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私が見た南国の星 第5集「走馬灯のように」⑤

次から次にトラブルが起こります。ホテルの仕事って本当に大変そうです。

水道の水が・・


 次の難問は、翌朝7時半頃の出来事だった。
 宿泊客から水道の水が濁っているという、苦情が多く入っていると報告が入り「やっぱり」と思った。朝、洗面所の水が濁っているのに気がついていたからだ。政府の管理会社へ問い合わせるように指示を出した矢先の苦情だった。水道管から出てくる水が、泥水のようなのだから、客から苦情が入っても当たり前だった。
「申し訳ありません。先ほど政府へ連絡をしましたから、原因がわかるまで暫くの間お待ちください」
と、社員たちは、客への対応に追われていた。
管理会社の担当者がホテルに到着したのは、その1時間後だった。担当者が検査をした時には、水も少し綺麗になっていたが、私は空きペットボトルの中にとっておいた濁った水を、担当者に差し出した。すると彼は、淡々と、
「これは山から給水される際に、泥が混ざったのです。給水管の中を検査しなければわかりません」
と言った。高い水道代を支払っているのに、日頃の検査や管理をしていないことに腹立たしくなった。
「どうして日頃の管理がきちんとされていないのですか、高い水道代を徴収しているくせに何もしていなかったのですか!」
という、私の言葉をよそに、担当者はただ立っているだけだった。やはり、彼では話にならないと思ったので、
「責任者に早くホテルへ来るように連絡して!」
と、私の声が大きくなっても、彼は平気な顔をして立っているだけなので、どうしようもなかった。客の対応から戻った阿浪は、
「僕から責任者に連絡をします」
と言ってくれた。それでも管理会社の社員は無言のままで話しにならなかった。暫くして、管理会社から数名の社員がやってきた。責任者は難しい顔をしているだけで謝罪もない。ここで謝罪を求める方が間違っているのかもしれないが、早く対処をしてほしかった。
「このままの状態では、水道代は支払えませんよ!」
と、少し強い口調で言ったが、
「県政府へは報告してありますが、直ぐ対応は出来ません。暫く水を流しておいて下さい。だんだん綺麗になってきますから」
と平然とした態度だった。
「こんな事は客に説明が出来ないでしょ、それに毎日の水道代はどうなりますか?メーターどおりの料金は支払いませんよ」
私も責任者の言葉に負けてはいなかった。すると、彼は笑みを浮かべながら、
「日本人って、しっかりしているね。さすが日本人の管理者だよ、この件については県政府にも報告をしますから待って下さい」
と言って、足早に帰って行った。
 結局、宿泊客には朝食の無料券を渡して納得をしてもらった。こんな調子なので、本社からの指示通りの業務は難しかった。この現状が本社に理解してもらえず、幾度も河本氏と口論になった。河本氏も二言目には、
「日本では、このような場合には」
という言葉が出る。逆に、こちらの人に、
「ここは日本とは違いますから、よく考えて下さい。日本のように発展した国であれば問題は少ないですよ。それもわからずに、ここで投資をされたのですか」
と言われた時は返す言葉がなかった。彼等は、自分たちのやり方が正しいと思っているから、
「だったら、日本から技術者を呼んでもらえますか」
と言い出しかねない。それが河本氏には理解が出来ないのだろう。日本と中国の大きな壁の板挟みになって私は本当に苦労をした。最初は我慢をしていたが、限界が来た時は、
「すみません、だったら現地へ来ていただけますか!」
と訴えていた。そんなことも、今は思い出となったが、その頃は本当に心身共に疲れ果てていた。
 数年間、自分なりに努力をして管理をしてきたのだが、数々の苦境をわかってくれたのは、ここにいる私の家族たちだけだった。この水道の件から、管理会社の責任者とは不思議な縁が繋がり、その後は互いに譲り合ったりすることができる関係になった。その後、雨が降らない日には水も綺麗になったので、少しは気が楽になった。


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