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体験記事「盲学校フロアバレーボール練習試合でのアドバイス」

先日盲学校のフロアバレーボール練習に参加させていただく機会がありました。

コロナ禍のため自分の所属する社会人チームからはしばらく離れていたのですが…久しぶりに大好きなフロアバレーボールに触れられて楽しい時間を過ごせました。

勤務していた盲学校に対する思い入れはとても強いのですが、それと同じくらいブラサカやゴールボール に比べて認知度や盛り上がりに欠ける感のあるフロアバレーボール熱が高まってほしいし、子どもの数が減っている盲学校でフロアバレーボールがもっと盛んになってほしい、みんなの知識や技術を共有して日本全体のレベアップに繋がってほしいという思いもあります。

そこで学生のみなさんにお伝えしたいくつかのアドバイスを今回は紹介していきたいなと思います。

フロアバレーボールって?

フロアバレーボールは視覚障がいスポーツの1つです。6対6のチームで戦い、文字通りボールをネットの下(フロア)を転がしてプレイします。
チームはアイシェードを着用して全く見えない状態でプレイする前衛プレイヤー3名と後衛プレイヤー3名にわかれます。

前衛のアタック、後衛のレシーブの写真
フロアバレーボールのコート図

(画像は全国盲学校フロアバレーボール大会より)

よく聞かれるのですが、ブラインドサッカーやゴールボールとは違い、ボールには鈴などは入っていません。ごく普通のバレーボールです。僕は前衛プレイヤーですが、全く見えません(盲学校生活で慣れたので不自由さはなく、今でも夜中に起きたときは真っ暗闇の中でトイレまで行って帰ってこれます笑)。そのため、前衛プレイヤーは、ボールの転がる音や後衛からの指示や説明、前衛同士の声かけ、身体にネットやボールが触れた感触でプレイします。

青眼者(見えている人)も弱視も全盲も一緒になって楽しめるスポーツです。各地区を勝ち抜いた盲学校による全国大会も開催されています。社会人チームの各地区ブロック大会や全国大会もあります。

…とまぁ説明はこのくらいで詳しいルールなどはJFVA日本フロアバレーボール協会や全国盲学校フロアバレーボール大会のホームページをのぞいてみてください。個人的にもまたどこかで説明できればと思います。

フロアバレーボールで勝つためには…

フロアバレーボールはラリー制のスポーツです。ラリー制のスポーツで得点を重ねるためには、こちらがサーブを入れてポイントを得続けないといけません。

こちらが強いアタックを決めたり、相手のブロックアウトで得点を得る面ばかりか注目されがちですが、相手がミスをしてもこちらの得点になります。逆にこちらがミスをすれば相手の得点になり、相手にサーブが移ります。

つまり、ミスの少ない方が勝つスポーツなのです。

じゃあ、どうやればミスを減らせるのか。いくつか紹介していきます。

ミスを減らすために その1「コミュニケーションを密にする」

まずは前衛と後衛のコミュニケーションです。

複数の男女が会話しているイラスト

(画像はグロービス経営大学院より)

  • 敵のボールがどの辺りにあるのか、この後どう攻めてきそうなのか、どこからアタックがくるのか

  • ネット際やサイドにボールがある(停止しかけている)ときなど、どこにボールがあるのか【後衛が前衛に手を叩いたり、具体的な指示を出して伝える】

  • 後衛のアタックやパスが2打目なのか3打目なのか。

  • 前衛はオープンするのか、ブロックするのか、そのままの位置なのか。ブロックの位置をずらすのか、そのままなのか。

  • ローテーションの位置は合っているのか(次は何番サーブなのか、サーブ継続なのか、ローテーションなのか*ローテーションはキャプテンから主審に確認できます

  • 後衛から前衛のパスがどの辺りに行くのか(正面や右手、左2歩など)

敵のアタックや味方からのパスのタイミング【「くるよ!」「3、2、1」など】

などなど

多分他にもたくさんあるのですが、社会人のチームでは、前衛後衛間で、あるいは前衛同士、後衛同士で絶えずコミュニケーションをとっています。そして常に両チームが声を出し合っているフロアバレーボールですから、情報共有するために必ず全員で復唱します。

試合中や練習中であっても、後衛同士の守備の位置や前衛ブロックの位置、サーブやアタックはもちろん、レシーブやパスやトスのコースもこまめに確認し、訂正や要望があればこまめに伝えて共有した方がいいでしょう。

ミスを減らすために その2「細かいルールを意識して練習する」

男性が笛を鳴らしているイラスト

(画像はIT mediaより)

フロアバレーボールには細かなルールがたくさんありますよね。起こりがちなミスをいくつか紹介します。

  • 後衛プレイヤーがフロント(前衛)ゾーンに足を入れてしまうオーバーゾーン

これはアタック後なら良いのですが、アタック時にラインを踏むミスがよくあります。攻めたアタックを打つ際にはリスクとして仕方ないのかもしれませんが…練習中からラインを踏まないアタックを意識して練習しましょう。

  • 前衛プレイヤーがネットを超えて相手側のコートにあるボールを触るオーバーゾーン(ブロック時を除く)

オーバーゾーンの写真

(画像は全校盲学校フロアバレーボール大会より)

これに関しては前衛がネットの位置を確認しておくことと、ネット際にあるボールに関しては後衛プレイヤーが伝えとりあえず打ち返すよう(「関西ではちょんして(猫パンチのように相手コートへボールを打ち返せ!の意味)」とよく言います)伝えるしかないですね。

あとサーブ時に前衛プレイヤーの手や足ががネットのマーカーの外側部分やサイドラインを超えた部分に触れているとオーバーゾーンになります。後衛プレイヤーはサーバ前に確認し、オーバーしている場合はすぐに前衛へ伝えましょう。

  • リターンプレー(2打目)のミス

3打以内で相手にボールを返すフロアバレーボール独自のルールとして、リターンプレーがあります。

レシーブ側チームの第2打目のプレイにおいて、コート外のフリーゾーン内にあるボールへのプレイに関するルールで、このような場合、後衛選手はコートを出てフリーゾーン内でプレイすることが認められています。ただし、このプレイではボールは味方コート内に返球しなければならず、相手側コートへ返球してしまった場合はリターンミスとなります。
しかし、アイマスクやアイシェードを装着している前衛選手にこのルールは適応されません。

全国盲学校フロアバレーボール大会より

リターンプレーは、あくまでも2打目にフリーゾーンから味方コート内にボールを戻すためのプレーです。相手コートへの返球はできません。

よくあるミスですが、ボールが完全にフリーゾーンに出ていないといけないので、まだ味方コート内にあるボールはフリーゾーンからは触れません。

またリターンプレー以外で、1打目や3打目でフリーゾーンにあるボールを返球するときは後衛プレイヤーは片足がコート内になくてはなりません。またリターンプレーのボールが味方コート内に戻ってこない(フリーゾーンにある状態)で相手コートへのアタックはできません。細かいルールですが、練習中から確認しておきましょう。

  • ブロックプレーの打数

前衛プレイヤー3人がブロックをしている写真

(画像は全校盲学校フロアバレーボール大会より)

ブロックは前衛選手のみのプレイで、相手側コートから撃たれたサーブやアタックなどに対し、ネット付近(ネットから約1.5m以内)でしゃがんだ姿勢の前衛選手にその打球が当たった場合をいいます。

全国盲学校フロアバレーボール大会より

前衛プレイヤーのブロックは基本的に0打カウントになります。しかし、ネットから1.5m以上離れた状態(フロントゾーンの半分より後ろ側)でボールを触った場合は1打目となります。またブロックではなく前衛プレイヤーがボールを取り(押さえに)いったと主審が判断した場合も1打目となります。この辺りは判断が難しい場合も多いので、前衛と後衛で何打目になるのかを確認しつつ、怪しげな場面では2打目で相手コートへ返球した方がいいかもしれません。

その他、相手チームが前衛サーバでコールを始めたら自チームは声を出してはいけないとか、サーブを打った直後などを除いて後衛プレイヤーが前衛プレイヤーを引っ張ってはいけないなど細かいルールはルールブックや大会規則などで確認しておき、練習中から意識してプレイしましょう。

ミスを減らすために その3「前衛プレイヤーのコート感覚を鍛える」

僕自身は青眼者ですが、フロアバレーボールでは基本的に前衛プレイヤーです(グランドソフトボールも全盲プレイヤーです笑)。盲学校転勤時からそうなので、もう14年目になります。

アイシェードを着用し、全く見えない状態の前衛プレイヤーは、周りの音や声、ネットや床、ボールなどの触感覚を頼りにプレイします。そこで大事になってくるのかがコート感覚です。

前衛の大きな仕事がブロックです。コートの中央辺り(センター)でブロックし、後衛の指示で右や左に1歩、2歩移動する、後衛がアタックを打つときにセンターにブロックがいると邪魔になるので左右にオープンし、相手コートへボールが帰ったらまたセンターへブロックする。

もちろんブロックしたボールをキャッチしてアタックしたり、チームによっては味方の後衛や前衛へパスをしたり、あるいはパスを受けてアタックしたりもありますが、ブロック、オープン、ブロックの繰り返しが前衛の基本プレイになります。

僕がフロアバレーボール部の顧問をしていたときに新しい前衛プレイヤーに練習してもらうのは、こんな練習です。

ネットを辿りながら、左マーカーでブロック、後ろを向く、またブロックしてから立ちあがり、センターマーカーへ移動して、ブロック、後ろ、ブロック、続いて右マーカーへ移動し、再びセンター、左と戻ってくる。これを毎日のアップの一環でやっていました。

まずはネットに触れた状態でゆっくりと自分の歩数を数えながら、徐々にスピードをアップしてネットに触らず移動できるように、慣れれば全速力で競争します。

フロアバレーボールではネットに触れているときにボールに触るとタッチネットという反則になります。なのでなるべくネットに触れずに素早くオープン、ブロックができるよう、まずはコート感覚を身につける必要があるのです。

またネットをなるべく触らないという言葉と矛盾するのですが、ゲーム中に移動しているとブロック時にネットとの距離が離れすぎたり、ネットに対して真っ直ぐではなく身体が斜めになってしまうことがよくあります。この状態ではブロックアウトしてしまう可能性が高くなってしまいます。

なので、ブロック中はこまめに両手でネットに触ってブロックの向きを修正します。このときに片手だけでネットに触れると身体が斜めになってしまうので、慣れるまでは両手でネットに触って(こうすると身体とネットが平行になります)ブロックの向きを確認、修正しましょう。

ミスを減らすために その4「アタックミスを減らす」

強烈なアタックでヒットを決めたり、ブロックアウトやレシーブミスを取ったりするとめちゃくちゃ気持ちいいですよね。それがフロアバレーボールの1つだと思います。

ですがラリー中のアタックミスが連続すると(攻めた結果で仕方ない場面もあるのですが…)点差を放されますし、こちらの士気も下がってしまいます。

アタックナンバーワンのワンシーン。不穏な空気のなかで 主人公が白目をむいている。

(画像はバンダイチャンネルより)

フロアバレーボールのアタックは相手コート内で敵プレイヤーに触れる、もしくは相手側コートの後衛ゾーンの床面に触れなければなりません。

ボールが浮いて空過することに関しては練習するしかありません。それぞれの打ち方によると思いますが…僕は手首を引いて親指の付け根で打つようにしています。

力み過ぎて肘が曲がると浮きやすくなるので、打つ直前まで力を抜くことや、相手のボールをキャッチして即座に打つ速攻のときは威力よりスピード重視で多少力を抜いて打つこと、浮いている時は対角の奥角など距離のあるコースを狙うことなどができる工夫かもしれません。

まぁ浮いているアタックは敵前衛の腕や膝に当たるとブロックアウトしやすいという利点もあります。…狙って打てないとかなりリスキーですが。

また学生チームについては、技術や経験の問題もあるのかもしれませんが、相手の後衛ゾーン前角ギリギリを狙ってのアタックミス(コースアウト)が多いように感じます。まぁ決まりやすいポイントなのでそこに打ちたい気持ちはよくわかるのですが…。

おすすめは相手チームバックゾーン(後衛ゾーン)の対角コースで奥角から前角の間のゾーンを狙うことです。

狙うべきコースの図

こうすることでコースアウトの可能性を減らしつつ、効果的なアタックが打てる可能性が上がります。


このようなミスを減らす以外にも大事だと思うポイントをいくつか紹介します。

チームとしての戦い方をみんなで話し合い、共有する

当たり前ですがチームによって攻め方や守り方は変わりますし、最適解と思われる戦術も異なります。

後衛主体で攻めるチーム、前衛主体で攻めるチーム、前衛-後衛間や前衛同士でパスをやり取りするチーム、強いアタッカーが一人のチーム、強いアタッカーが何人もいるチーム、速いペースでガンガン攻めるチーム、ゆっくりじっくり攻めるチームなどなど…

「自分がアタックを決めたい」という欲求は誰しもが持っているはずです。また人の集まりなのでチームメイト同士の人間関係もあるでしょう。

ただフロアバレーボールはチーム競技です。なのでチームとしてどこで誰が攻めていくのかなどチームみんなで話していく必要があります。もちろん当日の調子によって攻撃スタイルを変えていくこともあるでしょう。試合展開によってはリスクをおかして攻めなければ勝てない場面もあるでしょう。大事なのはみんなで納得できる共通の部分を話し合いでつくっていくことだと思います。全員で確認した上でのミスならすぐに気持ちを切り替え、周りが盛り上げていくことができるはずです。

緩急をつける

僕が個人的に好きなのがこの緩急をつけたり、フェイントをした上でコースをずらしたりするトリッキーなプレイです。

ジャンケンで相手がグーしか出さないならこちらの出す手は簡単に決まりますよね。でも3回連続でグーを出していて次にチョキを出すと相手の意表を突くことができます。そうやってこちらが何を出してくるかわからなかったら、相手は気を抜けなくなるし、その分消耗も早くなります。

そんな感じで、例えば強いアタックの後の緩いアタックにブロックアウトしたり、対角ばかり狙っていたのが急にアウトコースで掌を狙われてブロックアウトしたり、ドンッと足を踏み鳴らしてから一瞬タイミングをずらして後衛にアタックしたり、「オープン」と味方後衛にトスすると見せかけて相手の隙をついてアタックしたりと、そんなプレイも取り入れてみたら戦術の幅は広がるし、何より決まるとめちゃくちゃ気持ちいいですよ。だだし、それでやり返されると味方に怒られますが笑

いくつもの選択肢を持ったプレイを

これは学生チームには難しいかもしれません…が先ほどのジャンケンの話と理屈は同じです。

例えば2打目で味方の前衛にパスすると見せかけて途中で別の後衛がそのパスをアタックするようなプレイのことです。

「次は後衛からのアタックしかないな」相手チームはそう思うと後衛のポジションをシフトしますし、前衛のブロックも寄せてきます。そうするとアタックが決まる可能性は低くなり、逆に相手のプレッシャーでこちらのミスする確率は高くなります。

例えばオープンした前衛がパスをもらえるように後ろを向いたり、前衛同士でパスができるように横に広がって読んだり、後衛からのパスが前衛パスでも後衛アタックでもどちらでもいけるコースにしたりなど1つのプレイで複数の選択肢を持つことができれば、相手に合わせて切るカードを変えることができて決められる確率が上がります。

まとめ

とりあえず思いつくことをダラダラ書いてみました。他にもボールには回転をかけてコースを変えるとか、ボールをキャッチしやすい体勢とか、キャッチボールを取られにくい手の動きとか、速攻の打ち方とかいろいろありますが…文量が多くなってしまいましたので今回はこの辺りで。

またどこかで自分なりの知識や技術を紹介できればと思います。

また学生さんの練習にも参加したいですし、全国大会も楽しみですね。今年は自分の大会もありますしね。

今回の情報が全国の盲学校でフロアバレーボールをプレイするみなさんのお役に立てば幸いです。



表紙の画像は全国盲学校フロアバレーボール大会より引用しました。