」

以上のように、頻出の詰手筋を抽象化していくと、

① 手順の規則性
② 手の選択性
③ 玉の解放感
④ 駒の機能性
⑤ 局面評価の変化

といったキーワードが浮かび上がってきました。
やや言葉遊びな感じが強いですが、詰将棋を作るときの切り口として使えなくもなさそうという気はします。

というわけで、今回は詰将棋の「面白さ」について考察してみました。