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コーヒーの一生

ポト、ポト 音を立てるのは初めの一秒
あとは硬く無愛想な壁に沿い
あなたの待つ空へ近づいていく

喧騒の中あなたに連れられ
見たこともない世界を私は知る

壁越しに感じるのは手のひらの感触

次の瞬間やわらかな唇に
吸い込まれあなたの中に
融けて染み込んでいく

無愛想な壁はようやくあなたの手に馴染み
閉じ込められる窮屈さと
包まれる心地良さとが入り交じる

壁の向こうのあなたに触れたい
空から迎えにきてくれる
やわらかさを待つ

私を欲する口づけはあたたかく
私もまたあなたをあたためる
あなたの舌を 食道を 内臓を
そうしてあなたの一部となる

もうすぐ会えなくなるというとき
白く硬い壁からも私は解放されることとなる

見上げた空
知らなかった世界
触れられたのはほんの数分

あなたの中で眠る私
実のところ
あなたのことすらよく知らないのだ
ただ世界に触れさせてくれたあなた
温めることが出来たならそれでいい


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