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■焼き芋屋さんとサイコロの旅

ある焼き芋屋さんの話

世の中に「焼き芋屋さん」という移動式の石焼き芋の販売店があることは知っていたが、それを間食として買って食べる習慣はわたしの育った家庭にはなかった。

東京のこの街には、ときどき道に焼き芋屋さんが停まっている。

家の前に停まっていた焼き芋屋さんで、初めて焼き芋を買い「次はいついらっしゃるのですか?」と質問してみたら「決めてないんです。その日の朝起きた気分で何処に行くか決めるので(笑)」という意外な答えが返ってきた。

何曜日は何処、と決めた方が近所のお客さんにも覚えてもらえて固定客がつくだろう(焼き芋ファンのお客さんの立場だったら、焼き芋屋さんが来る曜日に合わせて、おやつとか夕食のメニューを考えたりできるのでありがたいのでは?)

焼き芋屋さんの経営のことを考えても、何曜日は何処、でサイクル回してみて自分なりに統計を出した方が安定的且つ効率的に売上が上がるだろう。

(もしかして実は無許可だったとかそういう可能性はここでは考えずに)

でも、その日の気分で何処に出店するかを決める気まぐれな焼き芋屋さんの、経営者的な視点で見ると非合理的な選択によって選ばれたこの場所で買えた焼き芋は美味しくて。

美味しくて、幸せでした。焼き芋屋さん、朝起きてこの場所を思い出してくれて、選んでくれて、ありがとう。

またいつか、気まぐれな焼き芋屋さんを見かけたらラッキーと思って買ってしまうのだろうな。家で朝から芋を蒸したその日に焼き芋を買うことが私にとって非合理的な選択だとしても。そして、その日が焼き芋ひとつで幸せになってしまう。

サイコロの旅

『水曜どうでしょう』という今では国民的(?)な伝説地方番組としても親しまれているあの番組の”サイコロの旅”に憧れて、わたしは小学生の頃に男女友達数人集めて札幌の地下鉄で”地下鉄サイコロの旅”をした。

地下鉄一日乗車券と写ルンですを買って旅立ったほぼ無計画でランダムな”サイコロの旅”は、分刻みで計画をたてて丁寧に『旅のしおり』まで作った修学旅行なんかよりも数百倍楽しくてワクワクしたのを覚えている。あの時のサイコロの旅は、今でもわたしの人生で大切なプレゼントのような思い出。

合理的で効率の良い、自分に最適化された答えを簡単に得られるようになった今の時代。時にはランダムに、非合理的に、その日の気分で動いてみた先に思わぬサプライズや幸せが待っているかもしれない。

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