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特別支援学校からの発信「知識を有機的に関連させて考えを広げていく思考ツール」

支援学校で働く中で、子どもたちどんな知識を伝えていくのかを考えたり、先輩と話したり相談したりします。

僕自身は、知的障がいの特別支援学校に転勤して2年目になります。以前の盲学校では、教科書の内容を中心に教える社会科の授業を主に担当していました。今は、いわゆる合科、国語・社会・数学・理科・英語を合わせた授業を主に担当しています。

今回はそんな授業で試行錯誤しながら取り組んできた内容について紹介します。

学習指導要領で定められる学ぶ内容

特別支援学校にも学習指導要領があり、子どもたちの実態に合わせた各教科の段階とその目標・内容が設定されています。

例えば中学部社会科は1段階と2段階があり、小学部生活科(全3段階)から接続され、高等部社会科(全2段階)へと繋がっていきます。

中学部社会科1段階には、ア 社会参加ときまり、イ 公共施設と制度、ウ 地域の安全、エ 産業と生活、オ 我が国の歴史や地理、カ 外国の様子という6つの項目があり、それぞれに「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」「学びに向かう力・人間性等」の観点ごとの内容が定められています。

以前は、学校ごと、担当教員ごとに自由に(アバウトな面もあったが…)学ぶ内容を選択していたイメージがあります。今は僕の働く支援学校では学習指導要領に則ったシラバス(年間指導計画)を作成し、各教科ごとにどのような知識を伝えるのかがはっきりと提示されるようになっています。

漢字や計算はできるけれど

支援学校の中学部には、地域の学校の支援学級で学んでいた子たちがたくさん入学します。

支援学校と地域校(通常学級か支援学級かも含めて)どちらを選択するのかには、それぞれメリット・デメリットや本人、保護者の想いがあります。

個人的な経験からすると、地域の学校から入ってきたの子たちの多くは、漢字や計算などはドリルを繰り返しできたので得意だけど、関連した知識や生活経験に不得手のある子が多いように感じます。

絵を見てカブトムシと答えられるのにカブトムシがなにか(虫であること)はわからない、ほうれん草とキャベツと白菜の違いがわからない、コンビニのおにぎりが1個いくらくらいかわからない、漢字は書けるし読めるけどその言葉の意味は知らないなど。またもっている知識も一問一答のように記憶しており、知識同士はあまり関連していないことが多いように感じます。

知識を関連づけるために

一問一答ではなく、それぞれの知識を関連させるためにどうすればいいのか?合科の授業を担当するようになっていろいろと考えました。

1つは思考ツールを使って、知識の繋がりを可視化することです。

季節についての学習では、ブレーンストーミングで「夏」について思い浮かぶものを全員で思いつくままに挙げていき、マインドマップで整理しました。

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(画像は記者作成のもの)

こうすることで、夏という季節には、トマトやナス、ピーマンといった野菜やスイカなどの果物、ヒマワリやアサガオなどの花といった「植物」、夏の大三角などの「星」、冷やし中華やうなぎなどの「食べ物」、七夕やプール、キャンプ、夏祭りといった「イベント」などいくつかの要素に分類(カテゴライズ)できることに気づきます。

この要素を意識することで、思考は連鎖的に広がっていきます。

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(画像はlogmiBizより)

続く秋の季節では、フィッシュボーン図を使い、夏の季節で学んだ要素からいくつかを選び、具体例を書きました。例えば「食べ物」なら、サンマ塩焼き、焼き芋、松茸ごはんなどです。

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(画像は記者作成より)

フィッシュボーン図は多面的な分析や問題解決にも活用できるツールです。

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(画像は父ちゃんが教えたるっ!より)

日本地理、都道府県の学習でもこのマインドマップとフィッシュボーン図を使って、グルメ、観光名所、お祭り、駅弁、伝統工芸品、気候、世界遺産、ゆるキャラ、出身の有名人、プロスポーツの本拠地、地域限定のお菓子、日本一の●●、電車、アニメの聖地といったといったいろいろな要素に分類(カテゴライズ)し、またそれぞれのカテゴリーごとにまとめた画像つきのスライドデータを作成して縦からも横からもどちらからの視点も持って知識を関連づけ、整理できることを目指しました。

最終的にはマトリックス(表)を使い、調べ学習の内容をまとめました。

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(画像は新聞と広告の向こう側より)

またインタビューやニュース調べの課題では、マインドマップで関連する事柄を広げていく際に、5W1Hを要素のひとつとして活用し、また情報を5W1Hの表を使って整理するという取り組みをしました。電話応対のメモの取り方でも、5W1Hや、あらかじめ必要な項目をあげた表の活用などを伝えています。

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(画像はみやあじよより)

またなかッち🎨破天荒先生(@nkc_papa)という方のTwitterでの投稿を参考に、分数・小数・割合・歩合・割引がそれぞれ対応していることを視覚的にイメージできるような円グラフも作成しました。

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(画像は記者撮影より)

語彙の王様という、「●文字」「●行からはじまる」「動物に関する」などのいろいろな条件に当てはまる言葉を答えるというカードゲームも、知識の関連づけやその知識を整理・検索する力に繋がるオススメの教材です。

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(画像はおじさんのボードゲーム・カードゲーム雑記より)

最近の子は知らないでしょうが、マジカルバナナみたいな連想ゲームも知識を関連づけ、繋げていくのに有効かな?なんて思っています。

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(画像はミックスじゅーちゅより)

自分で考えて判断できるように

自分の思考を可視化するためにも、思考ツールを活用しました。

動物の学習では、●●類などの特徴や分類を丸暗記するのではなく、条件に合わせて分類するという思考を身につけてもらうためにベン図を活用しました。

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(画像は記者撮影より)

「十二支の生き物」「肉食か、草食か?」「卵から生まれるか、赤ちゃんで生まれるか?」「泳げるかどうか」などいろいろな条件で、配られた動物カードを分類していく取組みをしました。ツールがあることでイメージしやすかったようです。また日常生活の中で、例えば自分の行動が良かったのか悪かったのかなどを振り返る際にも、この条件に応じて分類するという力は活用できるのではないかと思っています。

そこから発展し、物事のメリット・デメリットを表にまとめる、メリット・デメリットシートというツールを作成しました。

コンビニとスーパー(お店とネットショップとリサイクルショップ)での買い物を比較する、自分たちで考えた1週間の昼食メニューを、自分の満足度や値段、栄養バランス、手間などから振り返る活動などに活用しました。

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(画像は記者作成より)

支援学校の生徒には、衝動的に、あるいは自分の思いが優先してしまい、トラブルになってしまうケースがあります。「自分が楽しいから、やりたいから」だけでなく、行動を起こす前(トラブルになってしまった後)に、いろいろな観点からメリット・デメリットを考える(振り返る)ことができれば、そのようなトラブルも減るのではないかと思い作成したものです。

「いいところ(Plus:プラス)」「ダメなところ(Minus:マイナス)」「興味をもつこと・おもしろいところ(Interesting:インタレスティング)の3つの観点から書けるだけ書いていくPMIに通ずるものがあるかもしれません。

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(画像は父ちゃんが教えたるっ!より)

またクラゲの頭にはテーマ、足の部分にはその「理由や根拠」となるものを書き出すことで、論理的な説明や説得力につながるクラゲチャートも活用していきたいツールです。

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(画像は父ちゃんが教えたるっ!より)

学んだ内容を振り返る

岩瀬直樹さんの振り返りジャーナルを参考に、盲学校時代から振り返りノートという取り組みをしています。

B5サイズのノートを半分にしたものに、その日の授業で学んだこと、覚えて帰ることや感想を書くアウトプットの取り組みです。

「●●を勉強しました」だけではなく、具体的にどんな内容を学んだのか、なぜそのようになっているのかなどを書く力をつけてほしいと思っています。子どもの学びの様子の変化や評価にも活用できるツールです。

生活に必要な力を身につける

以前の記事でも書きましたが、授業の中で学んだ知識や思考は、生活の中で活用されないともったいないと思います。逆にいえば、生活とのつながりを大切にしてきたのが支援学校の教科学習です。

例えば人体のしくみの学習では、病気やケガの予防や応急処置、病気やケガをしたときは何科の病院に行けばいいのか(相談先としての救急安心センター#7119)について。

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(画像は高橋医院より)

天候についての学習では、ニュースやアプリの天気図・天気予報を読み取ったり、気温に合わせた服装について。

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(画像はウェザーニュースより)

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(画像はウェザーニュースより)

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(画像はウェザーニュースより)

図形についての学習では、作図やA4用紙上に置いた図形カード(こちらもなかッち🎨破天荒先生(@nkc_papa)さん作の教材)の配置を、①目で見て、②言葉で伝えて、③文章で伝えて、④図形の種類や位置、表裏、向き(角度)を表に整理して、それぞれ再現する取り組みをしました。

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(画像は記者作成より)

先ほど紹介した思考ツールもそうです。

各教科の単元を通して、子どもたちにどんな力を身につけてほしいのかを考えながら授業づくりをしています。

まとめ

一方的に知識を伝えたり、計算ドリルばかり取り組むのではなく、「知識を有機的に関連づけていく」「ツールを使って思考を見える化し、整理し、振り返る」「生活と関連した内容を取り上げて、学習内容と生活をリンクしていく」ということを大切にして試行錯誤を重ねてきました。

特にまとまりのない個人的な取り組みの紹介になってしまいましたが、いかがでしたか?

もしおすすめの取り組みや書籍、ツールなどがありましたら、ぜひぜひ教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。


参考にしたサイト

1.父ちゃんが教えたるッ!「【プレゼンテーション】思考ツールを使いこなそう!」

2.「シンキングツール〜考えることを教えたい〜(黒上晴夫・小島亜華里・秦山裕)」

3.logmiBiz「笑点の大喜利はアナロジカル・シンキングの宝庫 体験+知識+思考で動くアナロジーの仕組み」


表紙の画像はTwitter@micorunより