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私が見た南国の星 第6集「最後の灯火」③

中国の乾杯


 以前、私自身も酒の事で大変だったのを思い出す。中国では宴会の席で乾杯を何度もしながら、注がれた酒は全て飲み干さなければ相手に失礼だという事を知らなかった。
 海南省の偉い方が来店された折、プライベートの宿泊だと聞いていたが、総支配人の立場から挨拶をした。夜の10時頃、一緒にビールを飲む事になり、中庭で宴会が始まり、大きなグラスに注がれたビールを手に持ち、「乾杯!」と、皆さんと一緒に声を出した。すると、政府の偉い方が私の席へと来られて「乾杯をしましょう」と言った。その時副総支配人だった龍氏がいたので安心して乾杯をした。龍氏は、これから始まるパフォーマンスを小さな声で教えてくれたのです。それを聞いた私はびっくり仰天した。
「お姉さん、このグラスの中のビールは全部飲まなければ失礼ですよ。いいですか」
 そんな事を言われても、このグラスは大きいので飲み干す自信はない。しかし、もう後へは引き下がれない状況だったので、覚悟を決めて飲み干す事にした。一気で飲んでしまった私を見て、周りからは拍手喝采だった。すると、ビールは何度も注がれ、次々と乾杯をさせられてしまった。気がついたら、かなりのビール瓶が転がっていた。「もう、限界だわ」と思いながら飲んでいた私だったが、自分でも信じられないくらい気丈だった。その後、部屋に戻ってからの事は何も覚えがないくらい酔っていた。翌朝までビールの匂いが漂っている気がして、食事も出来ないほどだった。これからは絶対、こんな調子に乗らないようにと自分を責めた。これがきっかけで、その後は「私は全く酒が飲めません」と言って最初から断る事にしていた。その年から、酒を一滴ものまなくなり、今ではコップ1杯で直ぐに酔ってしまうようになってしまった。
 今回の接待で、もしも私が酒の席にいたらきっと大変だっただろう。社長や河本氏の接客に頭が下がり申し訳ないになった。この日の夜は、屋外で社長や社員と共に夜空を見ながら和やかな一夜を過ごす事が出来た。「これが小さな幸せなのでしょう」心の中で呟いた。訪中三日目の朝からも政府関係者との会談があり、休養をする暇がなかったので、おふたりともさぞかしお疲れだっただろう。政府関係者も和やかな会談が出来たと喜んでいたが、本音は緊張の連続だったと思う。それは社長が、この貧しい県の発展のために最善の努力をして貢献された事実を知っていたので、中国側がどんな質問をするのか心配だった。寛大な心の持ち主なので、質問の回答に理解が出来ない場合でも、相手を攻撃するような言動はされない。そんな方だから、私自身も数年間の業務が出来たのだと思った。

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