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アメリカ大統領選挙直前まとめ (2) 今年の選挙の不確定要素は?

前回はアメリカ大統領選挙の基本についてと、現状についてまとめておきました。しかし今年の選挙については新型コロナウィルスの影響もあって、例年にはない不確定要素があります。

不確定要素は、文字通り事前にわかりにくい要素のことです。不確定だから必ずトランプ氏に有利であるとか、バイデン氏に有利ということはあるとは限りません。ただ、数値化してモデルに入れにくくなるために予想に影響がある「かも」しれない要素のことです。

このあたりになってくると、なかなか細かい話なので日本のテレビなどで詳細に紹介するのは難しいかと思いますので、概要をまとめておきます。

期日前投票と郵送投票

アメリカの選挙は、不幸なことに何時間も何時間も並ぶ光景があたりまえになっています。広い国土に十分な投票所がないこと、投票のための仕組みが古いなど、歴史的な voter suppresion 「投票抑制」の理由などがあって、一部の人にとっては投票すること自体がチャレンジなのです。

そこに今年のパンデミックも重なったために、どのように投票を行うかが大きな問題になっています。

投票日前に投票を行う場合、病気や旅行やさまざまな理由で当日に投票できないひとが利用できる early voting や absentee ballot の仕組みがあります。また、郵送で投票する mail-in vote の仕組みもあります。

ただし、この仕組みが州によって大きく異なります。

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アメリカ大統領選挙では、投票するのに registration つまり登録が必要です。そして州によって登録した人に自動的に郵送投票の書類を送る州(水色)、登録者に全員郵送投票の申請用紙が届く州(黄色)、自分で郵送投票の申請を行わなくてはいけない州(オレンジ)、理由があるなら郵送投票してもいいけれども新型コロナウィルス予防は理由にならない州(マゼンタ)などさまざまです。

また、郵送投票をいつまでに送るか、いつの消印が有効か、いつまでに届いたら有効票なのかといったルールも州によって異なります。

トランプ大統領による郵送投票への抵抗

事前の調査で、民主党支持者はより新型コロナウィルスへの対策をとっており郵送投票の割合が大きいことが知られていました。そうした理由もあって、早い段階からトランプ大統領自身が、そしてバー司法長官などが「郵送投票は不正の可能性が大きい」と繰り返し発言していました。

もちろん少数のケースで郵送投票に不正が生じた事件は存在しますが、選挙の結果を変えるためには州の全体で何万もの票を操作する必要があり、そうした不正が存在する証拠はありません。

それでもトランプ政権による郵送投票への攻撃は続いており、たとえば郵便局自体の予算を削減したりといった形で影響がでています。

また、absentee ballot をいつまで数えるかといったルールの詳細も、ギリギリになるまで法廷で争われていますし、現在も進行中です。

たとえばペンシルヴァニア州やノースカロライナ州では、消印が有効なら投票日である11月3日の3日後に届いたabsentee ballotも数えることが最高裁で判断されていますが、状況によってはこれも変化することがあり得ます。

選挙後のブルーシフト

こうした問題がもっとも大きな影響を及ぼすと考えられているのが、勝敗の分け目となることが予想されているペンシルヴァニア州です。

多くの予想では、バイデン氏がペンシルヴァニア州で勝利すれば、トランプ氏に勝ち筋はありません。逆にトランプ氏がペンシルヴァニア州で勝てるようなら、彼の勝率は劇的に上がります。

そんなペンシルヴァニア州は、郵送投票の数が非常に多いものの、事前に開票準備作業をすることができないというルールになっています。選挙日当日の朝になってようやく郵送投票の封筒を開封して、集計の準備に入ることができるのです。

このことは開票速報におけるレッドシフト・ブルーシフトという問題を発生させることが予測されています。

投票日当日に、投票所で票をいれる有権者は共和党支持者が多くなります。この票は機械的にすぐに集計されますので、開票速報の初期の段階では圧倒的にトランプ大統領が優勢という数字が出る可能性が高いのです。これが共和党側へのシフト、「レッドシフト」です。

しかし郵送投票がゆっくりと数えられるに従って、その優勢は次第に削ぎ落とされて、世論調査の結果が正確ならば途中でバイデン氏が逆転することになります。これが選挙日後の「ブルーシフト」です。実際、ペンシルヴァニア州については、これほど大事な州なのに正確な結果がわかるまでに数日、接戦の場合には一週間ほどかかる可能性も否定できないのです。

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なので、初期の開票状況で早計に判断することをしないよう多くの報道機関が呼びかけてもいますし、ツイッターやFacebookといったSNSも勝手な勝利宣言を流布する投稿を削除すると警告しています。

法廷が選挙に介入する?

こうした状況で危惧されているのが、初期の開票状況が優勢なうちにトランプ大統領か「勝利宣言」を行うことです。

勝利宣言それ自体には法的な意味はありませんが、トランプ氏は「現時点で開票作業をやめて、選挙結果を確定すべきだ」「選挙結果をいつまでも曖昧にしておくべきではない」といった主張を法廷に対して行う可能性があります。そうした事態への布石もかねて、新最高裁判事に保守派のエイミー・コーニー・バレット判事の就任を急いだという指摘もされているわけです。

法廷が開票作業をやめさせるのは暴挙にもみえますが、たとえば 2000 年のブッシュ vs ゴア候補のフロリダでの再集計を最高裁が止めて選挙結果が確定したというケースもありますので、それほど荒唐無稽というわけでもありません。

ただし、開票作業は事前に決まっているルールに沿って行われていますので、最高裁も理由なしに開票差し止めはできません。このシナリオはペンシルヴァニア州がきわめて接戦となり、これ以上開票作業を進めることに意味がないなどの状況になってようやく現実的になるのではないかという意見もあります。だから、不確定要素なのです。

ハロウィーン・サプライズ!

そんななか、日本時間の日曜日朝になって大統領選挙ウォッチャーを大混乱に落とし込む世論調査が発表されました。

Des Moines Register/Mediacom が主催した、通称 Selzer poll と呼ばれれているアイオワ州の世論調査がトランプ氏48%、バイデン氏41% と、トランプ氏が7ポイント差で優勢の最新の調査結果を出したのです。

世論調査会社にもさまざまな種類があります。一部は支持する政党のために都合の良い数字を出すことや、事前に悪い数字を出しておいてから有利な数字を出して「接戦になっている!」と演出するものもあるほどです。

しかし Selzer poll 非常に信頼されているクオリティの高い調査で、2016年にはトランプ氏の最後の追い上げを正確にとらえたことで有名だったために、ウォッチャーの間では期待と怖れをもって待たれていました。見事なハロウィーン・サプライズといっていいでしょう。

では、この調査結果がアイオワ州以外のすべての州に当てはまるかというとそうした証拠は世論調査の数字上ではみられません。また、アイオワ州の世論調査は最近ずっと -1 〜 5 ポイントでバイデン氏有利と、ちょっと偏っていましたので、こうした数字が出てくる事自体は珍しいかもしれませんが、ありえないほどでもないのです。

この、「めずらしいけれども、ありえないわけではない」出来事が、人間の確証バイアスには非常に驚くべきものに見えてしまうので、たびたび驚かされるのがこの大統領選挙ウォッチングという趣味の醍醐味であり、ストレスでもあるのです。

選挙当日まで残り2日。最後のペンシルヴァニア州、フロリダ州、ジョージア州、ノースカロライナ州の世論調査がこれから入ってきます。その結果に一喜一憂しつつ、最後の状況分析をする日がやってきます。

おまけ

そのオクトーバー・サプライズに対する分析。統計的に細かいですが、納得のできる内容です。要点は「あわてるな」「こういうこともある」。

オバマ大統領(笑)やはりこの人はもってますねえ。


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