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キャトッロケーキにレーズンを。

菓子作りに大切なのは”準備とタイミング”。1週間ラム酒に漬けたレーズン。前夜から常温に戻したタマゴとバター。2時間前にすりおろした人参。30分前に火を入れたオーブン。たった今ふるった小麦粉。それらを「集合!」と言わんばかりに一気に混ぜ合わせ、型に流し入れるのです。熱々のオーブンの扉を開けて、さあ一気に焼き上げるぞ!と思ったところで「あ、レーズン入れてない。」と気が付きました。

店も持つずっと前の話。

コーヒーを学ぶために入った横浜のお店で、心に火が付いてしまったのはお菓子のほうだったのです。21歳、私は「自分、先輩と同じ学校行くっす!」と東京にある専門学校に行こうと決め、そこから2年間の貯蓄生活。23歳、満を持して願書を提出、吉祥寺に部屋を借り、バイト先も目星を付けて、さていよいよ新生活が始まるぞ、しゃーーー!!!!と思った頃に、私の手元に届いたのはまさかの「不合格通知」でした。

結局同じ系列の大阪校へ行くことになり、急いで部屋を解約、飛び出すように夜行バスで東京をあとにしました。大阪市内から南に小一時間も行った小さな街に部屋を借り、吉祥寺に比べたらあまりにも素朴な生活が始まったのです。

24歳、入学。

25歳、卒業。

在学中のこと。コーヒー界では知らない人は居ないであろう、東京南千住の老舗珈琲店「バッハ」の店主である田口護氏(現スペシャルティーコーヒー協会理事)の講演があったのです。当時の私はお菓子に必死でほとんどコーヒーを飲まなくなっていたのですが、急にコーヒーが懐かしくなって、近所のスーパーで粉を買って家で淹れました。部屋中がコーヒーの香りになって〝ああやっぱりコーヒー好きだな″とその時思ったのですよね。

準備をしタイミングを見計らっても、人生は大抵予定通りに進まないものです。しかし、まぁ、でも、それはそれで大丈夫。あのレーズン無しのキャロットケーキも人参が甘くて美味しかったのです。

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