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特別支援学校からの発信「百聞は一見に如かず!施設見学のススメ」

僕は支援学校の高等部に在籍していた期間が長く、生徒の現場実習引率や実習先の施設開拓にも関わったことがあります。

最近では高等部だけでなく、中学部や小学部といった段階から、高等部卒業後の進路先について知ってもらうよう、進路説明会や合同施設説明会、施設見学会などを企画されている支援学校も多いかと思います。

今回はそんな支援学校高等部卒業後の進路先となる施設を早い段階から見学することのオススメについて書いてみました。見学をオススメするのは、本人・保護者だけでなく、支援学校の幼稚部・小学部・中学部、あるいは小学校・中学校の教員の方々にもです。

どんな進路があるの?

支援学校高等部を卒業後の進路は、①就職(手帳所持をクローズにした場合や特例子会社など障がい者枠雇用で手帳を前提にした場合も)、②進学(大学や専門学校、視覚支援・盲学校や聴覚支援・聾学校の専攻科、支援学校高等部卒業後の学びの場などを経て就職を目指す)、③職業訓練校・能力開発校、④福祉的就労(就労移行支援、就労継続支援A型・B型、生活介護)などがあります。それぞれ解説していきます。

1.就職

障がいのある方の雇用を促進するため、障害者雇用促進法で、従業員43.5人以上の企業は、一定の割合の障害者を雇用する義務が課せられています。この割合が法定雇用率で、民間企業は2.3%になっています(国、地方自治体などは2.6%、教育委員会は2.5%です)。

雇用を促進するため、各種助成金や職場定着に向けた人的支援など、様々な支援制度があります。この法定雇用率が未達成の企業は、納付金を納める必要があり、さらに大幅に未達の場合、ハローワークから障害者の雇入れ計画書の作成命令や行政指導が行われ、それでも対応しない場合、社名公表になることもあります。

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(画像は行政書士・社会保険労務士 へんみ事務所より)

障がい者手帳を持っており、障がいがあることをオープンにして就職し、この法定雇用率にカウントされるのが障がい者枠雇用です。グループ企業などで、法定雇用率を達成するため、障がい車をまとめて雇用するよう設立された特例子会社もあります。

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(画像は障がい者としごとマガジンより)

一方、障がい者であることを公表せず、就職する(クローズといわれる)場合もあります。

オープン・クローズどちらにも、職種や給料、支援や配慮などメリット・デメリットがあります。もちろん就職には他の選択肢よりも給料が高く、福利厚生も充実しているケースが多いですが、相応の能力やスキルを求められますし、採用枠を巡る厳しい競争もあります。

2.進学

大学や専門学校へ進学するという選択肢もあります。よく「支援学校高等部では高卒資格にならず、大学進学できない」ということを聞きますが、「支援学校高等部卒業という資格で大学受験は可能」です。文部科学省のホームページにも掲載されています。但し、高等学校と違い、単位の取得や評定がないので、推薦入試やAO入試などを希望する場合は受験校との相談が必要になります(肢体不自由・視覚・聴覚支援学校の準ずる課程で単位認定を受けた場合は別です)。

大学を卒業すると大卒扱いとなるため、職種が制限されたり、給料が高くなり相応のスキルを求められることもあります。

また盲学校・視覚支援学校(あん摩マッサージ指圧や鍼灸など)や聾学校・聴覚支援学校(工芸やデザイン、理容、印刷など)には、職業課程である専攻科が設置されています。

それ以外にも、知的障がいや肢体不自由校での専攻科を求める声や、高等部卒業後の学びの場として設立された施設などもあります。

3.職業訓練校・能力開発校

障がい者手帳の所持が前提になります。ハローワーク(公共職業安定所)に登録し、申し込みをします。障がい種別や施設によって、事務、PC(文書・資料やホームページ作成、製図など)、農業・園芸、清掃、製菓、接客など施設ごとにさまざまなコースがあり、1年や半年ほどの在籍期間を経て就職を目指します。また入校には選抜試験があることが多いです。

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(画像は朝日新聞より)

4.福祉的就労

一般企業などで働くのが難しく、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、生活介護などで福祉サービスを受けながら働くことを福祉的就労といいます。支援学校卒業後の進路として大きな割合を占めています。

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(画像は障がい福祉事業サポートセンターより)

(1)就労移行支援

原則2年間以内で、一般企業への就職を目指す方が就職するために必要なスキルを身につけるために通います。

(2)就労継続支援A型

利用期間の制限はありません。利用者と事業所が雇用契約を結ぶのが特徴です。そのため、利用者には原則最低賃金以上の賃金が支払われます(社会保険などの関係で短時間勤務のことが多いようです)。実際の作業を通じて職業技能などを習得し、最終的には一般企業への就労を目指します。最低賃金を保障するため、相応のスキルが求められます。給料(工賃)は時給制で平均すると78,975円/月(887円/時間)程度となっています。

(3)就労継続支援B型

利用期間の制限はありません。年齢や体力などの理由で、雇用契約を結んで働くことが難しい人に働く場を提供する福祉サービスです。雇用契約を結ばないため生産性を気にすることなく、症状や体調に合わせて自分のペースで働くことができます。その分、支払われる工賃はあまり高くないことが多いようです(平均で16,369円/月(223円/時間)程度)。いわゆる、かつての作業所や授産所のようなイメージです。支援学校卒業後に利用する場合は、就労移行支援事業所を通してアセスメント実習を受ける必要があります。

就労移行支援と就労継続支援A型・B型をわかりやすく比較した表です。

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(画像は元住吉こころみクリニックより)

(4)生活介護

介護の支援が必要で、6段階の障がい支援区分が3以上(入社施設を利用する場合は4以上)の方が利用できる、食事・入浴・排泄などの介助サービスを提供する場です。調理・洗濯・掃除といった家事の支援や、日常生活に関する相談対応と助言、創作的な活動や生産活動の機会の提供などさまざまな面から利用者と関わります。工賃が支払われる施設もあります。

(5)その他

それ以外にも、地域活動支援センターや自立訓練(機能訓練・生活訓練)という選択肢もあります。先に紹介した学びの場として、自立訓練(生活訓練)と就労移行支援とで4年間を設定している施設もあります。

法人や施設によっては、ショートステイや入所サービスがあったり、グループホームを持っている場合もあります。

学校とはここが違う

進路先は当たり前ですが学校とは違います。

希望の進路先に必ずいける訳ではありませんし、理想の施設があっても定員が埋まっていて空きがないこともあります。

見学に行かれた保護者の方が一番驚くのは支援員・指導員の数です。生活介護で利用者さんの平均支援区分が5以上、最も重度といわれる方の施設でも、利用者さん3人に支援員が1人が配置定数になります。支援学校の教員数とは全然違いますし、マンツーマンで支援員がつくということはなかなかありません。

送迎もそうです。多くの支援学校では通学バスがありますが、自力通勤・通所が前提の施設もたくさんあります。

施設や作業内容によって、求められる身辺自立や作業スキルも異なります。

親の会の活動や寄付金などが求められる場合もあります。

見てみないとわからない

見てみないとわからないのは、学校との違いだけではありません。

特に就労移行支援や就労継続支援A型・B型、生活介護といった福祉的就労では、実際の施設を見学するまで分からないことがたくさんあります。

バリバリ作業をする施設から、ゆったりまったり過ごす施設、建物の大きさや利用者数も職場内の雰囲気も全然違います。いろいろな障がい種別の方がいる施設も、同じ障がい種別の方が集まった施設もあります。就労移行支援や就労継続支援B型よりも、バリバリ作業している生活介護施設もあります。同じ就労継続支援B型でも、施設によっては作業内容が異なり、もちろん工賃も異なります。

施設の区分だけではわからない、実際に見て確かめないと分からないことがたくさんあるのです。

たからこそ、早い段階から進路先となる施設見学をオススメするのです。

将来の働く姿をイメージして逆算して

実際に施設見学をすることで、高等部卒業後のイメージ、その先で子どもたちが働く姿をイメージできれば、そこから必要なチカラを逆算して積み上げていくような支援を考えられるかもしれません。

今のその子に寄り添うことも、先を見据えた関わり方や環境調整をすること(地図をもった支援)もどちらも大事です。

ただゴールは子どもによって違いますし、保護者や教員だけが進路を意識しすぎて焦り、子どもに押しつけてしまうのも違います(親や教員の過度なプレッシャーで子どもがしんどくなってしまうかもしれません)。子ども本人も実際に見学や体験をし、進路のために必要なことを具体的に意識して納得して取り組む必要があります。あくまでもその子が選ぶ進路先です。

また卒業後の進路先が一生のゴールではありません。ある施設見学をした際に職員の方から「高等部卒業後はなかなか毎日働くリズムになれず、集中できないときも多かったけど、半年、1年と経つにつれてどんどん成長されてきたんですよ」と言われたことがあります。就労先や進学先でこちらの想定を超えた成長があるかもしれません。

進路先から転職される方もたくさんいます。高等部や訓練校、就労移行支援支援を出てしばらくはアフターケアや定着支援があるかもしれませんが、その後に転職する場合は、ハローワークや障がい者就業・生活支援センター、障がい者職業センターなどと相談しながら施設を探すことになります。

まとめ

支援学校高等部卒業後の進路先についてアレコレ紹介してみました。いかがでしたか?

いろいろ紹介しておいてなんですが、タイトルの通り百聞は一見に如かず、施設の名称や区分、特徴を言葉で理解していても、実際に見学してみないとわからないことがたくさんあります。

また見学や体験をすることで具体的なイメージを持つことができます。特に支援学校歴が長い保護者の方の中には、今のままの環境がずっと続いていくイメージをお持ちの方もおられますが、学校とのギャップがあります。

なかなか見学や体験が難しい情勢ですが、そんな具体的イメージを持つためにも、施設による違いを実感するためにも、百聞は一見に如かず、ぜひ早いうちにからの施設見学をオススメします。


参考にしたサイト

1.LITALICOワークス

2. S-Pool Plus「障がい者雇用に関わる法律・制度」

3.本気で就職を目指す障害者のための就職活動支援センター「ウェルビー」

4.障害者の求人転職情報・雇用支援サービスatGP

5.LITALICO発達ナビ「特別支援学校高等部卒業後の進路の選択肢とは。発達障害がある子の進学、就職、働き方まで解説します」

6.「障がいのある方のための就労支援機関ガイド2021年度版(神戸市)」



表紙の画像はBuzzFeed Newsより引用しました。