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陣内その2 | 読書『サブマリン』

何となくこの表紙に見覚えがあるなあ、と思いながら手に取ると、そこにはあの「やつ」がいるではないか、ああ陣内さん、久しぶりー!

と発売当時、チルドレンで陣内というキャラにすっかり魅了された私は懐かしさと再会の嬉しさも含めてこの作品を楽しんだ。伊坂作品はそういった強烈なキャラをシリーズで出してくれるのも楽しみの一つ。

今回の物語は未成年の無免許運転事故を題材にしたもの。

私にとってこの物語は、正義ってなんだろうと考えさせられる内容だった。未成年の起こす犯罪に対して、ただ厳しく罰することが良くない理由が最後の描写に詰まっている。

過去の犯罪歴から更生したい、そして社会貢献をしたいと願う青年に対して、社会は冷たくあしらう。前科にならない、そんなんでいいの?それでは人は反省しないのではないか?そんな言葉をかけられた青年に対して、調査官の陣内は語る。

「俺たちが何をやっても、駄目なもんは駄目だしな。真面目にやるのも面倒だ」

「でもな、そういうわけにもいかねえんだ」

「おまえみたいなのもいるからな」

「俺たちはちゃんとやらないといけねえんだよ」
伊坂幸太郎『サブマリン』28

俺たちを「私たち」、「大人たち」、社会などと変えてみる。そうすると、受け入れる側への問題提起と受け取れる。

犯罪を起こす未成年が全て同じ理由、背景、思考ではない、ちょっと考えればわかること。そして更生する機会を得ることでやり直せる未成年がいるという事実。

加害者の視点、被害者の視点、そしてマスコミをはじめとした部外者の視点。ものごとを単純に捉えようとすることへの危惧、そういった視点をしっかりと持ち、複合的に世の中で起こっていることを捉えないと偏った価値観になってしまうな、と改めて思わされる物語。

でもそこは伊坂ワールド、しっかりエンタメ要素で作られているので、強烈なメッセージもありつつ爽快感も感じられる内容で十分楽しませてもらいました。

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