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「35歳から40歳まで人生を早回ししたい」

 35歳の時、同い年の友達が言っていたことを、最近思い出した。「35歳から人生を早回しして、一気に40歳になれたらいいのに。」当時、友達も私も、会社員・夫と二人暮らし・子どもなしという状況だった。

 友達は、子どもを授かりたいと願いながら、仕事にエネルギーを注いでいた。このまま子どものいない人生となるなら、もっと仕事の幅を広げたいけれど、出産するなら仕事を中断することになる。35歳の中途半端な状態で迷っているのが嫌だから、子どもがいる人生になるのか・いない人生になるのか、早く決着のついたステージに行きたい、と言っていた。

 私は、30歳過ぎから次々に病気が見つかり、たとえ子どもを授かっても、育てる過程で自分が元気でいられる自信がなかったので、子どものいない人生に納得していた。さらに、夫との関係も良好ではなかったから、子どもを産み・育てることに積極的な希望はなかった。体力もないから、仕事は責任を果たせる範囲に限定した。でも私は、細々と静かに生きることに全く不満はなく、むしろそれが心地よかった。

 私は、友達とは別の意味で、「人生を早回しして、早く40歳になりたい」と願う35歳だった。私は、「外野の無責任な声」に、心を左右されることが多かったのだが、40歳という区切りで、うるさい声から少し解放されるのではないかと期待していた。

 「外野の無責任な声」というのは、

・子どもいないのに、仕事で管理職も目指さずに中途半端なのはよくないよ
・子ども、いないままでいいの?不妊治療するならまだ間に合うよ
・旦那さんと離婚も考えているなら、再婚活するなら30代のうちの方が有利だよ

というようなものだ。

 こうして文字にしてみると、大きなお世話なことを言われてきたなぁと思う。私にこんな言葉を投げかけたのは、上司・同僚、「元」友達(学生時代に楽しく遊んだ仲間だけど、その後はただの知り合い程度になった人たち)、親戚・実家の近所のおばちゃんたち。

 この人たちに共通するのは、私が何を考えて、どう生きているかなんて、全然知らなくて興味もないということ。テレビに映る有名人を見て「この人老けたなぁ」と感想をつぶやくのと同じくらいの感覚で、無責任なことを言う。

 そんな人たちからの言葉に耳を傾けなくてよいと頭で分かっていても、いろんな人から、折々に、似たようなことを言われると心が弱ってくる。ふと目にする雑誌やネット記事やSNSにも、幸せな結婚・念願の子宝・輝くキャリアについて書いてあると、気持ちが揺らいでいた。

 「39歳」と「40歳」には、言葉の響きに違いがある気がしていて、私が40歳になれば、子どもの有無に関して、とやかく言われることが減るのではないかと、何となく期待していた。そして実際、そのとおりになった。

 もちろん今でも、世間話の延長に、「子どももいなくて、仕事も頑張らないなんて、人生つまらなくないの?」と、言われることはある。でも、「40代」の言葉の響きのおかげなのか、30代後半の時よりも、外野の声が激減したから、私は静かに「子どもはいないけれど、キャリアアップも目指さない人生」を生きられるようになりつつある。

 35歳の当時も、もちろん頭では理解していた。私にとって大切な人たちは、私の人生について、「〇〇した方がいいよ」とはあまり言わない。私がどんな道を選んでも、自分で違うなと思って軌道修正しても、「そうなんだね」とただ聞いてくれるだけだ。

 仕事、家族、趣味・・・何にどれだけ時間とエネルギーを使うのがバランスがよいのか、人によって大きく違うし、同じ人間でも人生の時期によって異なってくるから、各自で決めるしかない。

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 今週、とりとめもなく、30代後半の日々を思い出していたのは、ちゃこさんのnoteを拝読したのがきっかけ。

母親になっても一人の女性であることに変わりないままで自己実現を望むことは、強欲なことだろうか。何かをおろそかにしていることと同義だろうか。「母親らしさ試験」の書類選考で落とされてしまうだろうか。

 ちゃこさんのnoteを1年近く読ませてもらっている私には、ちゃこさんが、何もおろそかにしていないことは容易に想像できる。仕事の「時間」を増やすことは、家族との生活の「密度」や「大切さ」を軽視することと同義ではない。

 「母親らしさ試験」を実施する人たちは、世間の常識や一般的な価値基準に照らした「正解」を語るのだろうと思う。もし、35歳の私が、一生懸命努力して子どもを授かったとしても、今度は「一人っ子ではなくて、もう一人産まないの?」と、次の「正解」に向けて努力するよう、けしかけただろう。 

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 「35歳から40歳まで人生を早回ししたい」と言っていた私の友達は、38歳で男の子を出産した。育児休業を1年しないうちに切り上げて、旦那さんと協力しながら、残業も出張もこなしている。

 またあの時と同じお店で、同じ抹茶クリームあんみつを食べながら、「人生早回しできなかったけれど、40代まで来たね」とお喋りしたいと思っている。

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【あとがき】

 「 #書き手のための変奏曲 」企画に参加して、自分で立てた目標に1年かけて取り組んでいるところです。私の目標は、明るくない・ジメジメした感情や経験について、さらっとドライに書けるようになること。私のnoteに目をとめてくれた方が、「わー、暗い人の愚痴を聞かされちゃった!」ではなくて、「ふーん、こんな人もいるのね」と読み流せるくらいの読後感を目指しています。