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やっと言えた日の帰り道

※2024/04/07開催のグリッドマンユニバースショーの朗読劇鑑賞後に書いた新条アカネSSです。
今までのグリッドマンユニバース関連作品や公式情報のネタバレには何も配慮していません。
TVアニメ、劇場版本編と朗読劇「Both Sides, Now」」鑑賞後の方向けです。
新条アカネに関するカプ要素が色々ありなので閲覧は自己責任で。
新条アカネ、内海将、アンチ(ナイト)、グリッドマン、アレクシス。

前作




やっと言えた日の帰り道


「個体から概念ね……」
久々のツツジ台からの帰り道。
肌寒くなってきた季節と、夕暮れの空の下。
私は今日の出来事を思い返していた。

内海君が行方不明になったと知ってみんなで捜索をしたんだけど、まさか肉体を失くして精神体のようなものになってるなんてね。それじゃ見つからないわけだよ。
『ウルトラマンジードにおけるウルトラマンキングのように!』って内海君の説明、すごいわかりやすかったけど、いくらなんでもやりたいことしすぎでしょ。
いや、そもそもあの世界作った神様の私が言えることじゃないんだけど。

でも去年は文化祭ステージで、グリッドマンのスーツアクターしたみたいだし。
今回は文字通り神の視点で演出までしちゃって、明らかにやりすぎ。
……暴走してない?

でも、なんだか笑えてくるかも。
私の怪獣に対しての想いは誰にも負けないくらい強いと思っている。
それでも内海君ほど好きという感情にまっすぐにはなれない。
あそこまで純粋な思いで応援されたら、ヒーローも嬉しいだろうな。

『趣味が近いからこそ、全く分かり合えないところがあったんだ。……以前は。でも、いまなら少しわかる気がする。』

今日の自分の言葉を反芻する。

内海君も私もウルトラシリーズが好き。
でも、内海君はヒーローや防衛チームが好きだし、私は怪獣や宇宙人が好き。
だから知識を確認しあうような……正直どこか上辺だけの話では盛り上がれたし、それはそれで楽しくもあった。
でもあの時の私を救ってくれるのは怪獣だと信じていたから、いくら同じ作品が好きでも彼とはそりが合わなかった。
絶対的な溝があったんだ。
でも今日は……
『どうやって!どうやったら勝てるの!教えて内海君!!』
思い返すとちょっとだけ恥ずかしい。
きっと彼が少し羨ましくなっちゃてるんだね。
私も心のどこかで、少しずつヒーローを応援できるようになりたいと思ってしまっているから。
……私もヒーローに救われた一人になってしまったから。


あの日私を救ってくれたヒーロー、グリッドマン。
今日はじめて彼に感謝を伝えられた。
きっといままでもずっと彼にお礼を言いたかったんだ。
でも言えなかった。

2年前。ツツジ台を離れるってなった時は、私は不安定でそれどころじゃなかったし。
去年のマッドオリジンが引き起こした事件の時も、慌ただしくてそのタイミングはなかった。
……いや、あっても言えなかったな。
お礼を言えたのは、きっとあの出来事があったから。



あの日の私は彼にだって謝ることができなかった。
私が産み出して、傷つけて、出来損ないだと見捨ててしまった彼。
本当はちゃんと伝えたいことがあったのに。
『昔は君のこと、すごい嫌いだったんだ。それで君に酷いこともたくさんしちゃった。』
そんな悪態じみた台詞に続く言葉が、出てこなかったんだ。
だけども彼は私に感謝を伝えてくれた。
それは私にずっと伝えたかった気持ちだったということが痛いほど伝わってきてしまった。
ひどい自己嫌悪に陥りそうだった。
私は結局卑怯で、臆病で、ずるくて、弱虫な人間。
それに対していつの間にか大人になっちゃった彼。
なんだか悔しくて、でも愛らしくて。

今日やっとグリッドマンにお礼を言えたのは――

「……あの日の君のおかげだよ。」

これもいつかちゃんと伝えられたらな。



ひとりごとが秋風に流れ、夕焼けと夜空の間に溶けていく。
もうすぐ家に着いてしまう。

『私達は一人じゃない。
どの世界にいても一人じゃない。みんながいる。』

そう信じているから、この世界で頑張れてはいる。
けれど久々にツツジ台へ行って、六花やみんなの顔を見た後の帰り道は、やっぱりどこか少し寂しい気もしてしまう。

でも久々に友達に会えたことで、一人じゃないんだって確かめられた。だから明日からも頑張れるかな。

それに今日はグリッドマンも友達だって言ってくれた。

『私さこんな他愛もない話をグリッドマンとしたかったのかもしれない。』
『他愛もない話、友達としかできないことだ。』
『……私と、友達になってくれる?』
『もちろんだ。新条アカネ。君も私の友達だ。』

ヒーローは、みんなを救ってくれるからヒーローなんだね。

『私も、グリッドマンと話してみたかったな』
過去、そのセリフと共に私は彼を傷つけてしまったことがあった。
怪獣の力を使って本当に倒したいという気持ちもあったけれど、あの日はそれだけじゃない。
ジャンクショップに、私がいらないと思ったものを押し付け続けていたあの場所に、私が望むものが沢山あったから。
それを見てやりきれない思いが爆発してしまった。

それでもグリッドマンは私を助けてくれた。
そして私を友達だと言ってくれた。
『だから、君がどの世界にいても一人じゃない。私と、みんながいる。』

彼はどこまでも夢のヒーローだったんだ。



……にしても、思えば思うほどみんな本当に変な人達。
私が作って、壊してきた世界。
傷つけて、裏切ってきたしまった人達。

全然思い通りにならない、いつも予想を超えてくる。
本当にかけがえのない友達。

本当はもっとみんなにもこの気持ちを伝えたい。
伝えなくちゃいけないんだ。

もう私は、一人ぼっちのさびしい神様じゃないから。
みんなと繋がってる。そして私が望んだ世界で生きていく。
そんな新条アカネとして――

「ありがとう」

小さく呟いたその言葉は、誰にも気づかれず夜空に消えていく。
次にみんなに会う機会があったら、しっかり伝えられたらな。





家に着いた。
玄関で靴を脱ぎ、そのまま自室へと向かう。
色々あって疲れちゃったな……とベッドに倒れこむ。

……そうだ。音楽でもかけよう。
寂しさを紛らわすにはちょうどいいし、何よりヒーローソングを聴きたい気分かも。
人造人間を開発するために集めた廃棄品のスマートスピーカー。
そのひとつを修理したものが机の上にあったんだ。

にしてもあのAI、蓬君の体を乗っ取ろうとしちゃうとはね……

ええと、たしかAIを起動するための掛け声は
「アレク……」

そこで言葉が詰まってしまった。
いや、なんでよ。なんだよ。
アレクサだよ、アレクサでいいじゃんか。
CMもやってるあれだよ。

なのに。
……もっと口馴染みのある名前を思い出してしまった。

なんだか無性にイライラしてきたんですけど。

別にどうも思ってない。
私を利用しようとしたことに対してはいまは何とも思ってないし、あんないきさつだったといえツツジ台での経験は私にとってかけがえのないものだから。
それに一年前は逆に都合よく利用してやったわけだし。

その後消えた時だって何とも思わなかったのに……

グリッドマンと改めて言葉を交わせた今日に限ってあの人を思い出してしまった。
なんなのこのモヤモヤ……

あーもう。

一応周りをキョロキョロと見回して、部屋に一人なのを確認。
そりゃ誰もいるわけないじゃんか。

机の上の黒いスマートスピーカー。
黒いボディに青いラインのランプが点灯している。
これ赤く光ってたら余計それっぽいな……っていいんだよそういうのは。

観念したようにため息を一回。
思いついてしまったからには、このモヤモヤを晴らすにはこれしかない。

あの人を思い浮かべながら、スピーカーに向き直る。
こんなことしなくてもいいんだけどなと思いつつも、今日何度目かのひとりごとを呟く。

「……君にそういったこと伝えたことなかったから。というか伝える必要もないと思ってるけど。」

前置きもいらないって。

「でも一応、今日は色々とけじめが着いた日だからさ」

一瞬あった照れが一周回って急激に冷めてきた。
何やってんすか、私。

「……正直君に対してはもう本当に何も思ってないんだよ。
ただ、ふと思い出す時があるってだけで。アンチが生まれた時、三人で夕飯を食べにドライブ行ったりとかしたじゃん。あの時とかって結構心から楽しかった……かもって。あの時だけは、利用するしないとか関係なしに本物の家族みたいだったかもって。」

そう。あれはあれで、当時の私にとっては大切な時間だったんだ。
本当にまっさらな自然体の自分。
それを受け入れてくれたはじめての人。

「……だから、ありがとう。アレクシス」

もちろんスピーカーからの反応は無い。
別に気持ちも思ったよりすっきりしない。
でも言わないよりは良かったと思う。

結局、いまどうしてるのかは知らないけど。
もし再会しても改めて言葉にはしない。
それだけは心に決めた夜だった。


おわり





あとがき

はじめは内アカだけを書きたかったのに、ショーのアーカイブ繰り返し観てるうちに色々書きたくなって、そしたらユニバ公開初日からあったこの妄想がより鮮明に頭に浮かんできたから再構築したーって感じです。
やりたいことをやりたいだけやった。

本当にあの朗読劇はすごすぎて……
グリッドマンに感謝を伝えたシーンでは涙が止まりませんでした。その前の「もっと君を知りたい」のイントロでもう号泣してたんですが。

あーでもやっぱり内アカもっと書きたい。
永遠はあるし、内アカもあるんだよ。

グリッドマンユニバースショー、というかグリッドマンユニバースというコンテンツ。
何度感謝してもしきれません。
本当に、ありがとうございました。

またいつか、みんなに会えることを信じて。

めちゃくちゃ楽しみー!!!!!!!!!!!!!!!!!

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