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【連載小説】螢惑守心の煌仙子【完結】

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十七年前、国に忠誠を誓い、命を懸けて護国のために戦ってきた常勝軍が、一夜にして壊滅した。  戦場はあまりに悲惨で、何かに食い散らかされた兵士たちの残骸だけが残っていた。  遺体は…
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#創作

第〇集:登場人物用語紹介(随時更新予定)

※こちらは小説【螢惑守心の煌仙子】の用語集です。 ※歴史上、実際にあった官職も書いてあり…

第零集:嚆矢濫觴

 花丹国には聖軍大二柱と呼ばれる軍があった。  皇長子の義父が率いる『瑞泉軍』。  武人、…

第二十一集:琳琅珠玉

 時間が過ぎるのがいつもよりも遅く感じる。馬車の振動が全く心地よくない。  いわゆる乗り…

第二十二集:金友玉昆

「すばらしかったですね! 蘭麝様のデザイン!」  あのあと、蘭麝は十時間以上練りに練り、…

第二十三集:社鼠城狐

 檻は屋敷の中央、密室の中に設置してあった。近所に娘の叫び声を聞かれないようにするためだ…

第二十四集:乳母日傘

「大丈夫ですか、翠琅さん」  わたしは帰りの馬車の中で変身を解き、面をとると、悔しくて涙…

第二十五集:匪石之心

 いくつもの、玻璃のシャボン玉が浮かんでいる。  七色に光り輝くそれは、玲瓏が妖精女王九天玄女から与えられた特別な仙術。  願いの強さに応じて強さの変わる不思議なシャボン玉。  自分のことは二の次で、常に人を救うことを一番に生きている玲瓏のために、九天玄女が作り出した唯一無二の仙術。  『もしも誰かを護りたいと願うならば、同じ強さで、己のことも護りなさい』と。 「玲瓏兄さん」 「おお、翠琅か」  長い黒髪がよく似合うその容姿はまさに花の顔。  だが、どこか武人を思わせる凛々し

第二十六集:光風霽月

 王太子含めた兄たちにとても怒られたり、聖域に付随するように存在する異種族間交易を目的と…

第二十七集:卑怯千万

 黄昏時を過ぎ、月のない烏夜。  両親の顔を見て、兄に会ったことで、いつも以上にやる気に…

第二十八集:大胆不敵

「誰に奪われたって?」  英王、簫 祁潤は予想通りとなった襲撃と予想とは違う敵の姿に、息子…

第二十九集:対症下薬

 ズナアク族の男がやってきてから一週間。  江湖にいる仲間から緊急の連絡が来た。  『薬黎…

第三十集:悪逆非道

「おい、こいつ大丈夫なのか? 変な髪色してるぞ。なんかの病気かも知れねぇ」 「病気で髪が…

第三十二集:昏天黒地

「赤い九尾の妖狐だと……?」  簫 祁潤は「またか……」とつぶやき、眉根を寄せて歯噛みした…

第三十三集:鬼哭啾啾

 夜も更け、虫さえも鳴くのをやめる時間。  月光の中、朱い閃光が瓏安を駆け巡る。  それは夜空に浮かぶあの赤い星。  螢惑――火星のよう。 (……屋敷の中に逃走経路くらいは作っていそう)  悲鳴や嬌声が外に漏れるような場所で行為に及ぶはずはない。ましてや、拷問道具を家人に見られるわけにもいかないだろう。 (どうせ、密室に地下に通じる階段でも作ってあるんでしょ。騒ぎを聞きつけて逃げられるのだけは困るんだよなぁ……)  わたしは空から屋敷を眺めながら、工部尚書の姿を探した。  一