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優しかった彼

車道側は危ないから、女性は歩いちゃダメ」といつも、車道側を歩いてくれていた彼。

そんなことを言われたのは、後にも先にも彼一人。

一緒に夕飯を食べる時、日本酒好きの彼が選ぶ店はいつも、彼の好みの日本酒があるお店だった。

東北出身の彼は、日本酒についてのうんちくなどを語っていたが、もう記憶にも残っていない。

お店に入り、私が,無造作に上着を脱ぎ捨てていたなら、きちんとハンガーにかけてくれた。

お座敷タイプのお店では、靴はきちんと揃えてくれたり、私の履いていたストッキングの先端ラインが、私の足先とあっておらず、直してくれたこともあった。

彼の職場は東京で私は横浜、仕事終わりに待ち合わせをして、夜デートを楽しむことも多かった。

彼の趣味はサッカー、週末の日中は河原での練習や試合が多くて、会うのはやはり、夜が多かった。

その日は珍しく、彼のサッカーの試合を見に午前中からでかけていた。

試合が終わり、帰り支度を終えた彼が、私のもとへと歩み寄ってきた。

そして、私の両肩に手を置き、顔を引き寄せてきた。

えっ、今の時刻、午後2時、
そんなシチュエーションじゃないけれど、恥ずかしいので目は閉じて見た。

しばらくして彼が
鼻の下の産毛が髭みたいになっているから、剃った方が良いよ」と言ってきた。

男の人からそんなこと言われたのも、後にも先にも彼一人。

そこまで言われても、考えちゃう私がいた。

「剃るべきか、剃らざるべきか。それが問題」

と心の中で問うてる、私がいる。

毛って一度剃ると、どんどん濃くなるって聞くから、その後、彼と別れた私はあまり、髭を剃ってはいないが、髭を指摘する人はいない。

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山根あきらさんの企画している

青ブラ文学部 「剃るべきか、剃らざるべきか。それが問題だ。」という言葉を使って作ってみました。

始めての試みでして、ショートショートと言っていいのか?ですが、よろしくお願いします。

こういうのは、楽しくて良いですね、今は髭は剃るではなく、抜いています😁

楽しい企画、ありがとうございます!




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