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アメリカ大統領選挙直前まとめ (1) まずは基本をおさらい

早いもので、アメリカ大統領選挙まで残すところ3日となりました。

実のところ、戦況は春からほとんど変わっていませんので非常に安定した大統領選といえるのですが、ニュースには事欠かない、それどころか追うだけで消耗する半年間でした。

このマガジンを読んでいる人はすでに大統領選挙を追うための基礎をご存知かもしれませんが、直前になって初めて興味をもったというひともいるでしょうから、基本から必要以上に細かい話までをざっと3回にわけてまとめておきたいと思います。

TL;DR、一言でいうといまどちらが勝ちそうなの?

膨大な世論調査の情報を集計して、不確定性も加味してシミュレーションをしているひとは大勢いますが、よく引用される有名な FiveThirtyEight の予想によると、現状で100回中90回バイデン氏が勝利、10回トランプ氏が勝利する確率になっています。

つまりトランプ氏の再選は不可能ではないものの、よほど大きな世論調査の誤差といった状況がない限り、確率的には不利になっています。

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そもそもどういう選挙で、誰が候補なの?

アメリカは共和党、民主党という二大政党の国です。他にも党はあるものの、ほとんど勝敗には関わってきませんのでせいぜい接戦のときにどちらかの候補の足を引っ張る程度の存在感しかないのです。

共和党「Republican」は保守側の政党で、現職のトランプ大統領が属しています。過去にジョージ・W・ブッシュ、レーガン、ニクソンなどの大統領が共和党側でした。

民主党「Democrat」はリベラル側の政党で、今回の候補はオバマ大統領政権で副大統領をつとめたジョー・バイデン氏です。また、副大統領候補にはアジア / 黒人系の女性であるカマラ・ハリス氏を擁立しています。過去をみると、オバマ、ケネディ、カーター、クリントンといった人物が民主党の大統領でした。

大統領選挙の勝者はどのように決まるの?

アメリカの大統領選挙は4年に一度、「11月の最初の月曜日の次の火曜日」に行われることが決まっています。

直接選挙のように思われがちなアメリカ大統領選挙ですが、実際には「選挙人団」方式 = Electoral Collage という奇妙な間接選挙の形をとっています。

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人口に応じてそれぞれの州には選挙人が割り当てられており、その総数は全部で 538 名です。538 を 2 で割ると 269 ですので、それよりも1多い、270名の選挙人を獲得したほうが勝ちです。

また、州の選挙人は基本的にその州の過半数の票をとった候補が総取りです(ネブラスカ州とメイン州を除き)。

そのせいもあって、2016年のように総得票数ではヒラリー・クリントン氏が勝っていても、選挙人数でトランプ氏が勝利するというパターンもあるのです。それどころか、トランプ氏は基本的にこのパターンでしか勝てない状況になっています。

選挙人団についての説明は、英語ではありますが次の動画がとても詳しく説明しています。

2016年はヒラリーが勝つと言われていたのにトランプが勝ちましたよね? 今回もそうなるのでは?

大統領選挙の戦況は、世論調査をもとに推定しています。この世論調査には膨大な数の調査会社や大学といった研究組織が関わっており、アメリカ全体の調査 "National Poll" や、州ごとの調査 "State Poll" をとります。

調査の方法もさまざまで Live poll といって直接対話形式で調査をする場合もあれば、アンケート方式で行う場合もあります。調査対象を選定する方法もさまざまで、電話、携帯電話、オンラインなど、正確さを高めるためにいろいろな手段が講じられています。

いくら注意深く実行したとしても世論調査にはそれなりの誤差がついてくることは避けられませんので、複数の調査の平均をとることで正確さをさらに上げます。その結果、2016年の世論調査の平均値の推移は以下のようになっていました。

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こうしてみると、ヒラリー(青の線)が優勢とはいえ7月後半はずいぶんと接戦になっていましたし、そもそも個々の調査に対応している民主党の青の点と共和党の赤の点がかなり混じっています。

最終的な差は、ヒラリー候補が 3.9% 優勢ですが、これは世論調査の誤差の範疇でした。珍しいとはいえ、ありえないほどの話ではなかったのです。

実際、FiveThirtyEight による選挙予想はトランプ氏の勝率を 29% と推定していました。予想が外れたというよりも、予想のうち確率が低い方の事象が現実になったというはなしです。

その誤差に最も寄与していたのは、北部の州における「大学を卒業していない白人男性」の数の過小評価だと言われています。その後、多くの調査会社がその反省から教育水準によって標本を補正することでこの誤差を小さくしようとしています。

なるほど、それで現状はどうなってるの?

全国の世論調査 National poll はヒラリー氏の例もあって勝敗を保証するものではありませんが、大局的な情勢をみるのには役立ちます。それによれば今回の選挙は非常に安定してバイデン氏が有利な状態になっています。 

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3日前の段階で、バイデン氏は +8.6 ポイントの差をつけていますが、この段階でこれほどの差があるのは1996年のビル・クリントン氏以来となります。

もちろん戦いは州ごとに勝利して初めて意味があります。

アメリカには民主党側に偏っている州と、民主党側に偏っている州とがありますので、選挙をする前からほとんど勝敗が決しているところが数多くあり、そこを先に数えてみましょう。たとえば:

共和党の強い州: ワイオミング州、ウェストバージニア州、オクラホマ州、ケンタッキー州、アーカンソー州などなど

民主党の強い州: マサチューセッツ州、カリフォルニア州、イリノイ州、ニューヨーク州などなど

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逆にこのように結果がほぼ決まっているところではない、接戦が繰り広げられている州はいわゆる Battleground state 「激戦州」といい、とりわけ選挙ごとに民主党側にも共和党側にもなる州を Swing state などと言ったりします。それがこちらの州です。

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このうち、270番目の選挙人を決定する可能性がもっとも高いのがペンシルヴァニア州だといわれており、これに加えてノースカロライナ州、フロリダ州、アリゾナ州だけでなく、従来は共和党がつよいジョージア州、テキサス州も接戦が報じられています。これに加えて、若干共和党側が優勢な接戦州にオハイオ州とアイオワ州があります。

次回の記事でも触れますが、トランプ大統領は世論調査で 2-5 ポイント劣勢となっているペンシルヴァニア州、ノースカロライナ州、フロリダ州、アリゾナ州、ジョージア州のすべてを勝たなければ勝ち筋はほとんどありません。北部のウィスコンシン州、ミシガン州は、前回に比べるとだいぶ不利になってしまったからです。

この点については次回以降もう少し触れます。

それでも信用がおけないので、2016年と同じくらいに世論調査に誤差があるとした場合の情勢は?

現状の世論調査の平均値に対して、単純に2016年の誤差を当てはめるのは本来はやってはいけないことです。手法も標本も違うわけですから。

しかし本当に単純に現状に対して2016年の各州の誤差を当てはめた場合には、以下のように結果がシフトします。

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たとえば PA ペンシルヴァニア州はバイデン53%から51%へ、ウィスコンシン州は54%から52%へと言った具合に読み取ります。

ヒラリー vs トランプ氏のときと比べると、バイデン氏の支持率は50%を越えている州が多く、2016年レベルの誤差を加えたとしても選挙人数で270人を確保できる状況になっています。

実際、2016年のときに比べて 2-3倍の誤差がなければ、トランプ氏は勝てない数値に達しています。

重要な点として、誤差があったとして、それがトランプ氏の側だけに有利に働くという保証はありません。むしろ逆にバイデン氏が10ポイント差をつけて圧勝する可能性のほうが統計的には確率が高いのです。

ではトランプ氏は決して勝てないのかというと、そんなことはありません。まだ不確定要素がいくつかあるからです。それを明日、第二回で紹介しようと思います。

それまでこちらで遊んでみると楽しそう

こちらは FiveThirtyEight の 40000 通りのシミュレーションに基づいて、どの州をどちらが獲得すると勝率がどうかわるのかを表しているインタラクティブです。

明日はこの地図から話が始まりますので、ちょっと遊んでみてください。


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