書籍紹介『新・視覚障害教育入門』
『新・視覚障害教育入門(青柳 まゆみ/鳥山 由子)」』という本の紹介です。
僕が盲学校で働いていたときに出会ったのは『視覚障害教育入門』でしたが、学習指導要領改定に合わせて装いも新しく2020年9月に改定されました。
この本は視覚障がい教育の入門書として紹介され、盲学校の図書館で借りて読みました。
大学の授業や免許法認定講習等のテキストとして長年愛用されてきた『視覚障害教育入門』を大幅に改訂。新学習指導要領に対応し、最新の情報を加えて新装発行。視覚障害児の教育と対象範囲、視覚の仕組み、盲児・弱視児それぞれの指導の留意点、教科や自立活動の指導において配慮すべき事項などを系統的に示した視覚障害教育入門書の決定版。
(ジアース教育新社より)
視覚障がいを学ぶテキストとなるように、各章末にはキーワードや復習問題(例えば「弱視児は自分が「見えにくい」ことをなかなか言わないことが多いと言われます。それにはどういう理由が考えられますか」など、きっとレポート課題や期末考査でこんな設問があるんでしょうね)、参考文献が掲載されています。
視覚障がい教育についての基本的な内容が系統的に網羅されています。ジアース教育新社ホームページにある目次を掲載しますが、この目次を読めばその幅の広さがよくわかるかと思います。
第1章 視覚障害児と学びの場
1.教育・支援対象となる視覚障害の範囲
2.学びの場
コラム(1)合理的配慮とは
第2章 視覚の成り立ち
1.視覚器の構造
2.主な視機能
3.視覚障害の程度の把握
4.主な眼疾患と見え方の特徴
第3章 視覚障害乳幼児の発達と支援
1.視覚障害児の発達に影響する要因
2.発達の特徴と支援の留意事項
3.弱視児の「見る力」の発達と支援
4.幼稚部・幼稚園等における指導
第4章 盲児の指導
1.視覚以外の感覚を使った「体験」
2.触覚の特性
3.上手に触る力を育てる指導と教材の工夫
4.点字の指導
コラム(2)学校と博物館の連携
第5章 弱視児の指導
1.弱視児の視覚認知
2.見やすい環境の整備
3.教材の工夫
4.視覚補助具・支援機器
5.指導の実際
第6章 点字
1.点字の歴史
2.点字の概要
3.点字の仕組み
4.点字の表記の規則
5.視覚障害者の生活と点字
第7章 教科の指導
1.小・中・高等学校と同じ教科教育
2.「準ずる教育」の定義
3.主体的・対話的で深い学びの実現(学習指導要領改訂のポイント)
4.指導内容の精選、核になる内容を見抜く教師の力量
5.学習指導要領に示された指導上の配慮事項
6.高等部学習指導要領に示された指導上の配慮事項
7.視覚障害の特徴を生かして工夫された指導内容
8.教科の指導と自立活動との関連
9.個別の指導計画
10.重複障害のある児童生徒に対する教科の指導
コラム(3)盲生徒の理科の実験
第8章 視覚障害児童生徒のための教科書
1.小・中・高等学校と同じ内容の教科書
2.視覚障害児童生徒のニーズに応じた教科書の種類
3.法的根拠による教科書の種類
4.教科書バリアフリー法
5.教科書の無償給与
6.教科書無償制度の歴史
7.点字教科書の編集
8.拡大教科書の編集・出版
9.教科書作成をめぐる課題
コラム(4)「デジタル教科書」と視覚障害教育
第9章 自立活動の指導
1.自立活動とは
2.「養護・訓練」から「自立活動」へ
3.特別支援学校学習指導要領に示された自立活動の「内容」
4.学習指導要領に示された自立活動の「内容」と、指導計画との関連
5.視覚障害児の自立活動の実際
6.個別の指導計画の作成
7.指導時間と指導形態
8.主体的な学習を促すための留意事項
9.重複障害児の自立活動
10.特別支援学級、通級による指導における自立活動
11.学校教育における合理的配慮と自立活動とのかかわり
第10章 歩行指導
1.歩行指導とは
2.幼少期の歩行指導
3.白杖歩行の指導
4.手がかり(ランドマーク)の種類と活用
5.メンタルマップの形成
6.自立への態度と習慣を養う指導
7.弱視児に対する歩行指導
8.中途失明者に対する歩行指導の留意点
コラム(5)視覚障害者の歩行の手助け
第11章 キャリア教育・進路指導
1.視覚特別支援学校(盲学校)におけるキャリア教育・進路指導
2.視覚障害者の伝統的な職業としての三療
3.視覚障害者の大学進学
資料1 教材・教具
1.触図(凸図)
2.算数・数学
3.社会
4.理科
資料2 視覚障害教育関連年表
(ジアース教育新社より)
過去に自身の勤める盲学校で触察指導の研修会を企画したときには、この本を参考にしながら、触察の手順や核となる体験についての資料を作成したのを思い出します。
個人的な話になるのですが、改定されたこの本を改めて読むと、はじめて読んだときには知らなかったことがたくさんあったはずなのに、今はこの本よりも詳しいことを知っている部分もある自分に気づき、あれから比べてずいぶん成長したなぁと実感します。note記事を書く際にも、この本から学んだ知識が生きています。
筆者の一人、鳥山由子先生は他の著書でもお世話になりましたし、全日本盲学校教育研究大会や科学へジャンプでお会いしたことがあります。他の著作、『視覚障害指導法の理論と実際』や『視覚障害学生サポ-トガイドブック』、『視覚障害理科教育の基礎』などでもお世話になっています。特に科学へジャンプのワークショップで何度も見学した、ピリッとした空気感の中での動物の骨を触る授業「骨は語る」が忘れられません(僕には真似できないなと思いました)。
長年、盲学校での視覚障がい教育に携わられてきた鳥山先生をはじめとする著者の先生方の思いが詰まった一冊なのかもしれません。ただ個人的には、盲学校の伝統的な取り組みからもうちょっと広げて、感光器だけでなく多様なタブレットやスマートフォンのアプリを使った取り組みや盲学校以外で学ぶ子どもたちの進路(今や大学で学ぶ視覚障がい学生は盲学校以外の出身の方が多い)についての紹介もあったらいいんじゃないかなぁと思ったり。
まぁそれはさておき、タイトルの通り、視覚障がい教育の入門として、基本的な事柄を理解して子どもたちと関わる上でおすすめの本です。写真や資料も豊富で読みやすいですし、興味のある分野は参考文献に手を伸ばせば、より深い知識を得ることができます。視覚障がいについて学ばれている方や当事者の方、そのご家族や支援者、盲学校教職員の方は一度手に取ってみてはどうでしょうか。
表紙の画像はジアース教育新社から引用しました。