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視覚障がい児向けの検査について‬

‪視覚障がい児向けの検査ということで、最初は発達検査のようなものをまとめようと思ったのですが、通常の学校では行わないような視機能検査も含めて紹介させていただこうと思います。

1 視覚機能の検査

盲学校では、学校や眼科などの視力検査でお馴染みのアルファベットのCのような形のランドルト環以外にもいろんな検査があります。

ちなみにCの形のランドルト環はフランスの眼科医ランドルトさんが発明したものです。

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(画像は恋する中高一貫校 適性検査 徹底攻略より)

眼の機能についてはこちらの記事で紹介しています。

1.視力検査

視力検査はお馴染みかもしれませんが、盲学校では遠見視力以外にも、近見視力や最大視認力といったものも測定します。

①遠距離視力

5mの距離で測定する視力で、ランドルト環単独指標を主に使用します。学校や眼科では、いろいろなサイズがあるパネルを使うことが多いかと思いますが、必要ないノイズ情報を無くすため、1枚に1つのランドルト環がある、単独指標を使うことが多いです。結果は、単眼鏡など遠用弱視レンズや板書などの文字サイズに反映します。

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(画像は千葉県立盲学校より)

乳幼児や重複障がい児などで上下左右を答えるのが難しい場合は、ランドルト環と同じ形のハンドルを使用する場合もあります。

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(画像は若山眼科より)

ランドルト環が難しい場合は絵指標(とり、ちょう、さかな、いぬ)を使用する場合もあります。

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(画像はみふね眼科より)

②近距離視力

30cmの距離で測定する視力で、遠見視力と同じようにランドルト環単独指標や絵指標を使います。結果は、読書や書写の文字サイズ、工作等の近くで見る作業に反映します。

③最大視認力

最大視認力は、その子にとって最も見えやすい距離での視力を測定するものです。例えば、15cmの距離で近見視力標の0.1の指標が読み取れる場合は0.1/15cmのように示します。眼科などで測定する医学的なものではなく、教育の分野で、日常の読み書きやルーペの選定などに活用されます。

④その他の検査

TAC(タック:Teller Acuity Card)は、幼児や肢体不自由児など指さしなどが難しいお子さんに使用します。縞模様に目がいく「反射」を利用した測定法です。

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(画像は若山眼科より)

森実ドットカードは、大きさや位置の違う、動物の目(ドット)の位置を答えることによって視力を測定します。

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(画像は若山眼科より)

また距離と識別したモノの大きさから視力を計算することもできます。

弱視の方向けに簡易に視力が測定できるiPad専用アプリ「日用視力測定ツール」もあります。

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(画像はAppStoreより)

2.視野検査

盲学校では視野の測定を行うこともあります。眼科の測定結果を知らせてもらうこともあります。視野欠損など弱視の見え方についてはこちらの記事でも紹介しています。

視野検査ではゴールドマン視野計がよく知られています。中心の固視灯を見た状態で、周辺から中心へ光を近づけて、見える範囲を調べます。

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(画像は株式会社イナミより)

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(画像は新宿東口眼科医院より)

ハンフリー視野計は、ゴールドマン視野計と違い自動で測定が可能な機器です。

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(画像は石崎眼科より)

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(画像は新宿東口眼科医院より)

簡易に弱視が測定できるiPad専用アプリ「日用弱視測定ツール」もあります。

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(画像はAppStoreより)

3.最適可読文字検査

最適可読文字とは、学習や読書に適した文字サイズのことです。

「MNREAD-J, Jkチャート」は、単語や文章を読む速さや読み誤りの数から、その個人がもっている最大の読速度で読める文字のサイズを測定します。それにより任意のサイズの文字を 「快適に」読むのに必要倍率がわかります。結果は拡大教科書やプリントなどの文字サイズに反映します。

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(画像は「杏林ロービジョンルームの概要とケア ー読み困難への対応ー(新井千賀子)」より)

簡易に最適可読文字が測定できるiPad専用アプリ「日用弱視測定ツール」もあります。

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(画像はAppStoreより)

またMNREADのiPad試用版がリリースされています。

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(画像はAppstoreより)

4.読み書き検査

読み書きの速度を調べるためのものです。弱視やLD(学習障がい)な方が読みの困難さを客観的にデータで示し、デジタルカメラやスマートフォン、タブレット端末などのICT機器の使用を合理的配慮として求めていく際の根拠としても活用されています。

URAWSSウラウス

「書き課題」と「読み課題」があり、読み書きの速度を学年平均と比べることができます。小学生向けのURAWSSと小中学生向けのURAWSSⅡ、中学生の英単語の読みが書き速度を調べるURAWSS-Englishがあります。

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(画像はサクセスベルより)

STRAWストロウ-R 改訂版

小学生から高校生を対象に、文字の読み書きの正確性を調べる検査です。 正確性を学年平均と比べることができます。漢字の音読年齢が算出できる漢字音読課題、中学生用の漢字単語課題なども加わりました。

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(画像はサクセスベルより)

5.色覚検査

色覚検査は2003年の学校保険法改正によって必須ではなくなり、希望者のみ実施している学校が大半かと思います。しかし、日本人の色覚異常の割合は、男性の約5%、女性の0.2%であり、女性の約10%は保因者であるといわれています。つまり、ほぼ1クラスに1人の割合で色覚異常の児童・生徒がいる計算になります。現在、その人たちが成長し、いざ受験や就職という場面で初めて自分の色覚異常を知り、非常に困惑し進路の変更を余儀なくされる事例が少なからず報告されているようです。そんな色覚の検査についてです。

色覚についてはこちらの記事で紹介しています。

①仮性同性表

色覚異常の方には分かりにくい色の組み合せを使って主に数字を書いてあるもので、色覚異常の可能性のある人をピックアップするためのスクリーニングとして使用されます。

「石原式色覚異常検査表」が有名です。*画像は元の検査表と全く同じものではありません。

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(画像は滋賀医科大学 眼科学講座より)

「TMC色覚検査表(東京医大式)」もあります。

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(画像は滋賀医科大学 眼科学講座より)

簡易に色覚検査をするアプリ「PseudoChromatic ColorTest」もあります。

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(画像はAppStoreより)

②色相配列検査

こちらは色覚異常を分類するための検査です。よく行われる検査は16色を使ったパネルD-15テストです。これは下の図のように基準の色票が一つ固定されており、 その次から残りの15色を順々に並べていくものです。

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(画像は滋賀医科大学 眼科学講座より)

2 視覚認知の検査

①DTVP(Developemental Test Of Visual Perception)フロスティッグ視知覚発達検査‬

幼児期の視知覚の発達の状態をみる検査です。4歳~8歳対象で、「視覚と運動の協応」、「図形と素地」、「形の恒常性」、「空間における位置」、「空間関係」の5項目を検査します。これを、弱視児の視知覚の状況、及び視覚的に運動をコントロールする能力の状況などをみるために用います。

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(画像は日本文化科学社より)

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(画像はJoyVision大分より)

②視覚認知検査WAVES‬(ウェーブス)

2014年に新しくできた検査です。「見え」の困難が疑われる子どもたちに、「見る力」のもとになっている視覚関連スキル(8領域)を、10種類の下位検査でアセスメントし、視知覚上の発達課題を明らかにする検査キットです。 弱点を克服するためのトレーニングドリルがセットになっています。

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(画像は学研モールより)

ビジョントレーニング教材の「knock knock視覚発達ドリルスクールシリーズ」(点つなぎ、ぐるぐる迷路、⚪︎×数字レース、マスコピー、見くらべレース)にも対応しています。

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(画像は学研モールより)

③近見・遠見視写検査

数字の書かれた表を書き写す検査で、かかった時間と修正箇所、間違っている箇所を記録します。表を手元に置いて行う「近見」と、壁に貼って行う「遠見」があります。

アットスクールのホームページから検査用紙がダウンロードできます。

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(画像はアットスクールより)

DEM(Developemental Eye Movement Test) 眼球運動発達検査

跳躍性眼球運動の正確さを測定するテストです。数字が書かれた表を音読し、かかった時間と読み間違いを記録します。*米国人のデータをもとにした検査です。

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(画像は理学館より)

④MVPT-4 (Moor-Free Visual Perception Test Fourth Edition)

検査対象年齢は4歳~85歳以上で、「識別」、「図と地」、「視覚的短期記憶」、「視空間関係」、「閉合」の5項目を検査します。検査を受けた方の全体的なレベルを検出するために用いられます。

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(画像はJoyVision大分より)

⑤TVPS(Test of Visual Perceptual Skills)視知覚検査

DTVPフロスティッグ視知覚発達検査‬をもう少し詳しく行う検査です。検査対象は4歳から19歳、「図形の識別」、「単一図形の記憶」、「視空間関係」、「形の恒常性」、「連続図形の記憶」、「図形と素地」、「形の閉合」の7項目を検査します。

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(画像はJoyVision大分より)

⑥NSUCO眼球運動検査(Northeastern State University College of Optometry)

アメリカのオプトメトリスト、W・メイプルズが中心となって開発した、直接観察法による眼球運動検査です。検査には、衝動性眼球運動と滑動性眼球運動の2種類の検査が含まれます。

⑦VMI(Developmental Test of Visual-Motor integration)視覚-運動 統合発達検査

「目と手の協応」の能力や、それに伴う視覚的な認知能力をみる検査です。視覚からの情報を駆使し、新たに自分の手で何かを生み出すためには、見た対象に関して、適切な概念をつかめる必要があります。 検査の対象は文字ではないので、文化や知識に左右されず、幼いお子さんから年配の方まで受けられます。

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(画像はJoy Vison横浜より)

3 発達検査

①広D-K式視覚障害児用発達診断検査‬ 

遠城寺式乳幼児分析的発達検査、津守式乳幼児精神発達診断検査などの各種発達検査の中から、視覚障害がある故に判定しにくい項目を削り、まとめた検査です。0歳2ヶ月~5歳が対象で、「Ⅰ運動発達」として、全身運動、手指運動、移動、「Ⅱ知的発達」として、表現、理解、「Ⅲ社会的発達」として、活動、食事、衣服、衛生、排泄の各項目を含んでいます。各項目の中でできていることは、その子供の基礎・基本となることであり、生活年齢が5歳以上の幼児・児童・生徒については、発達年齢を算出する必要はなく、できること・できないことの確認をし、発達の段階が確認できればよいとされています。

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(画像は「重度・重複障害児のアセスメントとその生かし方(東京都立葛飾盲学校)」より)

『視覚障害幼児の発達と指導(五十嵐 信敬)』に詳しく説明されています。巻末には広D-K式視覚障害児用発達診断検査の検査用紙もあります。

②大脇式盲人用知能検査

検査対象は6歳から、木綿、ネル、麻、絹の4種類の布を張ったブロックを使用して模様を構成する作業式知能検査です。布はそれぞれ手触りが異なり、全盲の方が区別できます。

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(画像は福岡心理テストセンターより)

③WISC‐Ⅲ、K-ABCなど

一般的な発達検査は見えていることを前提に作られています。なので、見えない・見えにくい子たちは、見えにくさゆえに数値が下がったり、あるいは見えない故に実施できなかったりします。ですので結果として全体の数値は低くなってしまいますが、そうではなく活用できる部分でどうだったのかを確認することで実態把握に活用できます。

例えば、知能検査(知能診断検査)のWISC‐Ⅲについては、動作性検査と言語性検査のうち、言語性検査について、「この指は何といいますか(検査者は自分の親指を示す)」を「この指は何といいますか(検査者は子どもの親指に触れる)」に変える、図版を見て答えさせる問題については、図版を触って分かるものにするなどです。発達検査の乳幼児精神発達診断法では、保護者などへの質問による形式であり、弱視児についても盲児についても、そのまま実施することができます。ただし、これらの検査を実施して結果を得る場合、ある検査項目ができた、できないということのみではなく、それらの検査項目の行動や応答を行うことが、視覚に、どの程度、どのように依存しているかを考えることが必要であると思われます。その上で、視覚が使用できない、あるいは使用しがたい場合に、それらの行動や応答を行うためには、どのような手だてをとったらよいかを考える必要があると思われます。
(国立特別支援教育総合研究所「各障害に関する知識(視覚障害)心理検査の活用」より)

4 その他チェックリストなど

①『自立活動指導書(広島中央特別支援学校)』

冊子『自立活動指導書ー視覚障害のある幼児児童生徒のためにー』は広島県立広島中央特別支援学校(旧広島県立盲学校)が作成された視覚障がい児の自立活動についてまとめたものです。この中の自立活動チェックリストには7つの項目があり、子どもの実態把握に活用できます。

I. 障害受容と障害の克服・改善に関する観点
II. コミュニケーション能力に関する観点
III.補助具の使用に関する観点
IV.文字使用に関する観点
V. 環境の認知と歩行に関する観点
VII.コンピュータ使用に関する観点

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(画像は広島中央特別支援学校より)

②『こんなふうに見えています(京都府立盲学校)』

冊子『こんなふうに見えています』は、京都府立盲学校が作成した、見えにくい子が自分の見え方と必要な配慮を知るためのツールであり、見えにくい子どもたちに関わる人にどんな配慮や工夫が必要なのかを知ってもらうためのツールでもあります。こちらから無料でダウンロードできます。紹介記事も参考にしてください。

まとめ

視機能の検査や発達検査、チェックリストなどを紹介しました。調べてみて学ぶことも多かったです。子どもたちが見えやすく、わかりやすくするためには、子どもたちの見え方や認知の仕方、発達段階などの実態把握が欠かせません。

そして子どもたちの実態に合わせて環境を調整したり、便利な道具を使ったり、必要なトレーニングを実施したりするのが特別支援教育の基本です。

検査をするとIQなどの数値や他の子と比べてどうかなどが気になってしまいますが、そうではなく今の子どもの実態とこれからを考えていくための地図のようなものです(地図ばかり見て子どもが見えなくなってしまうことには要注意です)。

そのために、紹介した検査などが役に立てばと思います。


参考にしたサイト・本

1.国立特別支援教育総合研究所「各障害に関する知識(視覚障害)心理検査の活用」

2.サクセスベル株式会社

3.『発達の気になる子の学習・運動が楽しくなるビジョントレーニング(北出 勝也)』

4.ランドルト環による遠距離視力評価(葛飾盲学校 弱視グループ)

5.視覚発達支援センター

6.JoyVision大分

7.Joy Vison横浜

8.「読み書きのアセスメント(東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野近藤武夫)」



表紙の画像はメガネcafeより引用しました。