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ルーツの旅

昨年の秋、急遽日帰りで電車に揺られて岡山県美作市を訪れました。

85歳になる母が「もう一度、両親が生まれ育った地を訪れたい」という一言が発端でした。

祖父母は岡山県英田郡大原(現在の美作市)というところで生まれ育ちました。

母が幼い頃、両親に連れられて里帰りをし、親戚の人達と楽しく過ごした懐かしい地のようです。

記憶の地が現在どのようになっていて、親戚のみんなはどうしているのか、死ぬまでにもう一度、行ってみたいと。

ただし、親戚については、長い間、本当に長い間、連絡をとっておらず、全く情報がありません。

母より年上の人もいるため、生死不明な人もいます。

しかし、このええ加減親子はいつものごく「とりあえず行ってみよか」と現地に向かいました。

祖父は私が生まれる前に他界していますが、共働き家庭だった私は両親が帰宅するまで祖母の家に預けられていました。

幼い頃よく祖母が「宮本武蔵が生まれた町のとなり町でおじいちゃんもおばあちゃんも生まれたんや。宮本武蔵はものすごく強い人やで」と話してくれたのを今でもはっきりと覚えています。

体が弱いわりにおちょけで落ち着きのない私に母が剣道を習わせたのも、後々私が剣道にはまっていくことになったのも、祖母の話が心のどこかに残っていて、原点になったのかもしれません。

大原に着いた時、当然ですが、母は昔とガラッと変わったと驚いていました。

駅前の喫茶店に入り、休憩をとりました。
アイスコーヒーを持って来てくれた店員さんに「祖父母が生まれた場所に行こうと思って兵庫県から来ました」と話しかけていたら、おもむろに母が自分の旧姓を伝え「この辺りでガソリンスタンドをしてる人で同姓の人います?」と尋ねました。

「いやいや、無茶やから!」と心で叫びましたが、店員さんは親切に「何人か知ってるけど、その人があなたの親戚かどうかはわからんねー、役場が開いてたら行ってみたらええけど、今日は休みやからあかんね」と答えてくれました。

昔と変わっているとはいえ、母は懐かしそうで、その懐かしむ姿をしんみりと眺めながら近隣を少し歩き回りましたが、下調べもせず行き当たりばったりで訪れたため、結局、親戚に会うことはできませんでした。

また、当初は母の想いを少しでも叶えられればいいなという気持ちでしたが、徐々に母より私の気分が高揚していることに気が付きました。

育ての親の一人といっても過言ではない祖母が生まれた地、そして隣村は祖母が話してくれた剣豪宮本武蔵が生まれた地、そこに今自分がいると思うと感慨深いものがありました。

そして、せっかく来たのだからと、宮本武蔵生誕の地を観光しようとローカル線に乗って、宮本武蔵駅まで行き、「讃甘神社」「宮本武蔵生家跡」「宮本武蔵記念館」「武蔵道場」「武蔵神社」を巡って帰路につきました。

今度しっかり調べた上で、母を連れて再度ゆっくり訪れてみたいですし、他界した父のルーツを辿る旅もしてみたいと思っています。

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