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長岡秀樹の2月~試行錯誤と将来像

はじめに

このあいだキャンプが始まったと思ったら、並木のような速さでキャンプが終わってました。暁めぐりです。

今回は、2024年2月、プレシーズン中の長岡秀樹選手の打撃についてです。長岡は2月中の打率が.176(7試合17打数3安打)。昨シーズンからの悩ましい日々が続きました。
若手選手の一人としてこの時期であっても結果を出してほしい、というのは間違いありません。一方で、この時期だからこそ、失敗を恐れず取り組めることがあるのもまた事実です。

そこで、今回は2月中の練習試合・オープン戦の計7試合を対象に、打席内容や打撃アプローチについて昨シーズンと比較しながら見ていきます。
対象の試合数・データ数が少ないのは承知の上ですが、キャンプ中、しかも新シーズン最初の1か月ということで積極的に評価したいと思います。

3月最初の試合で4打数2安打とついに結果が出始めた長岡。彼がどんな取り組みをして、どのような将来像を描いているのか、最後までお読みいただければ幸いです。

※記事に何かあればこちらまで
暁めぐり@燕党新人Vtuber(@Meguri_Akatsuki)さん / X (twitter.com)


2月中の基礎データ

ヤクルトスワローズ 2024 2月の打者成績一覧

こちらがスワローズ野手陣の2月、7試合の打撃成績です。長岡の打率.176はチーム全体では16位タイ。長打はなく、2試合目の第2打席から2月最終戦の7試合目第1打席まで、計14打席ヒットが出ない期間もありました。
ライバルとなる選手と比較しても、「良い」とは言えませんでした。

一方でポジティブな数値も。
選んだ四球3、四死球合計4はいずれもチームトップで、得点(ホームに帰ってきた回数)も1位。また、打率.176に対して出塁率は.333。これは打率が3割を超える松本直樹や打率2割7分の西川と同水準。
昨シーズンが打率.227、出塁率.281なので、出塁率及びそれを支える選球眼が大幅に改善している可能性があります。

そこで次章以降では2月の長岡について、出塁にかかわる選球眼と、カウント別(初球)のアプローチに関して、昨シーズンからの変化を追うことで、この時期の取り組みを考察します。
その前に、前提として、長岡の師匠の話をしておかなければですね。

師匠:中村晃の存在

既に多くの方がご存じとは思いますが、例年、長岡はソフトバンク・中村晃の自主トレに参加しています。

きっかけは元ヤクルト、上田剛史氏の

お前が一軍に上がったら、青木さんや山田は必ず教えてくれる。それなら今のうちに、他のチームの選手から教わっておいたら

マスクの窓から野球を見れば(2022/04/28)
text by 安倍昌彦

という言葉だったそう。背番号も師と同じ7番ですね。
そんな師匠、中村晃の2023シーズンの成績がこちら。

中村晃2023 打撃成績 (NPB Data Visualization様より改変)

打率2割7分に対して出塁率.351と高い数値。最も出塁率の高かった2016年には打率.287に対して出塁率.416(143試合出場)ととんでもない数値を叩き出しました。
昨シーズン、打率の上がらない長岡の最も問題視された点が、この出塁率でした。個人的には、長岡にとってベストな師を持ったと思っています。
今回分析対象とした2月は、チームAKIRAの自主トレから日が経っていないことは前提としておきたいです(今季に関しては青木塾にも行ってますね)。

O-Swing%、Z-Swing%

まずは選球眼の評価としてこの2点をみていきます。
O-Swing%はボール球のスイング率(振らない=低いほうがいい)、Z-Swing%はストライクゾーンに対するスイング率(一応高いほうがいい)となります。
では去年の長岡から。

2023年

長岡秀樹2023 スイング分布

長岡の2023年のO-Swing%は30.36%でした。これは規定打席到達者27人のうち下から4番目の数字です。画像は赤ければ赤いほどがスイング率が高いゾーンになりますが、ボールゾーンではインハイとアウトローが少し高いでしょうか。ボール球を振りやすい打者だったといえます。
Z-Swing%は71.09%で佐藤輝明、吉川に次いで27人中、上から3番目の高い数値。画像でもゾーン内が真っ赤です。
総合Swing%は51.97%でDeNA関根に次いで27人中2位。じっくり見るよりも初球からガンガン仕掛けていく長岡のスタイルはデータからも見えます。
では2024年2月の7試合を。

2024年2月

長岡秀樹2024年2月 スイング分布

2月の長岡のO-Swing%は18.60%(43球中8球)でした。去年の30.36%から大幅に改善しています。特に、低めのボールゾーン見極め率は100%とよく見えていることがわかります。因みに師匠:中村晃の去年のO-Swing%は18.99%。データ数少ないですが、師と同水準の良い数字です。
一方、2月の長岡は、Z-Swing%が65.90%と去年の71.09%から低下。OもZもスイング率が減り、総合Swing%は51.97%→42.52%まで下がっています
去年の中村晃はZ-Swing%51.83%、総合Swing%36.68%だったので、スタイルの違いはありますが、近づいてはいますね。

小結論

  1. O-Swing%30.36%(去年)→18.60%(今年2月) ※中村晃18.99%(去年)

  2. Z-Swing%71.09%(去年)→65.90%(今年2月) ※中村晃51.83%(去年)

  3. 総合Swing%:51.97%(去年)→42.52%(今年2月) ※中村晃36.68%(去年)

2月の長岡がボールゾーン、特に低めのボール球に関する見極めが改善しているのは間違いないと思います。その上で、全体的にスイングをする確率が減っている=慎重にボールを選び始めているともみえます。
これらのことが出塁率上昇の一因と考えられます。

キャンプからの取り組みがみえる一例と言ってっていいと思います。ヒットは増えていませんが、昨シーズンの反省を踏まえての変化かなと。
もちろん、この時期はどうしても投手の平均レベルが落ちるので、O-Swingに関しては要経過観察ですね。

さて、ここからは具体的な打席アプローチについて見ていきます。特に初球に対する反応(カウント0-0時)について、去年の長岡と比較していきます。

初球(カウント0-0時)アプローチ

2024年2月の長岡の打席アプローチを確認するため、当該期間計7試合の全てのデータを表にしてみました
左から2列目、緑の太枠内が初球、赤字がファーストスイング、黄色背景がファーストストライクです。
まずは色々考えながらざっと見てみてください。
例:黄色背景/赤字はファーストストライクをスイング、黒字なら見逃しなど
※2ストライク後が長い場合中略していますが、考察には関係ないです。

長岡秀樹2024 2月 打席アプローチ

初球からガンガン振っていくイメージの長岡ですが、この2月はどうなのでしょうか。初球スイング率は23.80%(21球中5球)でした(緑枠内の赤字部)。
これを去年と比較すると…

長岡秀樹2023 初球アプローチ (NPB Data Visualization様より改変)

初球のファウル率だけでも14.7%。
結果打球率は100%-(38.6+14.7+28.9)=17.8%。
去年の初球スイング率は32.5%(=14.7+17.8)でした。これを見ると去年と比べ、明らかに初球のスイングが減っていることがわかります。要因としては、初球においてもボール球の見極めができていることかと思います。
2月中の初球ボール球に対するスイングは、阪神・及川に対した1球だけ。他はバットが止まっています。

因みに師匠・中村晃のカウント0-0アプローチも面白いので、参考までに。

中村晃2023 初球アプローチ (NPB Data Visualization様より改変)

見逃し率、94.5%。驚異の9割超えです。正直、これで打てるのは中村晃だけだと思うので真似する必要はないかなと。

ここまで長岡の2月に関して初球アプローチを見ていきました。去年の初球におけるボール球スイング率がわからないので難しいですが、少なくとも、初球から難しいボールを無理矢理スイングして凡退しているわけではない、と言えそうです。
先程のZ-Swing%の低下を含めて考えると、(本人比で)かなりボールを選んでスイングをかけていると思われます。
この辺りも出塁率の増加に寄与している可能性があります。

今年も初球凡退の印象が目立つのは、唯一(3日)連続で試合があった、しかも土日に、3連続で初球凡退があったからだと思います。
しかも土曜日の2打席がいずれも得点圏での打席。チャンスでのアプローチも諸説ありますが、初球凡退の印象だけ見れば、そういうことかなと。

打撃傾向の変化

ここからは出塁率とは別の話になります。いくら四球が増えて出塁率が上昇してチームへの貢献度が増えたとしても、そこには限度がありますし、その状態でスタメンを張れるか、という問題もあります。
そもそも、1ファンとしては、長岡が率を残してくれることを1番に望みます(もちろん、ショートで他の選手がレギュラーを掴んだとしても同じです)。

というわけで、ここからは出塁率から離れ、純粋な打撃傾向が変化しているのか?を見ていきます。具体的には、①打球方向②GO/AOを見てみます。

1.打球方向分析

例によって、去年と今年の2月を比較。
まずは去年のデータから。

2023シーズン 長岡秀樹打球方向

最もヒットが多かったのは、やはりライト方向です。それに対応するように右方向、一ゴロと二ゴロがゴロアウトの大半を占めます。この辺りは容易に予想できますね。続いて2024年2月です。

2024 2月長岡秀樹打球方向

まずはゴロアウトですが、遊ゴロ=4>一ゴ+二ゴ=2と、圧倒的に多かった右方向へのゴロよりショートゴロが多くなっています。
次に安打方向。右方向のヒットが多かった昨季と比べ、センター、レフト、ライトに一本ずつ。サンプル数がかなり少ないですが、右方向だけでなく、広角を意識している可能性はあります。
ここから、2月のヒットについてもう少し詳しく見てみます。

まずは2/18の練習試合のセンター前ヒットから。
アウトハイのツーシームを上手くセンターにはじき返しました。

2/18 練習試合vs中日 第1打席 スポナビより

実はこのアウトハイ、長岡の打撃の基本となるコースです。それが下の図。

長岡秀樹2023 コース別

この通り、アウトハイだけはボールゾーンまでやたら打てます。さらには、昨シーズンのアウトハイに限った打球方向が下の図。

2023シーズン 長岡秀樹打球方向 アウトハイのみ

アウトハイに限って言えば広角に打ち分けることができる、恐らく、これが長岡の打撃の根本だと思います。
一方で、2月最後の対外試合となった起亜タイガース戦のヒットがこちら。

2/27 練習試合vs起亜タイガース 第1打席

インコースを詰まりながらレフトに。ゴロアウトとあわせて見てもやはり、左方向にも意識があるように見えます。
これまでの積み重ねを基本としながら、試行錯誤を行っているように見えますね。
どうやら(アウトハイ以外)引っ張り一辺倒だった打球傾向は少しずつですが変化しているようです。

2.GO/AO

最後に、ゴロアウト/フライアウトの比率を見て終わりにしたいと思います。先ほどの画像にも数量はありましたがまとめ直します。

  • 2023:GO/AO=1.16

  • 2024 2月:GO/AO=1.6

サンプルが少ないですが、ゴロアウトが増加しています
今年の2月に関しては、強引にすくい上げてフライを打つシーンはほとんど見られませんでした。
一方で上手く拾ったようなライナー性の打球はありました。

小結論

打撃傾向の変化としては、打球方向の広角化=引っ張り偏重の変化及びゴロアウトの増加が見て取れました。
特に、最もヒット数、割合ともに多かった右方向への打球の減少が意図されたものであるならば、大きな変化と言えるでしょう。
ヒットも出始めましたし、期待したいですね。

また、打撃傾向の変化を見てきましたがフォームに関しては一切手を触れていません。フォームや体の使い方を関連させると面白いとは思いますが、そちらについては専門の人に任せようと思います。

結論

最後に結論として、2024年2月の長岡の打撃について去年からの変化をまとめ、描く将来像について考察していきます。

(1)試行錯誤と変化

まずは、スイング傾向の変化として、

  1. O-Swing%の改善→特に低めボールゾーンの見極め

  2. 総Swing%の低下+初球Swing%の低下

が挙げられました。
この2つが四球を選べることに繋がっているかなと。その結果として出塁率の上昇が出てきていますし、シーズンでもそうあってほしいなと。
また、打撃傾向の変化として、

  1. 右方向だけでない、広角の意識(打球方向分析から)

  2. ゴロアウトの増加→強いライナー/ゴロの意識?

2.については打球速度等のデータがないのではっきり分かりません。ただ、印象としては強い打球で低弾道の安打を増やす意図があるのかなと(あくまで印象)。
ここから、長岡の描く将来像はどのようなものでしょうか。

(2)将来像

高出塁率化、低弾道による高打率化。見えてきた意図と首脳陣・本人の発言を照らし合わせてみます。
こちらの記事から。

重要な部分を引用してきます。
まずは高津監督の発言から。

フェニックスリーグでは、ほとんどの試合で「2番」を任された。髙津臣吾監督は10月19日に視察で西都を訪れた際、その意図についてこう説明した。

「バントをたくさんやらせるとか、彼に対する課題のために2番に置いています。今のチームのラインアップを考えると、彼が2番に入ってくれるのが一番。ただそのためには、もっともっと成長してほしいですね」

ヤクルト長岡秀樹の「逆襲のシナリオ」実力不足を思い知らされた失意の1年

さらに、長岡本人も、

昨年はずっと8番を打たせてもらい、今年は2番を任されるかも思っていたのですが、できませんでした。チームには本当に頼もしい3、4、5番がいますので、その前を打ちたいですし、そのためにも出塁率を高くしたい

ヤクルト長岡秀樹の「逆襲のシナリオ」実力不足を思い知らされた失意の1年

と発言しています。これと高出塁率化、低弾道による高打率化を考えれば、目指すところは自ずと明らかです。
今現在、将来像としては従来型の(セイバー型でない)2番打者が想定されているようです。昨シーズン、ほぼ成功率5割だった送りバントにこだわったのも、その表れといえるでしょう。

今回、敢えてその良し悪しは問いません。少なくとも首脳陣と本人の向かうところは一致しており、向かうべき場所は見えている、といえるでしょう。
そして、そのための取り組みがこの2月の打席内容に表れてきていることを指摘して考察を終えたいと思います。

おわりに

ここまで、2月の長岡の打撃について、そこから見える取り組みを見てきました。
そして3月、ついに結果が出始めました。
オープン戦3試合目にして4打数2安打
しかもボール球を見極めて球数を稼いでからの2安打でした。

3/2 中日戦
1-3から1stスイングでツーベース/スポナビより

結果もついてきたので楽しみですね。長岡に関していえば、守備という大きなアドバンテージがあり、あとは打つほうだけ。
北村拓己が打撃で結果を残している今現在、武岡や二軍スタートの選手も含めてショートは競争のポジションです(それでも現状の1stチョイスだとは思いますが)。
個人的には、あまり選手に優劣がつけられないので、みんなが結果を出して困るくらいがいいなと思っています。

2023年、悔しいシーズンになりましたが、長岡を含めスワローズの選手全員がいい結果を出せることを願ってこんな言葉で締めたいと思います。

We must accept finite disappointment, but never lose infinite hope.
我々は有限の失望を受け入れなければならないが、無限の希望は失ってはならない

Martin Luther King, Jr.

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