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恐竜の化石

「中学生の時に好きだった女の子の机にちょうどこれと同じくらいの大きさと場所に、恐竜の化石のような傷があったのを覚えている。」

「それは彼女が下敷きを敷く理由となっており、わたしはそれについて困っていると打ち明けてくれたのが初めての会話だった。」

「厳密にいえば、その机は彼女の机という訳ではなかったのだが、彼女が座るその机の所在は彼女にあるように思えた。あれはまだ教室にエアコンが取り付けられる前の蒸し暑い夏の日だった。」

「習熟度別にクラス分けが行われた。受験を前に真面目に勉強する生徒とそれ以外を分けることが目的なのだろう。勉強ができない生徒が集められたクラスに私は入れられた。その頃から何も変わらないずっと頭が悪いままだ。」

「"できない子"たちで集められたそのクラスでは、普段では授業を共にしない他クラスから騒がしい物が集まって共鳴し合う。私は居心地の悪さを感じていた。同じように居心地の悪そうな人がいた。」

「彼女は何度も逃げ出す夢を見たという。何度も何度もその話を聞かされたのだが、彼女に好意があった私はその度に笑って見せた。彼女は自分の居場所から逃げ出すことが夢だったんだと気づいたのは、卒業式の前日の事だった。彼女は学校に来なくなった。」

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