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私が見た南国の星 第5集「走馬灯のように」②

馮さんの手術


 三亜での私の用件は済んだが、私たちには未だ行かなければならない所があった。馮さんが、数日前から左脇に「しこり」が出来ているのに気づき、痛みがないため心配になり、病院で検査を受けることになっていたのだ。その病院は、三亜市で一番大きく設備も整っている病院なので、診断も間違いはないと彼女は確信していた。外科医師も知り合いの先生だったので、安心していたと思われる。
 診察の結果、「副乳」と診断された。これについては私も知らなかったのだが、医師は、
「直ぐ、手術をして取らなければ癌になります」
と言ったので、私たちは驚いてしまった。そんな急に手術なんて信じられなかった。腫瘍を取って病理検査をするらしい。中国では「副乳」は全部とってしまうと聞き、とても怖くなった。馮さんはそれを知っていたようなので、手術を希望した。でも、私は医師である社長に、相談をした方が良いと彼女にアドバイスをした。しかし、簡単な手術だから大丈夫と言われ、すぐに手術することになった。
 30分くらいと言われた手術が、1時間もかかったので心配だった。1時間後、手術は無事に終わったが、取り除いた腫瘍を見せられた瞬間の私は、急に気分が悪くなった。直径3.5センチくらいの球状の腫瘍は、見た時はまるでピンポン玉のようだった。
 手術が終わって30分くらい経過してから、彼女は手術室から出てきたが、まだ麻酔が効いているからなのか、とても元気だった。
 7センチくらい皮膚を切り、13針も縫ったと聞いた時は、本当に声も出ないくらい驚いた。
 中国では、何でも直ぐに手術を勧めるので、考えてみると本当に怖い。今は、腕も下ろせないくらいなので、きっと麻酔が切れれば痛くなるだろう。しかし、その後も痛みはそれほどでないらしく元気だった。
 腫瘍の病理検査結果は、3日後に出ると言われたが、やはり心配になって社長に相談すると、社長は、
「副乳なんて普通は手術をしないですよ!なぜ簡単に切ってしまうのかなぁ。中国は切るのが好きなのかもしれないですね」
と笑っていた。この話を彼女に聞かせると、
「そうですか、でも友人たちも手術をすると言っていましたので、取ってしまった方が楽だと思ったのですが」
とちょっと、首をかしげて笑っていた。もし、私だったら本当に不安でならないだろう。以前、私自身も左脇の毛穴から菌が入り、広州で手術をしたのだが、麻酔が切れた時は、痛くて我慢ができず朝まで眠れなかった。3センチでも切ったら痛いのに、7センチなんて私には耐えられない傷だと思った。彼女は本当に我慢強いと感心しつつ、検査の結果が良性であるのを祈りながら、七仙嶺のホテルへ戻った。この日は時間が長く感じて、少し疲れが出ていたが、週末で満室になっていたので、気になって道を急いだ。
 自分の疲れなど考えている暇もなく、ホテルに着くとすぐに、社員たちに客室や館内の点検をするようにと指示をした。ところが、そんな私の気持と裏腹に、社員たちは馮さんの痛々しい姿に注目していた。出掛ける時には何でもなかったのにどうしたのだろうと気になったのだろう。
「あなたたち、私の話を聞いていますか。何処を向いているの!」
と、思わず、いつもの大声が出てしまった。
「はぁい!わかりましたママ、頑張ります」
と元気な声で、勢いよく逃げられてしまった。


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