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ホモサピエンスは1人で子育てできない

ヒトの進化と子育て

日本人の子育て現場は今、チンパンジーから進化したホモサピエンスの歴史上もっとも危険な状態になっているということをご存知だろうか?

人は700万年前にチンパンジーから進化したと言われている。樹上で暮らしていたチンパンジーの一部が何らかの理由で平原で暮らすようになったらしい。樹上で暮らしているチンパンジーは未だに「四足歩行」のままである。ところが、平原で暮らし始めたチンパンジーたちは、四足歩行のままでは、樹上生活時代のように遠くを見通すことができない。四足で歩きながら時々二本足で立ち上がり、遠くの敵から身を守るという行為を繰り返しているうちに、二足歩行になっていったのだ。

その結果背骨が脳を刺激して、「前頭前野」という動物にはない脳の部分が進化したと言われている。「前頭前野」という脳の部分は「過去と未来を司る脳」と言われ、過去から「学習する能力」と「未来を予測する能力」が身についたのだ。これが、人と動物を格段に分けた要因である。

そしてもう一つ、人が他の動物と違う大きな要因は「言葉を話せる」ということ。これも二足歩行の恩恵なのだ。四足歩行と違い、二足歩行は、「声帯」を真っ直ぐに伸ばすことで様々な「音」を発することができるようになった。四足歩行の動物は「吠える」ことしかできないが、二足歩行で声帯が真っ直ぐになった人間は、様々な音を「言語」にしてコミュニケーションができるようになった。これがヒトが他の動物と大きく違い進化した大きな理由だと言われている。

「狩猟生活」進化のポイント

樹上から平原で暮らすようになった人類が一番困ったのは何と言っても猛獣から身を守ることだった。今でも野生動物たちは捕食動物から我が子を守るために大変な苦労をしているのを見れば、ライオンやチータのような「早く走れる足」を持ち合わせていないし、虎やチンパンジーのように器用に木の上に登ることもままならない。まして小さな子どもを連れた状態ではなおさらである。古代は多くの子どもたちが猛獣の餌食になったであろうことは予測がつく。そんな中、「前頭前野」が進化した人間は過去の失敗に学び、「言語」を使い人間同士でコミュニケーションを取ることができるようになったのである。

原始の男たちは狩に出かけ、何度も貴重な獲物を取り逃したことで学習する。それは「二手に分かれ獲物を囲い込む」という作戦だ。それまではいつ獲物にありつけるかわからない「飢え」との戦いの連続だった。それが「前頭前野」の進化で互いに協力して狩をするというスキルが身についたのである。その結果予想以上に多くの獲物が獲れた。当時はもちろん冷蔵や冷凍といった技術などないから、常温のままで獲物が腐る。腐った獲物の生肉を食べたことでこれまた多くの命が奪われたのかもしれない。そこで人類は「火を使い調理する」ということを発見する。「火」の発見は人類がさらなる進化を遂げる大きな要因となった。

「採集生活」進化のポイント

男たちが狩に出かけた時、女たちは木の実や植物を取りに森の中に入っていく。ここでも「言葉」を使えるようになったことがとても大きい。それは「情報の共有」である。「あそこにこんな植物がなっているよ」「このキノコは毒があるみたいだよ」などといった言葉によるコミュニケーションを図ることで、やはり、「命を守る」といった「情報の共有」ができるようになったのである。そしてここからが「ヒト本来の子育ての話」になる。

古代、ヒトは捕食動物から身を守るために「100人〜150人」程度の集団で暮らしていた。そしてその集団の中には当然「老若男女」が混在していたと思われる。そして、今も昔も変わらないのは「働き盛りは子育て盛りでもある」ということなのだ。狩猟採集に出かけるのは高齢よりも若い方が効率が良い。つまり、子育て世代が狩猟採集世代でもあるのだ。

進化する前、ヒトはチンパンジーだったというのは子どもでも知っていると思うが、ヒトとチンパンジーの子育ての違いというのはあまり知られていない。チンパンジーの研究で有名な松沢哲郎教授によると、


チンパンジーの母親は子どもが産まれると一頭の母親が5年間子どもを抱っこしたまま育てるのだそうだ。その間、次の子どもは産めない。ところが人間は共同で子育てをすることで、毎年でも子どもを産むことができるようになった。とおっしゃっています。

これが人口が増える原因となり、「弱肉強食」である自然界では、本来弱い立場だった人間が霊長類のトップに躍り出る要因となったのである。そして老若男女の集団生活の中で、子育て中の親が森に狩猟採集などに出かける際に、「親以外の大人が子どもを見る」という仕組みができたのだ。アフリカ原住民の中には未だに共同で子育てをしている部族がいるらしい。実はこれこそがヒト本来の子育てだったのだ。

核家族という障害

ヒトの進化を振り返ってみると、現代の日本社会の「核家族化」がいかに「異常事態」なのかがわかる。「ホモサピエンスは1人で子育て」をするようにできてないのだ。しかも、進化の過程で「集団で子育てした方がうまくいく」ということがヒトのDNAに記録された結果、ご丁寧に、子どもを産んだ女性の脳内では「集団で子育てするように促す変化」が始まる。それが妊娠中はさかんに出ていた脳内安定ホルモン「エストロゲンの急激な減少」なのだそう。

エストロゲンの減少が起きるとヒトは「不安」になりやすい。つまり、現代社会で問題になっている「孤独な子育てワンオペ」だと「鬱」の症状を起こしやすくなるのだそう。では、なぜ産後にエストロゲンが減少してしまうのか?これは「NHKスペシャル」で取り上げられた「ヒト本来の子育て(共同養育)に誘導するための産後の女性のからだの変化」なのだそうです。

つまり、「ホモサピエンスは1人で子育てするようには進化してこなかった」ということが言えるのだと思うのです。

ところが残念なことに、現代人(特に高度経済成長後の日本社会)では、核家族化が進んでおり、大都会だけに限らず、地方都市であっても母親による「孤育て」が多く、「ワンオペ」といった言葉で孤独な子育てを表現する言葉が使われたりしています。そんな状況での子育てに対して周りはいったいなのをしたら良いのか?悩むところでもあります。一番身近なサポーターとなるパートナーに関して子育てガイドの斉藤貴美子さんが以下のようなアドバイスをくださっています。

パパに知って欲しいワンオペ育児の辛さ

1.未知なるものの怖さ
・初めての出産、育児の場合、どう子育てしていいか迷う。この世に生まれた「命」を一人で背負っているかのような重さ。

2.実母と比べて戸惑う
・昔の母親たち(アラ還以上)は専業主婦が多く、主に育児を担当していた。実母はできたのに、私は辛いと感じるのはなぜ?という戸惑い。
(原因→アラ還世代は、今よりご近所の結びつきが強く、子供も多かったので、地域で子育てができたから。また経済状況が良く、育児の何かしらの見返りがあったからだと考えています。例:高級化粧品をフルセットでそろえる、セットアップを買うなど)

そして、ここがハイライトかつ最重要ポイント。

3.夫への嫉妬・うらやましさ
・育児・家事に携わらないのに、子供を持てたことへの疑問
キャリアに支障がない(母親は復職時に元のポジションには戻れないことが多く、マミーズトラックに陥ったり、正社員からパートなどに切り替えることが多い)。
会社に行って仕事をすること。自由な通勤時間があって、おいしいランチを食べて、仕事ができてお金をもらえるなんて贅沢だと思える。
自己犠牲がなく、独身・子なし時代と変わらない生活を続けて、人生の主役が自分のままでいられること(飲みに行く等)
妻がワンオペ育児をしていても、上司や友人や親や世間から何も文句を言われないこと
(夫がワンオペ育児をしていたら世間からの風あたりは強いと推測)

共同養育の仕組みを作る

結論!少子化対策の1番の解決策は「共同で子育てをする仕組みを地域の中に作ること」なのです。そしてホモサピエンス本来の形での子育てを出産前後の両親クラスなどで夫婦が一緒に体験すること。これこそが、少子化に悩む日本社会が急速にやらなければいけないことだと思うのです。次回はその具体的な方法や試みについて書いてみたいと思います。


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