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「軍事攻撃する」と脅迫してもトランプ大統領のアカウントが凍結されない理由

トランプ大統領の命令によってイランのソレイマニ司令官が暗殺されたことで、中東情勢が不安なことになっています。トランプ大統領はツイッターでイランに対して繰り返し「報復には報復しかえす」と脅迫を繰り返しており、事態は収まる気配がありません。

こうした、危害を及ぼす脅迫はツイッターの利用ポリシーで明確に禁じられていて、このポリシーに従って大統領のアカウント(正確にはトランプ氏の個人アカウント)を凍結するべきだという声も根強くあります。

それでも、これまでにツイッターは大統領のツイートを削除したり、アカウントに制限を加えたことはありません。これについてここ数年のツイッター社のポリシー運用を振り返っておくのは有益です。

もともと、就任直後からトランプ大統領の嘘の発言(ファクトチェックされたものだけでもこれまでに5000回を超える)、メキシコや移民に対する暴言などといったものが問題となり、大統領のアカウントを凍結すべしという意見はありました。

大統領の言動に力を得た極右系の活動家にツイッターが認証バッジを与えたことで「こうした人を承認するのか」と批判が高まり、認証プログラムが表向きは凍結されたという事件も2017年に起こってます。

また、トランプ大統領を支持しつつ差別を広げるタイプのアカウントも数多く凍結され、大統領が自らツイッターやテック系巨大企業の陰謀で保守派の言論が制限されており、自分もフォロワーを失ったと発言するといった件もありました。

こうして過激なツイートを集団として行い、たとえば保守派のアカウントが削除されると「逆陣営のアカウントも同じだけ削除しないと中立ではない」といった主張が行われ、議会で公聴会までおこなわれるという、終わりのない争い事になっている状況になっています。

ツイッターの苦悩と無能

ツイッターにおいて差別や、個人攻撃がなくならないという問題はトランプ大統領就任前から問題視されていました。しかし、トランプ大統領就任によってさらにこの問題は複雑化します。

大統領みずからが差別発言や脅迫をするとき、ツイッターはそのポリシーに従って大統領のアカウントを凍結したり、ツイートを削除すべきか? という問題が生じたのです。

凍結・削除すべきアカウント・ツイートならばそれをするのがポリシー上は正しい運用ですが、それは大統領の発言を奪い、保守派からの「言論弾圧、思想警察」といった批判が起こるのは避けられません。また、何を削除すべきかをツイッターが判断することは、政治的な議論の只中に自らを投じることに他なりませんので、ツイッターも慎重になります。

しかしそうした運用を続けているうちに「大統領が言ってるのだからOK」という具合に差別や脅迫のツイートをする人、あるいは直接それをせずとも大統領を引用して広める人も収まらない状況になってきました。

そうした流れで、2018年の1月にこのブログ投稿が行われます。

Blocking a world leader from Twitter or removing their controversial Tweets would hide important information people should be able to see and debate. It would also not silence that leader, but it would certainly hamper necessary discussion around their words and actions.
世界の政治的リーダーをツイッターからブロックしたり、問題のあるツイートを削除することは、重要な情報を人々から隠すことになり、議論を阻害します。そのリーダーを沈黙させることはできないばかりか、その言葉や行動に対して必要な議論を妨害することになります。

つまり、大統領の発言は削除するには重要すぎるので消すことはしないという、ポリシー的には降伏宣言に等しい状況を選んだわけです。

自分のツイートが削除されないことを理解したトランプ大統領はますますツイート上で言葉を選ばないようになりますし、支持者の問題のあるツイートをRTすることで代弁させるということも多くなりました。

そうした状況もあって、ツイッターは2019年の6月(上のブログ投稿から1年以上経過してから)に政治的なリーダーの問題発言を削除はしないものの、クリックしないとみられないように隠す機能を開発していると発表します。

このポリシーは、

・選挙で選ばれた政治家、政府関係者、任命をまっているものなど

・10万人以上のフォロワーをもっている

・認証バッジをもらっている

場合に適用されるとしており(あれ、でも認証プログラムは止まっているんじゃ...)、ツイートを隠すことでどのような影響があるか、同じ情報をツイッター以外で手に入れられるかといったファクターが吟味されてこの機能は適用されます。

この灰色の通知付きのツイートに指定された場合、そのツイートはアルゴリズム上で上位表示されないようになったり、おすすめされたりしないようになったり、タイムラインでの拡散が抑制されます。

しかし私の知る限り、この機能が適用されたことはいままでありません。

実際、批判的な移民系議員に対して大統領が “go back” to “the totally broken and crime infested places from which they came.「あなたたちがもともといた、壊れた犯罪まみれの国に帰れ」というツイートすら、ツイートを隠す機能の対象にはなっていません。

唯一、トランプ大統領のツイートに手が加わったケースはNicklebackの替え歌で政敵を揶揄する動画をシェアした際に、動画が権利申し立てて消えたとき一回だけのようです。

こうした流れもあって、直近だと1月5日に行われた、イランに対する攻撃を脅迫しているツイートも、灰色に隠される処置はされていません。

大統領のツイートを消すべきかという問題はたしかにデリケートなのですが、問題を放置している間にツイッターを通した政治的権力行使は止めようがなくなっています。

たとえば攻撃に対して必要な議会への通告もツイッターで十分と大統領がいいだしており、中立でありたいと思って問題を放置していたツイッターの対応が結局、状況を一方的に悪化させているようにも見えます(見方にもよると思いますが)。

というわけで、なぜ大統領のアカウントは凍結されないか、そのあいまいなポリシー運用がいまどれだけ危険な状況を生み出しているかについて、簡単なまとめでした。

p.s.

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p.p.s

ところで最初のあたりで「大統領の個人アカウント」と書きましたが、これも微妙な問題を含んでいます。

一つには、このアカウント @realDonaldTrump はドナルド・トランプ氏個人のもので、合衆国大統領のアカウント @potus は別にあるからです。

また、@realDonaldTrump は複数のひとによって運営されていることも確認されています。ドランプ氏本人がツイートをする場合、ホワイトハウスの指定したセキュアな端末ではなくiPhoneを使っていることが知られており、それに対してスタッフがツイートした場合は別の端末が表示されていることがあります。

過去に realDonaldTrump アカウントが11分ほど削除されていた事件がありましたが、それは職を去るスタッフの仕業だったことがわかっています。

これはこれで問題があって、問題のある発言をしてから「これはスタッフがやった」と言われた場合、そのツイートが大統領自身の指が打ったものであったかを証明する手間が必要になるということも指摘されています。

スタッフが下書きをする場合、大統領をまねて綴り間違いや文法のねじれもいれているという、本当なら涙を誘う話も。

p.p.p.s

どうか情勢が鎮火しますように



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堀 正岳(ほりまさたけ)。Blogger / Writer / Scientist。ブログLifehacking.jp、mehori.com管理人。「ライフハック大全」「知的生活の設計」など20冊の著書をもつ作家、そして北極の気候学研究者としても活躍中
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