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遠い海、HI-Cの味、どこを向いて歩こうか

青森の雪山に引きこもって4日、旅の最後は海へと向かいます。
海岸線を縁取るような五能線に揺られ、海の見える宿へ。

昔から、なんでか海が好きでした。マリンスポーツやBBQがしたいとかではなく。
ただ磯の香りに包まれ、潮騒を聞きながら、打ち寄せる波をぼうっと見ていると心がほぐれるような気持ちになるのです。海へ向かう旅路も、特別な気がするから長時間でも苦になりません。

一人暮らしを始めてからはそれに拍車がかかり、つらいことがあると週末ふらりと海辺に泊まるようになりました。

自分の海好きはどこから来ているんだろうと、はや数年。
この旅で答え合わせができました。

八甲田山の温泉宿で、自販機に懐かしいものを見つけたのがきっかけです。

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HI-C(ハイシー)というジュースをご存知でしょうか。
旅館や小さな飲食店などでガラス瓶に入った姿を見たことのある方もいるかもしれません。あっさり甘い、昔ながらのオレンジジュースです。

小さいころ好きだったな、と衝動買い。ひと口飲んだ瞬間に

ああ、これは家族旅行の味だなぁ

って思ったのです。それとともに頭を去来したのが、海辺の記憶です。
内陸育ちの中山家は、夏の家族旅行で伊豆の海に行くのが定番コースでした。
車で数時間揺られて海辺の旅館に向かい、日焼けするまで海にいて、夜はHI-Cのジュースを飲んで……。休みの少ない自営業の父とゆっくり遊べるのが嬉しかったことを覚えています。

海に向かい、HI-Cの薄いオレンジ味を楽しむことは、私にとって幸せな「ハレの日」の象徴だったのです。
海を眺めると心がホッとするのは、その温かい思い出と接続しているからかもしれない、と腑に落ちました。

亡き父も、なかなかの海好きだったようです。子供が生まれるまではヨットに乗るのが好きだったとか。

だからでしょうか。オレンジ色の夕日が沈む海に思わず手を合わせました。

なんとなく、空の上よりも海の彼方にいるような気がしたから。

「上を向いて歩こう」の歌には「幸せは雲の上に 幸せは空の上に」という詞がありますが、私の幸せの記憶は、遠い海にあるようです。

前を向いて歩こう。涙がこぼれてもいいから。

なんて思った一人ぽっちの春の日でした。


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