就寝前のインスタグラム
「今日もありがとう!楽しかった!」
最近の私達は、就寝前にインスタグラムを更新するまでが「遊び」だ。カメラロールから今日撮った写真をいくつか選んで、写っているカフェと友人のアカウントをタグ付け。何も考えずに、息をするように発信している。きちんと投稿できたことを確認したら、友人達の動向をチェック。写真ので笑う彼女らはうんとお洒落で可愛くてキラキラしていて、毎日が楽しそうだ。
「私だって楽しかったもんね」と心の中で呟く。
就寝前のインスタグラムは身体に悪い。
ぼーっとスクロールを続けていると、高校時代の友人、安本から久しぶりに連絡が来た。彼女は神戸の大学に進学したのだが、リモート授業への切替をきっかけに下宿先を引き払ってきたらしい。せっかくこっちに帰ってきたならと、次の日に夜ご飯を食べに行くことになった。「何か食べたいものある?」送信しながらインスタグラムを検索する。「そういえば大学の子が可愛い居酒屋の写真を載せてたな……。」などと考えたが、安本が焼き鳥を食べたいと言ったのでやめた。
次の日、安本と地元で一番栄えている駅の前で待ち合わせして焼き鳥屋に行った。ビールと焼き鳥を楽しみながら、話題は専ら「推しの顔が良い」話。合コンの話も、彼氏とお洒落なカフェに行った話も一切なし。高校時代から何一つ変わっていない自分たちを確認して、なんだかとても安心した。
帰宅後、いつものようにベットでスマートフォンの明かりをつけて気がつく。今日は写真を撮っていない。しまった、久しぶりに会ったのに投稿する写真がなくなってしまった。落ち込む反面、その事実に喜んでいる自分もいた。私は今日、遊ぶために遊んだのだ。美味しい焼き鳥を食べるために焼き鳥屋に行ったのだ。「いかに楽しかったか」を発信するためではなく。
その日はもう、インスタグラムは開かなかった。
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