購入した夢の遊眠社のDVD-BOXから続いてはこちら。
ということで、DVDに収録されている映像はエディンバラに行く直前の再再演時の公演の様子を映したもののようだ。皆さん若くエネルギーに溢れていて、元気をもらえる。
あらすじ
一応、あらすじを引いておこう。
さっぱり分からない。戯曲も事前に読んでみたが、イメージやモチーフは掴めるものの、話の流れ/プロットは(いつも通りとも言えるが….)全然追えない。※1982年に出版された戯曲は、DVD収録の上演台本とはだいぶ異なるようにも思う。85年に文庫版が出ているので、そちらは改稿されているのかどうか現状は未チェック。
『野獣降臨』はエディンバラ国際芸術祭の招待公演に際して写真集も出版されており、そこに野田氏自身の手による"一回きりのお客様サービス"として書き下ろしの「あらすじ」が掲載されている。
まあ、これを読んでもあらすじは全く頭に入ってこない。野田氏はインタビューで『野獣降臨』の創作経緯についてこのようにも話している。
プロットレス
架空畳の小野寺邦彦氏は、この戯曲は連想ゲームで書かれており、瞬間しかない"プロットレス"な戯曲だと解説している。
連想ゲームでイメージを書いては捨て、書いては捨てを繰り返してできたゴミの山を見てみたら、結果的にそこにテーマが浮かび上がっている。それは必ずしもいつも成功する本の書き方ではなく、野田自身もNODA MAP以降はこのような書き方を止めているそうだが、この時代は自らの天才性に任せてテーマを決めず書き進めていたはず…と氏は分析。
動画の中でも紹介されているが、第27回(1983年)岸田戯曲賞の審査員の選評が皆ふるっており、井上ひさしはこの戯曲を下記のように評する。
新たな神話
新たな神話とは何か?小野寺氏の解説をまとめると大方下記のようなことであろう。
人類が月に行く等、科学や人類の進歩が称賛されるその裏側で伝染病・ハンセン病患者・ホームレス等、社会的にいないことにされている人がいる。人類が繁栄を謳歌している裏側で見向きもされず、人類の進歩に取り残された人たち(=のけもの)がいる。
技術を使って未来に前進するのが人間ならば、そこから見捨てられ、取り残された人たち、新しい時代に連れていかれない人たちは人間ではないのか?
(人間でないのであれば獣なのか?)
人類が科学の力で先に進もうとする時、人類が未来に前進するのと同じスピードでのけものは太古に逆流、古代に帰っていく。人類は科学で月に到達するが、未来だと思ってたどり着いた月はウィルスに支配された太古の世界でもある。のけものたちは、過去に戻ることで未来に先回りしていたのだ。月の土から採取したDNAの中には太古から受け継がれたウィルスが入っていて、それが人類に感染する。のけものは太古の世界からウィルスを使って、自分たちが本当に生きていたという物語を感染させる。
ラストは未来と過去が混沌として、筏は分かれ、再び会った時に新たな伝説が作られることが予見される。未来と過去は並行して進んでおり、未来だけでは未来に行けないということだ。
新型コロナウィルス蔓延の間隙を縫い、2020年7月に『野獣降臨』を緊急上演したドナルカ・パッカーンは下記のように簡潔に表現している。
戯曲の力・演出の力
この戯曲を読んで、評価をつける審査員の方々の眼力も改めてすごい。
別役氏のコメントなんて正にその通りでしかなく、"連想ゲーム"と言われるような方法論の徹底こそが哲学であり、重要なセリフしか発せられない先の時代とは一線を画した新たな伝説がここに作られている…と納得。
しかし、演出や各演者の演技もこの当時のレベルは凄まじいものがある。段田安則らのキレのある演技も見所だが、やはり野田秀樹。夢の遊眠社の看板俳優らを圧倒する存在感。目に楽しい。何度も楽しめる一作だ。
個人的には、向井薫さんの声が好み。
な、な、なんと!