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巡査部長昇任試験の論文答案の書き方と不合格になる理由

最近は現役警察官の方から昇任試験について昇任試験の勉強方法についてよく相談をいただきます。

僕自身も巡査部長に昇任するまでとてつもなく苦労しましたし、巡査と巡査部長の扱いは警察内部でも大きく違うので頑張って試験勉強して良かったと今でも思います。

巡査部長昇任試験の論文答案の書き方と不合格になる理由

試験に合格できないほとんどの人は何を勉強すれば良いのか分からず、なぜか合格しないし合格できない理由も分からないというのが実情だと思います。

そこで今回は巡査部長を目指す人にどのレベルまで試験勉強すれば合格できるのかを分かりやすく説明します。この記事で警察の階級や昇任試験が全て分かるはずです。

関連記事『僕が巡査長から巡査部長という階級に昇任した理由』

警察官の昇任試験について

自治体によって試験内容にも多少の差はありますが、大きく分けて基本的に必要な科目は

①一般論文②法学(憲法・行政法・刑法・刑事訴訟法・警察官職務執行法)③警察実務(総警務、生活安全・地域・刑事・交通・警備)

になると思います。自治体によって試験の内容は若干違っても試験に受かる人のレベルはほぼ同じです。

何故かというとこれまで色々な都道府県の巡査部長や警部補に会って話をしましたが業務知識はみな一定水準を超えていたからです。

ここで試験内容について神奈川県警の昇任試験を例に解説します。

昇任試験と階級

ここでは巡査部長から警部まで記載されていますが、警視以上は試験内容が異なるためです。巡査部長から警部までは一次試験と二次試験を受験する必要があります。

昇任試験の内容

そして一次試験は予備試験(SA)と呼ばれて二次試験が筆記試験(論文)、口述試験(面接)、術科試験となるのですが、一次試験(SA)にすら合格できない人が多いため警察官専用の試験対策テキストが内部で購入できます。

参考書の内容はこのような感じです。

警察官の昇任試験問題

この参考書を買わずに受験して合格した人は見たことがないので必要な法律知識をギュッと詰め込んだテキストなのは間違いありません。

ちなみに有名どころはTOPというメーカーとKOSUZOというメーカーです。これはほとんどの警察官が愛読しているテキストになります。

上で紹介したテキストの目次を見るとズラッと色々な問いが羅列されていますが、これは1科目が記載されているだけで、本番の試験では7科目以上が出題されます。

大学のセンター試験レベルの科目数と膨大な出題数、そして全て論文形式なので勉強していない人は答案を白紙で提出するか見当違いの答えを書くしかありません。

合格に必要な勉強期間と勉強量について

『昇任試験に合格するには1年以上の勉強期間が重要で家族の協力が必要である』と偉い方が言っていましたが、僕も当時を振り返るとその通りでした。

関関同立クラスの大学を卒業した人に合格のコツを聞いたところ『目から血が出るほど1年かけて勉強した。』と言われましたし、高卒で1発合格した人に聞いても『これが最初で最後のチャンスだと思ってノイローゼになるまで死ぬ気で1年勉強した』と言われたので学歴に関係なく勉強期間に1年は必要だと思います。

警察官採用試験はマークシートなので勘でも1次試験は合格できるのですが階級を上げるための昇任試験は論文ですから知識がなければ絶対に合格できません。

勉強量については量と質の両方が求められます。仲の良い警部さんは寝る時も枕元にノートを置き、暗闇の中で論文を書いて頭に刷り込ませていたと聞きました。

試験合格に必要な勉強時間

僕もその話しを聞いて意味がよく理解できます。論文練習を1日に10時間以上続けると指が腫れて腱鞘炎になり、文字が書けなくなるのです。

それでも論文形式にまとめあげる練習を続けなければ記憶が薄れてしますので、夜になると文字を書くというより頭にインプットした答えをアウトプットするための作業になります。

科目が多いことと出題範囲がとてつもなく広いため、法律のほとんどを網羅する作業になるのですが、これは分かりやすく言うと辞書を丸暗記する作業と似ています。

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『あ』から始まり『ん』で終わる辞書の単語と意味を全て丸記憶する作業に似た勉強は途方もなく、勉強途中で『こんなの無理だろ...』と投げ出したくなるのですが、家族の協力と上司の期待を背負っているので投げ出すわけにはいきません。

覚えたと思った内容が翌日にはほとんど抜けていることもあり、覚える作業と覚え直しの作業を繰り返すと気付けば夜が来ます。

誰とも遊ぶことなく1年間は孤独な闘いになるのでノイローゼになります。

巡査部長昇任試験の倍率

ちなみに神奈川県警の昇任試験の倍率を見てみると巡査部長で10.1倍、警部補で18.1倍、警部で27.7倍ということです。

倍率10倍の試験ってどんなものがあるのかを興味本位で調べてみると労働基準監督官や裁判所事務官に該当するようです。

昇任試験をなぜ諦めるのか?

昇任試験に合格すれば誰でも巡査部長、警部補、警部までは上がれます。

それならなぜ勉強しないのかと言えば集中力が続かないのです。1年間かけて遊びの誘いも断って勉強して落ちたら費やした時間が水の泡です。

試験に合格しなくても警察官としてクビになることはありませんし給料も大差なければ人間は今の環境を選んでしまうのです。

『昇任しよう!』と思うきっかけは本当に必要で、僕の場合は幸か不幸か一般人の方から巡査長であることを揶揄されて奮起したのですが、それがなければ生涯巡査長だったと思います。

休日も勉強に返上して1年を費やすというのはある種ギャンブルに近く、不合格になることを想像すると多くの人は諦めてしまいます。

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そして例えば『警視庁の警察官は法律知識が豊富だけれど秋田県警は法律を知らない』ということはありません。何故かというと日本全国の警察官が一律に法律知識を有しておかなければ県によって違法・合法の差がでることは非常にまずいからです。(条例を除く)

上でも説明したように昇任試験合格にまぐれは絶対にないのです。そして巡査部長にどれ位の法律知識が必要なのかというと、以前に発生したある事件を論理的に説明できるか否かで決まります。

それは池袋のプリウス事故です。上級国民と日本中から非難されたニュース、あれがなぜ現行犯逮捕できなかったのか説明できる人が大体の合格水準です。

世間では警察が逮捕しなかったのは運転手が上級国民だからだと言われていますが、全く違います。逮捕しなかったのではなく逮捕できなかったのです。

昇任試験の難易度

警察の昇任試験では「池袋の交通事故はなぜ逮捕できなかったのか」と短い問題文を渡されて、1時間以内に400字詰め原稿用紙3枚程度を完璧に埋めるレベルの法的知識を求められます。

そもそも逮捕とは何か分かるでしょうか?逮捕されたら刑務所に行くとか有罪になると思っている人もいますが逮捕とは犯人が逃げないように、証拠品を捨てないように警察署に強制的に宿泊させて取調べを行う行為です。

警察官と階級

ちなみに逮捕には3種類あって、現行犯逮捕・緊急逮捕・通常逮捕の3種類があり、現行犯逮捕には逮捕するまでの制限時間や距離など制限があります。

現行犯逮捕に可能な制限時間や距離はどれ位なのか?

現行犯人とは何なのか?準現行犯人とは何か?

逮捕したら犯人はどうなるのか?

現行犯人を逮捕した場合は相手のズボンのポケットの中身は見ても良いのか?

逮捕状があれば車のトランクを開けても良いのか?

犯人が逃げて人の家や役所に入った場合は追いかけてもよいのか?

犯人を3時間追いかけてつかまえた場合も現行犯になるのか?

一般人が現行犯人を捕まえた場合は警察はどうすれば良いのか?

現行犯逮捕と緊急逮捕の違いは?

緊急逮捕できない罪名は?

警察官の巡査部長昇任試験

逮捕についてざっと簡単に書きましたが、これらの質問に全て正答できなければ昇任試験に合格するのは難しいです。

また令状による捜索差押と令状によらない捜索差押の意味と違いについても理解する必要があります。

犯人(被疑者)を逮捕したらまず何をするのか。犯人の権利を守るために警察官は法律を理解しておく必要があります。これを適正捜査と呼びます。

国選弁護人とは何か?弁護士にはいつ電話するのか?どの罪でも国選弁護士を雇うことが出来るのか?裁判員制度とよく聞くけれど、そもそも裁判員って何なのか?

取調べする場合も臨機応変、色々なことがあります。酔っぱらってフラフラの犯人を現行犯逮捕した場合、最初は罪を認めてもシラフに戻ったら全く覚えていない場合はどうするのか?

日本語も日本の文化も知らない外国人を取調べする場合はどうするのか?

取調べ中に犯人が調書を破ったらどうするのか?

記載前の調書と記載した後の調書だと破った場合に罪名は変わるのか?

調書で嘘の証言をすると罪になるのか?

調書で偽名を使うと罪になるのか?

この全てを書けてようやく平均点です。この答えが書ける人は池袋の事故がなぜ逮捕されず、京アニの犯人が逮捕されたのか理解できるはずです。

ちなみに昇任試験で合格するためには試験勉強だけでなく、仕事でも実績を出さなければ合格できません。上司の評価と試験の成績を兼ねそなえていなければ合格できないので、実務と法律知識の両方を兼ね備えておく必要があるのです。

昇任試験の論文答案の書き方

論文の答案用紙はとにかく見やすく分かりやすく書く必要があります。採点者も大勢の受験者の答案を読むので文章全てを見る時間はなく、受験者も細かく書く時間はありません。例えば『現行犯逮捕して逃走事故防止に配意する』と書きたければ『1現行犯逮捕 2逃走事故防止』と短く2つに区切り、答えだけを書きます。

つまり答案用紙は短文回答の羅列となるので勉強していなければほとんど白紙です。加点狙いだけで覚えた法律用語も最近は加点してくれません。

教練や逮捕術の試験について

昇任試験の教練や逮捕術の試験は警察学校で学んだことをそのまま試験会場で実技としてチェックされます。

警察学校では教練といって機動隊の服装で号令のかけ方や整列、盾の使い方、駆け足の方法などを学ぶのですが、これは警察学校で終わることなく退職するまで必要な動きになります。

昇任試験と教練

これを昇任試験本番までどのように練習するのかというと、機動隊から来た人など部隊活動に詳しい人に1から教わって勉強するのです。号令のかけ方や動きなど警察学校で覚えたことはほとんど忘れているので、ここで再勉強します。

逮捕術も武道に詳しい人にお願いして、投げ方や受け身を柔道場で教えてもらいます。

僕は術科が不安だったので、家でも妻に号令をかけてもらって動く練習をしたり、妻に組み手の相手になってもらい投げ技の練習をしていました。(本当に投げると怪我するので技をかけるまで)

柔道の受け身は家で出来ないので、早めに署に出勤して誰もいない道場でYシャツ一枚で受け身の練習をしていました。

ここまで練習しても試験本番では緊張して受け身がでんぐり返りになる人もいますが、練習した人と練習していない人は一目瞭然です。

昇任試験を受験する人の中には休日に受験仲間で公園に集まり、全員で教練の練習をする人もいます。ここまでする理由は落ちるとまた一年とてつもない勉強をしなければならないからです。

次に警察官の階級について説明します。

警察官の階級について

まず警察官の階級をざっくりと説明します。

(1)巡査(英称 Police officer)

警察学校を卒業した人は誰もがこの階級になります。大卒として2年、高卒は4年巡査を経験すれば昇任試験を受けることができます。

ここで高卒と大卒は2年のハンデがあると思われがちですが、警察官になって仕事しながら上で説明したような勉強量をこなせる人は少ないので高卒でも大卒でも勉強が苦手な人は巡査のままです。

巡査では任される仕事にも限界があるため、上昇志向の人は階級を上げることを早めに意識し始めます。

ストレートに昇任すると22歳で巡査部長になれるので、同い年の大卒の新人を部下に持って働く若い巡査部長もいます。

(2)巡査長(英称 Senior Police Officer)

巡査長は警察官採用後に高卒は6年、短大や高専は4年、大卒は2年で自動的になれる階級です。正式な階級ではなく、法律的には『巡査』の位置づけです。

ただ巡査の頃に何らかの原因があると巡査長に上がれない人もいるようです。巡査長に上がれなくとも巡査部長には昇任できるので気にする必要はそこまでないと思います。

多くの若手警察官はこの階級で停滞するため、どのタイミングで試験勉強に本気で取り組むかで警察人生は大きく変わります。

なお警察官は昇任試験を絶対に受験しなければならないので、『自分は昇任するつもりはない』という言い訳は警察内部で通用しません。

(3)巡査部長(英称 Sergeant)

役職的には主任級です。制服の腕には銀色の線が巻かれます。階級章の星も3つになり、ようやくここから警察官として一人前と組織から認めてもらえるようになります。

警察官は巡査部長からがスタートと言っても過言ではなく、法律上、巡査では書けない書類もあります。巡査や巡査長では部下を持つことができず現場では司法警察員(巡査部長以上の階級)の指示を受けてから行動することがほとんどなので、仕事を覚えた頃には早く一人立ちして現場を回したいとヤキモキする人も多いです。

ちなみに巡査部長は軍隊の階級では軍曹にあてはまり、下士官を現場でまとめる役と同等とみなされています。

警察組織に詳しい一般人に職質しようとしたり、取調べしようとしても『巡査の言うことは聞く耳持たんわ』と相手にされないこともあります。警察以上に階級にこだわる市民も多く、特に30歳を超えて巡査長だと皆の見ている前で階級について冷笑されることもあるためプライドが傷つくこともあります。階級は警察組織だけでなく何故か一般人からも注目されるのです。

なお準キャリア(国家公務員Ⅱ種試験採用者)は巡査を経験せずに巡査部長からスタートとなります。

機動隊では分隊長と呼称されます。

(3)警部補(英称 Inspector)

役職的には係長級です。制服の袖には金色の線が巻かれます。警察組織では中級幹部として位置づけられます。キャリア(国家公務員試験Ⅰ種試験採用者)の警察官はいきなり警部補からスタートします。

警部補に上がれば給料が格段に上がるのかと言えばそうでもないのですが、現場を全て任されるのでやりがいはとてつもなく大きいです。逆に言えば法律や実務を知らなければ痛い目を見る役職でもあります。

仕事では部下の動向を全て把握した上で私生活上での相談なども聞き、ひとつの部隊をまとめ上げる役割になります。軍隊では中尉級に該当するそうです。

警部補になると部下が作成した全ての文書をチェックして課長に提出する役割を担うので、上から直接指示や苦言を受けます。それを部下に分かりやすく噛み砕いて説明する必要があるのでストレスも多くなります。

部下は上司を選べないのと同じで上司も部下を選べません。巡査部長や巡査にとんでもない人がいると警部補は自分の仕事に加えて部下の管理も必要になるのです。

機動隊では小隊長と呼称されます。

(4)警部(英称 Chief Inspector)

役職的には課長~部長級です。軍隊では大尉級に該当します。ここまで来ると警察官として出世頭です。異動(転勤)する度に全国の新聞に警察の人事異動者としてフルネームが載ります。

現場で働くことはほぼなくなり、部下の指揮や書類の決裁を担当します。高卒でも30代で警部になることは勿論可能です。

警部になると逮捕状を請求することができます。

警部になるためには頭が良いだけではなく、仕事も出来て上司と人間関係が構築できていなければなりません。つまり警察組織の中核となるため人間性や実務能力、判断能力、職務遂行能力など全てを判断されます。

僕の上司にとてつもなく仕事ができる数人がいて、その方達でも1発では合格できず試験に落ちた日は一緒にお酒を飲んで愚痴を聞いたこともあります。

機動隊では中隊長と呼称されます。警察署では『課長』と呼ばれますが、警察本部では『補佐』と呼ばれます。本部で『課長』には所属長級の警視が担当するからです。

(5)警視(英称 Superintendent)

役職的には執行役員(取締役)です。大規模署以外では署長になり、それ以外でも副署長や管理官として統括する役割になります。これまで警視の方と何度かお酒の場でご一緒したことがあるのですが、見ている世界が現場レベルではなかったです。個人ではなく警察組織として考えているので仕事の話をしてもため息しかでないほど達観されていました。

また仕事だけでなく何故か多趣味の人が多く、バイクのツーリングサークルを作ったり野球チームを作って若手を集めて休日に遊んだりと公私に渡って充実している人も多かった印象です。

若い警視の方、年配の警部補の方と僕の3人でお酒を飲みに行った時は警視が警部補の後輩だったため階級に関係なく警視が警部補に敬語を使って、警部補もため口で警視に説教していたので階級よりも年齢や年次というのは大きいなと実感しました。

軍隊では少佐(高級将校)クラスで、機動隊では大隊長と呼称されます。

他にとても仲の良い警視さん(署長で退職)は本人が退職した後も僕のことを気にして下さり、内勤に入ったときは署まで来て賞賛して下さりました。警視クラスになると辞めても警察愛は続き、大手企業から顧問として招致されていたので普通の警察官とは歩む人生が少し異なります。

(6)警視正(英称 Assistant Commissioner)

これがノンキャリアの最上級です。役職的には会長級です。軍隊では大佐にあたります。警察官は地方公務員ですが、警視正になると国家公務員になります。

このクラスになると直接電話することもできず、上司を介して話を伝えなければなりません。その中でもたまに気さくな方がいて、給料日に僕は廊下で警視正の方にいきなり給料明細を取り上げられたことがあります。

そしてその方は僕の給料明細を持ったまま返してくれずスタスタ歩くので、みんなが笑って見ている中、僕は警視正の方の部屋に入室することになりました。

警視正

部屋に入るとその方に『警視正と巡査が話すと目立つからこうやって呼んだんだ。お前は刑事課に行きたいそうだな?あそこは家に帰れないくらい忙しくて盆暮れ正月も祝日も土日も仕事だけど平気か?』と聞かれました。

僕は警視正と直接個室で話していることに動揺して『大丈夫です!覚悟はしています』と答えると警視正はニコッと笑い『よしよし。』と給料明細を返してくれました。

その数日後、僕の刑事課への異動が決まったのですが実際は盆暮れ正月もしっかりと取れてGWはガッツリ連休だったので、あそこで試されたのかなと今になって思います。

ちなみにこの警視正の方は高卒でした。警察官になるのに学歴は全く関係ないというのはこの時に実感しました。

とにかく人間性と根気、努力、少しの運があれば偉くなることができます。

ノイローゼになるほどの勉強を何年も何年もコツコツと続ければ警視正になれるのです。

ちなみに警察庁のキャリアの方とも仕事して一緒にお酒を飲む機会はあったのですが、警察官というよりも大企業のお偉いさんという感じでした。現場とは見ている世界が全然違っていて、ノンキャリアは駒だなと痛感しました。

職場でもキャリアの30代の若い課長は50代のノンキャリアの警視にも『キャリアとノンキャリア』という姿勢を崩すことはなく、踏み込めない壁を感じました。

たまに読者の方から質問で『キャリアになりたいのですが難しいですか?』と質問を受けるのですが、難易度はとてつもなく高いです。

ノンキャリアの採用数は毎年全国で15,000人ほどいますが、キャリアは10名程度です。官僚として日本の中枢で働くことになるので警察署の警察官のような仕事ではなく、現場の警察官を使って犯罪数や社会問題を減少させる仕事ですから働く目的が最初から違うのです。

結婚式の礼服にも階級がある

以前、元警察官がおすすめする理想の結婚式と費用という記事で警察官の結婚式について体験談を説明しましたが、警察官が結婚式で着用する礼服にも実は階級があります。

警察官の階級

この写真は僕自身が結婚式で着た礼服なのですが、これは巡査部長用の礼服です。一般の方には見わけが付きませんが、襟の階級章や袖の色など細かい部分で区分が分けられています。階級を上げて礼服もグレードアップしたものが着たいという人も中にはいるようで、これをモチベーションにしても良いのかなと思います。

学歴や職歴と階級は関係ない

良い学校を出ていれば昇任試験に有利とか、大卒が有利と世間では思われていますがそんなことは全くありません。僕がお世話になった警視正の方は2人とも高卒でした。そのうち1人は高校時代から柔道だけで警察官になったような方でした。

じゃあ頭が悪いのかというと正反対で仕事はとても真面目で細かく、文武両道でした。僕が朝礼で話したことを半年後の飲み会の場で『お前、あの話は面白かったな。でも〇〇は少し変だからその部分だけは変えるべきじゃないか?』と言われたときは記憶力と洞察力に驚いたことを覚えています。

実はこの警視正の方に昇任試験の勉強方法について色々と教わったのですが、覚えているのが『努力は結果を裏切らない。結果は努力を裏切らない。』という言葉です。

この方は前述のとおり柔道しか知らなかったので最初はとても苦労されたそうで、18歳から警視正になるまで今でも勉強を続けていると仰っていました。

高卒でも大卒でも学歴に関係なく、警察は平等に階級を上げるチャンスをくれます。ただそれは逆に言えば非情な実力主義で、論文試験と実務能力の両方が一定水準でなければ合格できないのです。

頭が良いだけの人が決して昇任できない理由はここにあります。

階級章について

警察官は階級社会です。そしてその階級を表すのが下の階級章です。

警察官の階級章

これを無くすと大問題になるので洗濯するときもちゃんと取り外したか必ずチェックしていたのですが、たまに疲れて階級章を付けたまま洗濯してしまい、洗濯機がカランコロンと鳴っていたこともあります。

新人巡査の頃、上司の警部補の階級章をふざけて付けさせてもらったのですが金色のバッジは威厳があって偉くなった気分になったのを覚えています。

巡査部長に昇任して星が3つの階級章を制服に付けたとき、嬉しくて握りしめた時の手の感触は未だに忘れません。ごつごつして無機質な素材ですが努力して手に入れた階級だったので、人生で手に入れた物の中で一番嬉しかったと言っても過言ではないです。

昇任試験に受かりやすい人

昇任試験に合格しやすい人、若くして階級が上になる人の特徴は記憶力がある人です。これは間違いありません。

若くして階級が上になる人の秘訣は、単純に若いから記憶力があるため試験に受かりやすいのです。試しに40歳の人と22歳の人に同じ文章を記憶させてみてください。どちらが先に早く正確に覚えられるか分かるでしょう?

警察の昇任試験は先ほども説明したように平等なので、年齢に関係なく同じ試験を受験します(一部、二部試験を除く)

だからこそ高卒で若くして昇任意欲が強い人は出世しやすいのです。中途採用で警察官になった人は組織に馴染むまで時間がかかり、更に苦労して警察官になったことで昇任に強い意欲を感じない人もいます。

警視からの試験が記憶力に頼らない試験になるのは受験者が全員高齢というのも大きな理由でしょう。

階級で仕事内容に大きな違いが出る

警察では階級によって仕事内容に大きな違いが出ます。ドラマ『相棒』の杉下右京や『SP警視庁警備部警護課第四係』の尾形総一郎、『ケイゾク』の野々村光太郎のように警部が現場で働くことはまずあり得ません。

部署によっては警部さんも実働員として働くことはありますが、基本的には警部補・巡査部長・巡査(巡査長)が現場で活動します。基本的な流れは課長(警部)が警部補に仕事を指示し、それを受けて部下の巡査部長と巡査が捜査して書類を作ります。そして警部補は出来上がった書類をチェックして課長に提出する流れになります。

警部になると仕事内容が現場監督者から管理監督者になるのです。

警察は階級が上がれば給料も上がるのか?

よく質問を受ける中で多いのが階級と給料です。公務員なので階級が上がってもそこまで給料に大きく変動はしないのですが、給料を公表している自治体のモデルケースを参考に表を作成してみました。

警察の階級と給料

これは同階級で同在職期間の人が貰える給料を対比したものですが、そこまで大きな差はないことが分かると思います。とてつもない勉強をして仕事でも成果を出して、ようやく階級が上がっても給料はそこまで差がつかないことも昇任意欲を削がれる原因なのかもしれません。

上司になると部下と飲みに行っても多めに払うことも多く、少し多めの手当ては部下との交際費に消えることも多々あります。

それを考えると警察官の仕事は給料のために階級を上げるのではなく、自分の仕事の幅を広げるために階級を上げると考えた方が良いと思います。

また転職する場合においても巡査部長以上の階級だと部下のマネージメント能力を評価してもらえるので有利になります。(僕の場合は特に優遇してもらえました)

巡査部長の昇任試験に合格したときの勉強方法

僕が巡査部長に合格したときは別の記事でも書きましたが、一日に10時間以上は勉強しました。朝の5時に起きて夜の11頃まで勉強して、通勤電車の中や交番でも休憩時間に勉強していました。

当時は交番勤務だったのでフラフラになって仕事から帰り、少し昼寝してから猛勉強していたのでプライベートは勉強だけに費やしました。

人生であそこまで勉強したのは初めてで、ここまで勉強したので本番試験でも全ての問題を難なく解くことができました。

昇任試験では四当五落という格言があり、4時間以内の睡眠時間を守る人は試験に受かり5時間以上寝る人は試験に落ちると言われています。

でも僕は6時間以上の睡眠をとりました。適切な睡眠時間は記憶を定着すると知っていましたし、自分自身がロングスリーパーだと自覚していたので周りの意見に流されることなくマイペースを守ったのです。

昇任試験の勉強方法

試験勉強に取り組む人の中にはシャーペンの芯の色を青色に変えたり(青色は記憶しやすくなるそうです)集中力が上がるお香を焚いたり、ヨガをしたりと各人が色々な工夫をします。

僕はとにかくスケジュール調整して勉強時間を確保しました。寝る、食べるというのは人間の活動に欠かせないものなので、これを省くと勉強効率も格段に下がります。

あとは1年間禁酒しました。お酒は大好きでしたがアルコールは飲むと記憶できなくなるばかりか良質な睡眠もできなくなるので受験生には大敵です。

昇任試験を合格するには食事時間と睡眠時間を守り、遊ぶことなく規則正しい生活を余儀なくされるので非常にストレスが溜まります。まさに自分との闘いになります。

警察官は階級が上がると仕事は楽になる?

上でも説明したように警察の階級には巡査からスタートして巡査長、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正までです。警視長以上はキャリアなのでまず会う機会もありません。

警視クラスになれば所属長と呼ばれて署長クラスになります。

そして階級が上がればいきなり仕事の効率が上がるような効果はありません。部下を持つので責任感もありますし、巡査部長も初級幹部として仕事を任されるためプレッシャーはあります。

警察は警部補と巡査部長が現場を担当するので、何か発生すれば擬律判断を委ねられます。そのときに間違った判断をすれば自分だけでなく部下、ひいては被害者や被疑者にも損害が及ぶことになるのでこれまで学んだ知識を現場で生かすことが求められます。

警察官と階級

ただ巡査の頃と較べて仕事は全体的に楽に感じます。書類を作成しても『幹部が作る書類だから正しいもの』と判断されて、内勤にも受理されます。巡査が作った書類は『どこか間違っている』という視点でチェックされるので小さな誤りでも訂正されることが多いです。

自分の仕事に責任を持てるようになるのが巡査部長以上の醍醐味だと言えるでしょう。ここから下は警察官の巡査部長昇任試験を受験される方向けの内容なので試験を受ける機会のない方はここまでで充分お分かりいただけたと思います。

長文でしたがご覧いただきありがとうございました。

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