書籍紹介『自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法』
『自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法(白石 雅一)』という本の紹介です。
以前、別の記事で「こだわり保存の法則」と題してこだわり行動への関わり方を紹介しました。
そのときにお伝えしたことが間違いではないのですが、「こだわりってなんだろう?なんでこだわるんだろう?」「どうやって関わっていくのがいいのかな?」なんてことがとってもよくわかり、いろんなことが繋がった本です。
ASDのこだわり行動とは?
ASDの人たちが現す「こだわり」には、3つの大きな特徴があります。
①変えない
②やめない
③始めない
このASDの人たちのこだわり行動は、「発達」そのものを阻害してしまうというマイナス面があります。
しかし、ASDの人たちはこだわり行動によって伸びていくし、几帳面に集中して手抜きのない仕事を持続できるという仕事での高い評価に繋がるというポジティブな面もあります。
だからこそ、この本では人との関係を形成して、こだわり行動と「うまくつき合って、導く」というマネージメントの観点が必要だと繰り返し述べられています。
またこだわりの対象とこだわり行動は、周囲の対応や年月によって、拡大することも、変わることも、本人が飽きることもあります(驚かれるかもしれませんが、
本人がやめたいとうんざりしているのに続けている可能性もあります)。
また本では多種多様なこだわり行動の一覧や発達段階別の特徴なども紹介されています。
こだわり行動の本質と対処法
著者の白石先生は、こだわり行動を次のように定義しています。
この「同一性を保ち続けたいという強い欲求」が生じるメカニズムは、「情緒の働きを調整したり制御すること」がうまくできない脆弱性があって、そのために、具体的に操作可能な事物を「変えない」ようにしているというのが白石先生の見解です。
僕自身も子どもたちのこだわり行動の背景には「不安感」があり、その感情や具体的な事物や行動をコントロールできる感覚を子どもたちが手にしていくにつれて、不安感が減り、それと同時に子どもたちのこだわりへのエネルギーも減っていくのではないかと感じています。
そのため「情動調律」という働きかけを柱として自閉症児に関わられているのです。
以前別の記事で紹介した「提案・交渉型アプローチ」に近い関わり方ではないかと思います。
こだわり行動のレーダーチャート
そしてこだわり行動への対処法として紹介されているのが「こだわり行動のレーダーチャート」です。
1つは「生活とこだわり行動のレーダーチャート」で、こだわり行動全体が個人の諸条件(知的な遅れや楽しみ)や関係者の対応能力(困り度)、他者とのやりとりの状況などと、どのように関係しているかを把握するためのものです。
2つ目は「こだわり行動分析のためのレーダーチャート」で、個々のこだわり行動を個別に捉えていくためのものです。その強さ、頻度、継続期間、マンネリ度、持続時間、変更の具合を評定していくことで、個人の個々のこだわり行動のその特徴がハッキリと見えてくることになります。
2種類のレーダーチャートを基にして、関係者同士が協議し、ASDの人たちの生活状態やこだわり行動の状況についての認識を共有できますし、療育で関わっていく際の順位づけや方針も立てやすくなります。
このレーダーチャートの詳細説明やレーダーチャートを活用したたくさんの事例紹介が掲載されていますので、気になる方はぜひ本を読んでみてください。
こだわり行動への基本的な対処
本に記載されているものです。
「変えない」への対処法
①物の位置を変えない。ちょっとの変化にも気がついて、元に戻さないと気が済まない。
→「使ったら、必ずあなたが望む場所に、キチンと返すから、ちょっとだけ我慢して、場所の移動を認めてほしい」と説明し、お願いする。もちろん"ちょっとでも"できたなら、大いに誉めてあげてください。
②靴や服を変えない。
→普段からこだわりの傾向に留意して生活を送り、靴や服の交換を無理のない程度に行って慣れてさせていく。それでも抵抗を示すなら、「靴はボロボロになったけど/服は洗濯しないといけないけれど、今日だけは、履く/着ることを許すよ。だから、明日からは、新しい靴/服にしてね。」と子どもの願いを受け止めつつ、交換条件も提示して納得してもらうというやりとりをキチンと行う。
③保育園や幼稚園で日課を変えたがらない。変えると怒る。
→毎日日課をキチンと提示することでこころの安定を図り、そのうえで、「週間、月間、年間の行事も目で見て理解できるように図説して提示する」という視覚支援のサポートを積極的に行う。日課や予定に変化があれば必ず前もって伝える。
「やめない」への対処法
①水遊びや砂遊びをやめない。車輪や洗濯機の水など、回転する物を延々と見続けて、注意してもやめない。
→あらかじめ「●時になったら、お終いにしようね」「タイマーがピピッと鳴ったら、終わりだよ」と宣言しておき、市販されているキッチンタイマーやタイムタイマーなどを設置する。また暇つぶしで水や砂などの感覚遊びをしているなら、大人が別の遊びを提示し誘って相手をしてみることが有効な場合も。
②ブランコなどの遊具で遊びはじめると、人が待っていてもやめようとしない。
→「●回こいだら交代しようね」と事前にルールを伝えておき、みんなで数を数えて「交代するとき」を教えてあげる。
③書き(描き)始めたら止まらない。
→一定の作品が書き上がるとか、一息ついているなどのタイミングを見計らって区切りを示し、休憩してもらう。続きは「別の時間にしてもらう」「明日にしてもらう」などの提案をする。事前にタイムタイマーで区切りの見通しが持てるように支援するもの有効。
「始めない」への対処法
①初めての場所は、たとえそれがデパートや遊園地でも、行かないし、入らない。
→これまでの辛い体験や恐怖心、見通しが持てない不安を取り除くために、事前に場所や相手の写真などを見せ、いつの何時から何時まで過ごすのかという日時や、やることをゆっくり丁寧に言い聞かせる。
②慣れていないトイレは使わない。
→トイレへの不安や失敗体験を払拭するべくら楽しんだ後にトイレ(子ども用の楽しげなスリッパを揃え、照明もぬかりなくつけておき、変な臭いが立ちこめていないよう清潔で、冬場は暖房が入っていて、ジェットタオルや換気扇など音に過敏な子が苦手なアイテムは止めている)へ行き、安堵感で無事にトイレを済ませる経験を積んでいく。
③目新しい食べ物は、決して食べない。
→おにぎりの押し型やクッキーの抜き型、ステンシルふりかけなどを使って、その食べ物の「見た目(外見)」を自閉症児の好みに変えてあげることで「食べてみるか」という気持ちを引き出す。匂いや食感にこだわっている場合はらホットプレートを使って目の前で調理して、コンガリとカリカリに焼いてあげるなどの工夫が有効な場合も。
「一番こだわり」への対処法
①順番が待てず、一番最初にこだわる。
→場面場面でよく状況や物を見せて、学校や世間には「順番があること」と、それを待てば必ず「順番がきて、したいことができること」を伝えていく。また待てない状態や状況を想定しておき、気を紛らわすための玩具や本を常に用意しておく。
②負けず嫌いで「オレが!オレが!」と騒いでしまう。
→その子の長所である元気の良さとクラスのムードメーカーとしての存在を先生が率先して認め、よく誉めてあげて、学級全体でもしっかり受け止めていく、「目をかけ、声かけ、手をかける」アプローチを心がける。そうすることで先生やクラスメイトの「諭し」や「なぐさめ」を徐々に聞き入れていくように。
③100点、満点にこだわる完璧主義で、1つの失敗でも「自分はダメだ」と低い自己評価になってしまう。
→例えば「世界のトヨタだって何万分の1の割合で製造過程でミスを犯す。年に数回、何かの販売車種でリコールも起きる。でもトヨタの信頼性は揺るぎないよね。だから君の99点も誇れる結果だよ」や「自転車のチェーンには多少の余裕(あそび)がないと、金属疲労ですぐに切れてしまう。人間も同じで多少の余裕や遊びが必要だよ。たまには、8割や9割という、余力を残した状態で走ることも大切だよ」と説明する。
④人のことを「偉いか偉くないか」「強いから弱いか」だけで判定し、ピラミッドの頂点(トップ)に位置づけた人にだけ「従う」と決めてしまう。
→「ピラミッド型による人の捉え方」に合わせて、その子の"絶対の権威者"として君臨する、例えば「お父さん」や「校長先生」を活用し、対話の輪に引き入れていくアプローチをとる。
⑤「目立つこと」や「注目されること」に過敏になって、「一番になること」を避けてしまう。
→一番の素晴らしさを説くのではなく、「君が嫌いな"一番になること"や"目立つこと"をいかに無理なく避けられるか、一緒に考えていこう」という姿勢で接する。「一番には当てないこと」「皆の前で過剰に誉めない」ことを配慮した上で、適宜、本人を当てて答えさせる。また子どもが「自分は正当な評価を受けていない」と疑心暗鬼になるのを防ぐため、メモや手紙でキチンと評価してあげる。
さて、それぞれの多種多様なこだわり行動とその具体的な対応は…事例として紹介されていますので、ぜひ本を手に取ってみてください。
まとめ
こだわりが周りを巻き込んで拡大し、本人も生きづらさを抱えてしまったケースも、「なんとかしなければ」という思いでこだわり行動を潰しにいって雨後の筍のように出てくるこだわり行動に周囲が悩まされる例もたくさん見てきました。
こだわり行動だけでなく、問題行動といわれるものの背景にはその子なりの理由があり、上手に関わることで変化していくことがたくさんあります。不安な気持ちを、環境調整や関わりで少しずつコントロールできることで、こだわり行動が変化していく白石先生の関わり方はとても参考になりました。
ASDの方が自身のこだわり行動に飽き飽きしているのに、周囲がこだわりを尊重する関わりをするからエスカレートしていく事例は、なるほどと過去の記憶が思い浮かんできます。
多種多様なこだわり行動を記録し、分析することで、関わり方のヒントがイメージできます。レーダーチャート便利ですね。
一番のおすすめは、こだわり行動の療育・実践事例です。ぜひぜひ本を手に取って読んでみてください。
なんにせよ、めちゃくちゃおすすめの本です。紹介されている事例の中には子どもたちとの関わりのヒントとなる宝物がたくさんあります。
こだわり行動に関わる全ての方におすすめしたい本です。
こちらの白石先生の記事もとっても参考になります。
表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。