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「愛と復讐の軌跡」第1話

あらすじ

健一から突然別れを告げられた若い女性は、悲しみの中で交通事故に遭い、意識を失う。目覚めると彼女は赤ん坊の結衣として生まれ変わっていた。新しい家庭では、結衣は母・美穂に懐かず、母娘の間に深い溝が生じる。一方で、父・健一や兄・晴斗とは親しく過ごす。成長した結衣は、前世の記憶が夢として現れることに戸惑いを感じていた。

序章

冷たい風が吹き抜ける夜、街灯の下で若い女は立ち尽くしていた。健一からの言葉が、まだ彼女の耳に残っている。彼の言葉は、彼女の心を容赦なく引き裂いた。

健一:「ごめん、他に好きな女性がいるんだ。彼女と一緒になる…。だから、俺と別れてほしい」

若い女の目から涙が溢れる。健一との楽しい時間、健一の明るい笑顔、将来の誓い…すべてが虚しく感じられた。彼女は泣きながら彼に一言、「さよなら…」と呟くと、車が止めてある駐車場まで走った。

震える手で、車のエンジンをかける。涙に煙る視界を通して、彼女はぼんやりと前を見つめた。

若い女:「どうして…私たち、幸せだったはずなのに…」

車は夜の道を進む。彼女の心は混乱し、思考は霧の中に迷い込んでいた。涙は止まらず、震える手でハンドルを握る。彼女は道路の先を見つめるが、心は完全に壊れていた。

突然、明るいライトが彼女の視界を覆う。驚いた彼女がハンドルを左にきったが、もう遅い。大きな衝撃と共に世界はひっくり返った。ガラスが割れる音、金属がねじれ、悲鳴が響き渡る。そして、全てが静かになった。

若い女は意識を失い、彼女の世界は闇に包まれた。

1.1 新しい意識の芽生え


目覚めると、結衣は見知らぬ天井を見上げていることに気づく。彼女の体は小さく、動きは未熟で、周囲の世界は彼女にとって新鮮で不思議なものだった。

「ここはどこ?私は…誰?」

彼女は自分の手をじっと見つめ、その小ささに驚く。部屋には色とりどりのおもちゃがあり、壁には明るい絵が飾られている。彼女は混乱している。

結衣がこの世に誕生した瞬間、健一と美穂の目には涙があふれた。

健一は優しく彼女の小さな手を握り、「生まれてきてくれてありがとう」と心からの感謝を込めて囁いた。

美穂も側で微笑みながら、結衣の頬に優しいキスをした。

「私たちの大切な宝物ね」美穂は涙を流し、結衣の小さな手を優しく包んだ。

結衣はこの新しい世界に戸惑いつつも、両親の温かい愛情に包まれ、安心感を覚え始めていた。

小さな目をパチクリさせながら、彼女はこの世界の新しさと広さを感じていた。

美穂:「結衣ちゃん、あなたのお兄ちゃんよ」

突然、美穂の後ろから小さな男の子が顔をのぞかせ、近寄ってきた。ぎゅっと結衣の小さな手を握る。

晴斗:「ママ、小さい手だね。僕、今日からお兄ちゃんだ!」

小さな男の子は、満面の笑みを浮かべながら部屋の中を嬉しそうに駆け回っている。

健一:「こら、晴斗。静かにしなさい!」

父親に注意され、男の子は泣きそうな顔で母親の後ろに隠れてしまった。

美穂:「もう、パパったら。そんなに怒らないで。結衣ちゃんもびっくりしてるじゃないの」

1.2 謎の夢


小学校高学年になる頃、結衣は夜ごと、断片的だが鮮明な夢を見るようになった。

その夢はとても短く、断片的ながらも強烈で、彼女は夢の意味を理解できない。目を覚ました時、結衣の心は混乱と恐怖でいっぱいだった。

結衣は、その夢がただの幻想ではなく、何か深い意味を持つと感じていた。夜毎に訪れる夢の中で、彼女は自分が誰かと深く愛し合うが、その愛が突然裏切られることを体験する。

目覚めると、その悲しみが現実のように感じられ、彼女は自分自身が抱える未知の感情に戸惑う。

結衣:「なぜ、私はこの夢を繰り返し見るの?この悲しみは何を意味しているの?」

日中も、結衣は夢で見た光景が頭から離れず、しばしば考え込んでしまう。学校での授業中や友達との会話の最中にも、その夢の断片がふと脳裏をよぎる。

彼女は自分の内に秘められた過去の記憶に、徐々に惹かれていく。

結衣:「もしかしたら、この夢には私の知らない、私の過去が隠されているのかもしれない」

結衣はこの不思議な夢と自分との関連を探るべく、少しずつ自分の内面と向き合い始める。夢が彼女に何を伝えようとしているのか、その答えを見つけ出すために。

1.3 母の努力と失望


結衣は、産まれた時から、なぜか母・美穂に懐かなかった。美穂の優しい声や温かい抱擁にも、結衣は無反応で、時には泣き出してしまうこともあった。

美穂:「結衣ちゃん、どうしたの?何が気に入らないの?」

美穂は娘に受け入れられるために、さまざまな方法を試みるが、結衣はなぜか、美穂を好きになれない。この状況は美穂に大きな心の傷を与え、彼女の母としての自信を徐々に失わせていった。

美穂は結衣の好きなお人形を買い与えたり、一緒に遊ぼうと試みるが、結衣は母の愛に応えようとしない。

結衣が父・健一や兄・晴斗とは親しくする一方で、美穂だけ結衣に受け入れてもらえなかった。

美穂:「私に、何が足りないの?」

美穂は次第に結衣に対する愛情が無駄に思えるようになり、彼女は結衣への愛情を示すことに疲れ果ててしまった。

結衣への無力感と失望から、美穂の心は変わり始める。彼女は結衣を憎らしく思うようになり、その感情は無意識のうちに態度に表れ始める。

美穂:「なんであなたはこんなにも私を拒むの?」

結衣に対する美穂の態度は次第に冷たくなり、結衣もまた母への距離を感じ、より一層心を閉ざすようになった。

1.4 母との確執


結衣は、家に帰る度に家族の中のぎこちなさを感じていた。父・健一はいつも彼女に優しく接してくれたが、母・美穂の態度は冷たく、結衣に対する感情を表に出さなかった。

美穂は常に兄・晴斗に注目し、彼の帰りを心待ちにしていたが、結衣には無関心な態度を取り続けていた。

美穂:「晴斗ったら、今日も部活が長引いているのね。今夜はあの子の大好きな特大ハンバーグを作ったのに…」

この言葉に、結衣の心はさらに冷え込む。母の愛情が自分ではなく、いつも晴斗に向けられていることを痛感していた。

母と娘という関係にもかかわらず、二人の間には深い溝が存在していた。

結衣:「さぁ、私も自分のご飯作らなくっちゃ」

結衣は台所に向かい、自分で食事の準備を始める。彼女は料理に自然と没頭し、自分の感情を料理に映し出すように繊細かつ丁寧に食事を作る。

健一と晴斗は、結衣の作った料理をいつも楽しみにしていた。そのことが、結衣にとっては慰めとなっていた。

結衣の料理を食べる父と兄の笑顔を見ると、結衣は少しだけ幸せを感じることができた。

しかし、母との関係は相変わらず改善の兆しを見せず、結衣はその事実に深い寂しさを感じる。母との確執は、彼女の心に影を落とし続けていた。

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