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プロフェッショナルって、エンタメって、すばらしい~舞台『笑の大学』観劇レポ~

先月、舞台『笑の大学』を観劇してきた。
全公演終了したそうなので、いまさらながらレポしてみようと思う。

感想をひとことで表すとすれば……

すごかった!!(語彙力)

舞台チケットなんてめったに購入しないのでドキドキしたけれど
購入した甲斐があった。
見られて良かったと、心から思っている。

三谷作品への愛

舞台を見に行くのは珍しい。
これまでにも、ほんの数回しか経験がない。
そのほとんどが「好きな俳優が出ているから」という理由だった。

でも今回は違う。
『笑の大学』が再演されると知ったその日に、迷わずチケットを購入していた。

すべての作品をチェックしているわけではないので、偉そうに語る資格はないけれど
わたしは三谷幸喜さんのファンだ。

三谷さんの作品に興味を持ったきっかけは『THE 有頂天ホテル』だったと記憶している。
コメディは好みが分かれると思う。
このコメディは好きだけどこのコメディはどうも、ということもあるだろう。
『THE 有頂天ホテル』を見たときに、わたしの笑いのツボはこれだと確信した。
特にあの……鹿の表彰式のシーンなんかは、思い出しただけでも吹き出してしまう。

『笑の大学』のとりこに

三谷さんの作品に惹かれ、いくつかの映画をDVDレンタルで楽しんだ。
中でも特におもしろいと思ったのが『笑の大学』だった。

娯楽規制の厳しい戦時下、検閲官と座付き作家が繰り広げる二人芝居。
主演は役所広司さんと稲垣吾郎さん。
密室の取調室でただひたすら二人がしゃべっているだけで、何か大きな事件が起こるわけでもない。
精巧な脚本と、二人の演技力を存分に堪能できる傑作だと感じた。

恥ずかしながら、この作品が映画化される前に舞台で大きな評価を得ていたことは、後から知った。

1996年にパルコ・プロデュース公演として青山円形劇場で初演された本作は、第4回読売演劇大賞で「最優秀作品賞」を受賞し、その後1998年、PARCO劇場にてアンコール公演が行われ、東京・札幌・大阪・福岡の4都市56ステージを巡演いたしました。ロシア語、韓国語、中国語、フランス語にも翻訳され、海外で上演され続けていますが、1998年以来、1度も日本で上演されていない不朽の名作が、三谷幸喜自身の演出で蘇ります!

(パルコステージ ホームページより)

あの『笑の大学』を舞台で見られる日がくるなんて思わなかった。
今回演じるのは、内野聖陽さん瀬戸康史さん
これはもう、行くしかないっしょ!

念願の初観劇

映画では劇団の公演シーンなどもあったが、舞台では一切なし。
全編取調室で、二人っきり。
冒頭から映画にはない、三谷さんらしい小ネタを挟んできて、さっそく笑いが起こる。
久しぶりの観劇に緊張していたわたしも、一瞬でリラックスできた。

セリフの多さに驚く。
2時間ノンストップでこれだけしゃべりまくるなんて、超人としか思えなかった。
どうしたらこんなにも大量のセリフを覚えられるのだろうか。
プロだからと言われたらそうなのだが、わたしには信じられなかった。

声を張り上げるシーンや派手な動きは、あるにしても
最初から最後まで二人の自然な言い回しが抵抗なくスーッと入ってきた。
ただ話すだけでもなく、演技をしながら演技だと感じさせない技術は、やはりプロなのだ。

それでいて、クライマックスに向かって一気に盛り上がる展開。
調子に乗りまくるおバカな小芝居などが、これでもかというほど繰り返され、痛快だった。
途中で拍手が沸き起こるほどだ。

内野さん演じる検閲官は、心から笑ったことがないという堅物。
そんな人間が、ただ真面目に業務をこなしているだけなのに、気がつけばおもしろすぎてたまらない動きをしているのだ。
しかもそれを、本人ですら快感を抱いているのではないかと想像できるから、憎かったはずの検閲官がどんどんチャーミングに見えてくる

信念のぶつかり合い。
検閲官も座付き作家も、それぞれの信念をゆずらない。
対決のゆくえは、座付き作家の信念に検閲官が揺さぶられるような一応の結末を見る。
しかし互いを認め、それでも動かせない世の中で、ほんの少しの希望が生まれる。
その瞬間に感動を覚える。

三谷さんのコメディの間合いが好きだ。
真剣でなければならない状況でちょろっと笑える要素があったり、日常でありがちな「これおかしくない?」というネタをあえてクローズアップしたりするところが、たまらなくツボである。
そしてそれは、役者さんの素晴らしい技量によってこそ生み出されるものなのだろう。

検閲官役・内野聖陽さん

内野さんは舞台、映画、ドラマなど幅広く活躍され、紫綬褒章をはじめ数々の章を受賞されているすごい方。
わたしが内野さんを初めて知ったのは『ふたりっ子』だったが
主演作『風林火山』は1年間じっくり見たことを思い出す。

今思えば『風林火山』の出演者がすごすぎて震える。
緒形拳さん、千葉真一さん……
あそこまで硬派な大河ドラマは減ってしまったような気がする。
その中で内野さん演じる山本勘助の野心と忠誠心が、独特な渋みをともなって抜群の存在感を放っていた

そうかと思えば『真田丸』ではちょっぴりおもしろい徳川家康役がはまっていた。
関ヶ原へ向かうにつれ残酷になっていくのだけど、まだ思慮の中にいる家康の弱さが垣間見える部分は、『笑の大学』の検閲官に通じるような気がした。

あの内野さんを舞台で見られるなんて贅沢な時間だった。
想像どおりの強烈なオーラ。カッコいい……!

座付き作家役・瀬戸康史さん

瀬戸さんも大河ドラマで活躍されているイメージがあった。
特に『鎌倉殿』のトキューサこと北条時房役は記憶に新しい。
緊迫した場面でも必ずと言っていいほど笑いをとってくる役どころ。
それなのに不自然さがなく、トキューサだから許されるという親近感・愛らしさがあった。
瀬戸さんの努力はもちろん、お人柄もあいまってなせる技なのだろうと思う。

語弊があるかもしれないが、今回の観劇で
瀬戸さんってこんなにも魅力あふれる役者さんだったのか!という発見が大きな喜びだった。
三谷さんはインタビューで「瀬戸さんとは波長が合う」と語っていた。
それが十分に伝わってきたし、これからも三谷作品にたくさん出てほしいと願っている。

エンタメは欠かせない

絶妙なテンポ、2時間ノンストップ、観客の前での一発勝負。
ものすごい集中力だ。
感動しすぎて、しばらく余韻をひきずった。
心がこんなにも躍らされ、満たされる経験は久しぶりだったし
エンタメは人生に欠かせないものだと実感した。

こんなにも素敵なプレゼントを届けてくれる、役者さんほかスタッフのみなさん。
プロフェッショナルってほんとうにすごい。

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