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投資銀行の仕事紹介

投資銀行の基本情報

投資銀行は米国で生まれた金融業態であるInvestment Bankを直訳した名称です。銀行と言いながら、預金を受け入れ貸付を行う一般的な「銀行」ではありません。日本の金融機関になぞらえるなら「リテール分野をそぎ落とした証券会社」と捉えると分かりやすいでしょう。極々単純化して言えば、資金を調達したい事業法人や政府機関が、株式市場や債券市場といった資本市場にアクセスするのをサポートし(プライマリー業務)、一方で機関投資家が発行済みの有価証券を売買するのを仲介する(セカンダリー業務)、プロ向けの金融機関です。

世界大恐慌後の1933年、アメリカでグラス・スティーガル法が成立し、利益相反関係を内包する商業銀行業務と投資銀行(証券)業務の兼業が禁止されます。そこで、それまでの金融機関は法人を銀行と証券に分けて(銀証分離)、それぞれ個別の企業として独立させていくことになりました。J.P.モルガンから分離された投資銀行部門はモルガン・スタンレーになり、ファースト・ナショナル・バンク・オブ・ボストンからはファースト・ボストン(1988年クレディ・スイスにより買収)が分離、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズ(2008年破綻)は投資銀行業務に特化して生き残ることを選択しました。

初期の投資銀行はM&Aアドバイザリー、株式や債券の引受といった比較的狭い業務領域を扱っていましたが、次第に証券流通市場におけるトレーディング業務やファンド運用、プリンシパル・インベストメント(自己資本投資)などビジネスの多角化を進めていきました。また、1999年に成立したグラム・リーチ・ブライリー法により銀証分離が事実上廃止され、金融機関の再編が行われて巨大なコングロマリット化が加速したため(例えば、バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチの買収は、グラス・スティーガル法の下では実現しません)、現在の投資銀行は非常に多様なサービスを提供する金融プロフェッショナル集団となっています
投資銀行での仕事は、利益を生み出すフロントオフィスとそのサポートを行うミドル・バックオフィスに大別されます。ここではフロントオフィスを構成する主な部門である、投資銀行部門、セールス&トレーディング部門、リサーチ部門を取り上げ、それぞれの概観についてさらに詳しくご紹介します。

投資銀行部門(IBD)の基本情報

投資銀行部門は、株式や債券の発行による資金調達(キャピタルマーケット)、M&Aのアドバイザリー、IPOなどのサービスを、事業法人や金融機関に対して提供しています。部門の構成を大きく分類すると、クライアントを担当する「カバレッジ」と呼ばれるグループと、各サービスを担当する「プロダクト」と呼ばれるグループに分類されます。

「カバレッジ」は、業界ごとにチーム分けされていることが多く、例えば、製造業・商社・エネルギーなど一般的な業界を担当するGIG(General Industry Group)、金融業界を担当するFIG(Financial Industry Group)、ITやメディア業界を担当するTMT(Telecom Media Technology)、投資ファンドを担当するファイナンシャルスポンサー等のチームがあります。

「プロダクト」は、M&Aやキャピタルマーケット等のサービス毎にチームが構成されています。具体的には、M&Aアドバイザリー、株式でのファイナンスを扱っているエクイティ・キャピタル・マーケット(ECM)、債券でのファイナンスを扱っているデット・キャピタル・マーケット(DCM)等があります。また、IPOを主に扱う部門や「証券化」などに特化した部門を持つ会社もあります。

外資系の投資銀行部門では、クライアントに提案活動を行う際や、案件を遂行する際には、担当するカバレッジチームとプロダクトチームが協働して業務に取組むことが一般的です。 他方、日系の投資銀行部門では、提案活動はカバレッジ、案件の実行はプロダクトといった具合に業務が細分化されていることが多いようです。

セールス&トレーディング部門の基本情報

セールス&トレーディング部門は、投資銀行内における大きな収益源の一つとなる部門です。ここでは主として流通市場における有価証券の売買を取り扱います。流通市場とは英語ではセカンダリーマーケットと呼ばれ、既に発行されている株式や債券などを取引する市場です。
これに対し、企業や国、地方公共団体、金融機関などが資金調達を行うために有価証券を発行するマーケットをプライマリーマーケットと呼びます。通常、新たに発行する株式や社債などを証券会社が引き受け、それを証券会社が投資家に販売するまでの流れがプライマリーマーケットの領域です。この二つのマーケットが上手く機能することで市場は成立します。
セールス&トレーディング部門では、伝統的な株式や債券の他にも、デリバティブを駆使した仕組債や、オプション、外国為替、コモディティなど多岐に渡った商品を取り扱います。

<株式マーケット>

株式マーケット部門では国内外普通株式、優先株式、新株予約権付社債(転換社債)等の株式関連商品を取り扱います。セールスは機関投資家に対し、株式調査部のリサーチに基づいた株関連商品による運用提案を行います。セールス・トレーダーは、セールスが機関投資家に提案した情報に基づき、ファンド・マネージャーや金融機関、ヘッジファンド等の機関投資家から売買注文を受け、タイムリーにより良い条件でトレーダーからプライスを提示してもらい、顧客に説明し、取引を執行する仕事です。株式トレーダーは、セールスからの株の売買注文に対して価格を提示します。通常自己勘定での売買も行われ、投資対象企業の業績や、経済のファンダメンタルズ、テクニカル分析等を基に独自のトレーディング手法でポジションを持ち、収益の向上に貢献します。また顧客への価格提示はせず、自己勘定のみのプロップトレーダーや、株式裁定取引のみを行なうトレーダーも含まれます。セールス、セールス・トレーダー、トレーダーは株式調査部と共に、互いにコミュニケーションを取りながら総合的に機関投資家へのサービスを行っています。

<債券マーケット>

債券マーケット部門では、JGBやUS Treasuryをはじめとする国債や、政府発行債、一般債、外国債券、仕組み債等の商品を取り扱います。セールスは機関投資家や事業法人、政府機関等に対して、売買提案を行います。提案を受ける側の機関投資家は、投資顧問や生命保険、損害保険、ヘッジファンド、銀行等になります。セールスは担当顧客へ日々コンタクトし、顧客の投資戦略に沿った提案や、マーケット情報の提案などを行います。トレーダーは、JGBを中心とした金利商品の売買業務を主として行います。特に「国債市場特別参加者制度」(プライマリー・ディーラーシップ)で指定された金融機関や証券会社は、国債入札において「発行予定額の3%以上に相当する額で相応額を応札する」、「流通市場への流動性を供給する」、「財務省に対して毎週、国債、債券先物、円金利スワップ等の取引動向について情報を提供する」等の義務があることから、活発にトレーディングに参加し、マーケット・メーキングを行います。その他外国為替や外国債券、クレジット商品(社債やローン、関連クレジット・デリバティブ等)、金利デリバティブ(金利オプション、金利スワップ等)、コモディティー(金属やエネルギー関連商品)のトレーディングも行なわれます。

外資系においては、各プロダクト別の縦割りのレポーティングラインと、セールス、トレーディング別の横割りのレポーティングラインがあるのが一般的です。

リサーチ部門の業種別分類

リサーチ(調査)部門は、各社が顧客に提供するサービスの土台となる部門です。株式、債券、為替を中心に、マクロ経済の分析に至るまで幅広くカバーし、個別分析や見通し、投資アイデアを内外に発信しています。株式調査部、投資戦略部、エコノミスト、債券調査部、クオンツ・リサーチ等から構成されます。ここでは主に株式調査部に関して述べます。 株式調査部では国内個別企業の調査・分析を行い、個別株式銘柄の投資提案を国内外の機関投資家に提供しています。リサーチ・アナリスト業務は、個別企業を訪問して取材したり、説明会に出席したりすることによってファンダメンタルズ分析を行い、それに基づいて投資アイデアのレポートを作成し、内外の機関投資家をはじめ社内の営業部門やトレーディングチームに提供します。 株式調査部の多くは国内上場企業数百社をカバーしており、セクター毎にアナリストがいます。セクター=業種ですが、この業種は証券コード協議会が個別の銘柄について決定しています。「業種別分類項目」は、下記の通り10の大分類の下に33の中分類があります。

業種
大分類 中分類
水産・農林業 水産・農林業
工業 鉱業
建設業 建設業
製造業 食料品/繊維製品/パルプ・紙/化学/医薬品/石油・石炭製品/ゴム製品/ガラス・土石製品/鉄鋼/非鉄金属/金属製品/機械/電気機器/輸送用機器/精密機器/その他製品
電気・ガス業 電気・ガス業
運輸・情報通信業 陸運業/海運業/空運業/倉庫・運輸関連業/情報・通信業
商業 卸売業/小売業
金融・保険業 銀行業/証券、商品先物取引業/保険業/その他金融業
不動産業 不動産業
サービス業 サービス業

セクターは日系、外資系各社によってカバーしている数は違いますが、通常、シニア・アナリストとそれをサポートするジュニア・アナリスト、アシスタントで構成されます。ジュニア・アナリストは通常1~2年間シニア・アナリストをサポートした後に、自身の名前でレポートを作成するようになります。

アナリストは日経ヴェリタスやInstitutional Investor誌で人気アナリスト・ランキングの上位に入る事により、知名度が上がり、アナリストとしての評価も上がります。総合力の高い証券会社には、多くの上位ランキング・アナリストが在籍します。また、アナリストの評価にはランキングだけではなく、ブローカーズポイントという機関投資家からの評価もあります。

投資銀行の職位構造と仕事紹介

投資銀行部門の組織構成は、会社によって呼称や構成が多少異なるものの、一般的なイメージとしては、上から「マネージングディレクター(MD)>ディレクター(D)>ヴァイスプレジデント(VP)>アソシエイト>アナリスト」といった職位構造になっています。このうち、VP以上はシニア、アソシエイト以下はジュニアと大まかに分けられます。

VPとは、他業界でいうマネージャー職に相当し、一定の収益責任を負い顧客を担当するとともに、ディールを遂行する際にはプロジェクト・マネージャーとしての役割を担います。中途採用では、この職位以上は業界で既に実績がある方を採用することが一般的です。他方、ジュニアは、シニアの指示のもと任される業務を遂行します。
また、シニアはカバレッジやプロダクツのチームに属していますが、ジュニアについては特定のチームに属さず、案件ごとにプロジェクトにアサインされる形式を取っている投資銀行が多いです。

ジュニアの仕事内容ですが、案件獲得のための業務では企業向け提案資料の作成、そのためのリサーチや分析を行います。また、案件を受注した後は、そのエグゼキューションにおけるそれぞれの作業を担います。具体的には、クライアントが他社を買収するM&A案件の場合は、買収価格算定のためのバリュエーションモデル作成、買収後のシナジー効果等の分析、買収形態の検討、デューデリジェンスの取りまとめ、法定書類やミーティング資料等のドキュメンテーションといった多様な業務を担います。これらの業務を適切なタイミングで、正確に実施していくことになります。
なお、労働時間については、業務量が大変多い上にスピードも要求されることから、連日朝から深夜まで仕事をし、週末も出社するのが普通です。

これらの業務をしっかりと修得し、成果を上げ続けて評価をされれば、VPに昇格します。それ以降は1人前のバンカーとして、売上責任を持って案件開拓を主体的に行います。そして受注した後は、クライアント経営陣への助言や、プロジェクトのマネジメント、M&Aの場合は相手方との交渉などを実行します。まさに、コーポレートファイナンスの専門家として、企業の経営を支援していくことになります。
また、その影響力は、一企業の経営戦略の実現に貢献することのみならず、実力次第で時には業界再編に繋がるような歴史的なディールを手掛けることも有り得ます。

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