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体験記事「日本の点字制定130周年記念講演会」

点字の日である2020年11月1日に日本の点字制定130周年記念講演会が行われました。コロナ禍の少ない利点であるリモート化の波にのってか、講演会はYouTubeでも配信されています。

講演会について

講演会では、指点字の発明で知られる福島智さんと、京都府立盲学校に長らく勤められる側、日本の盲教育の歴史を紐解かれてきた岸博実さんのお2人のお話を聞くことができます。

今回は遅まきながら講演会の動画を視聴した感想をまとめてみました。

なお日本点字委員会ホームページに当日配布資料の点字、テキスト、PDFのデータが公開されています。

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(画像は日本点字委員会より)


福島氏の講演「点字は私の父、指点字は私の母」

福島 智さんは、東京大学先端科学技術研究センター・教授であり、指点字の発明や日本の盲ろう者として初めての大学進学され、盲ろう者として世界初の常勤の大学教員になられたことでも知られています。

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(画像は東京大学先端科学技術研究センター バリアフリー分野 福島 智研究室より)

みなさんは「盲ろう」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

盲ろう者とは、「目(視覚)と耳(聴覚)の両方に障害を併せもつ人」のことをいいます。
「光」と「音」が失われた状態で生活しているため、独力でコミュニケーションや情報入手、移動ができない、あるいは極めて困難な状態に置かれています。
「盲ろう者」と一口に言っても、その障害の状態や程度は様々です。
ひとりひとり盲ろうになるまでの経緯も様々です。
コミュニケーション方法は、障害の状態や、盲ろうになるまでの経緯により異なり、使用する感覚「触る」「見る」「聴く」によって大まかに分けられます。
東京盲ろう者友の会より)


福島さんに関して、点字技能試験に向けて勉強していたこともあり、指点字発明のエピソードは以前から知っていましたが、講演で語られる最初の指点字「さとし わかるか」が通じたことに対する「天にも登る気持ちだった」母親の玲子さんと思春期だった福島さん本人の気持ちのギャップには苦笑いでした。読むと聞くとは大違いです。

その後、盲学校に戻ってから先生や友だちと指点字を使って会話ができるようになったものの、1対1でしかコミュニケーションができないことから次第に会話が減り、孤独感を味わったこと。それから、手話通訳を経験していた古賀先生考案による指点字通訳によって、複数人の会話に参加できるようになり、福島さんの会話の中にユーモアが溢れるようになったというエピソードがとても印象的です。

そして福島さんが語る「点字には広がりや応用があり、点字があったからさまざまな情報を得ることができた」「点字によって生かされた」「点字は心を豊かにすると同時に、命に繋がるものだ」という言葉の重さをひしひしと感じました。

岸氏の講演「<暁天の星>から<満天の星>へ-点字をめぐる不易・流行-」

岸 博実さんは、京都府立盲学校に永らく勤務され、現在も非常勤講師として務められる傍ら、日本盲教育史研究会事務局長もされています。日本で最初の盲学校である京都盲唖院関係の資料整理に携われ、関係資料は国の重要文化財に指定されています。

岸さん(なんだかしっくりこないので、これ以降は、いつも通りの呼び方「岸先生」にさせてもらいます)には個人的にお世話になった経緯もあり、また講演という形でお話を聴くのが3回目になるということで始まる前からなんだかソワソワしてしまいました。

そして、タイトルの「<暁天の星>から<満天の星>へ」は、先日紹介した『視覚障害教育入門Q&A 新訂版』で岸先生が書かれたコラム「日本の点字を育んだ人々ー暁天の星から満天の星へー」と同じなんだと今更ながら気づきました。

ちなみに岸先生の紹介されていた、兵庫県立盲学校同窓会記念誌に寄稿された福島さんのエッセイはこちらから読むことができます。ゴロピン野球に思いもやらぬ結末が…。

岸先生のエッセイ「つぶらなわたし」。ささやかな愛と言われていましたが、僕には情熱を秘めた岸先生からのラブレターのように思えました。岸先生に許可をいただきましたので、当日読み上げられたものを以下に掲載します。

つぶらな わたし(妙)  きし ひろみ

 つぶつぶ、つぶら
点字は、指で読みます。目でも読めます。実は、唇で読む人もいるんです。
読書にぴったり。名刺をつくれます。手紙が書けます。投票もできます。
本になります。CDのラベルにも新聞にも教科書にも、なります。

 つぶつぶ、つぶら
点字は、エコ。たった六つの点で限りなく何でも 描けます。

 つぶつぶ、つぶら
点字で、勉強、できます。仕事も、できます。
考えながら読むのにぴったり。考えながら書くのにも。
遊びも、大好き。しりとりだって、もちろん。
トランプもカルタも百人一首も、できます。

 つぶつぶ、つぶら
点字は、しょうしん しょうめい にんげんの もじ。
なので、笑います。そして、泣きます。
だから、恋します。ときに、怒ります。きっと、夢もみます。
さびしがっているときもあります。友だちを探しているんです。
つんつんしているように見えるかも・・・。ほんとはとっても人が好き。

 つぶつぶ、つぶら
点字は、文字の世界の新人です。
フランスのルイ・ブライユが見つけました。日本の石川倉次が育てました。
目の見えない人にバリアをやぶらせます。
「読みたい!」・「書いたい」・「支えたい」気持ちを、叶えます。

 つぶつぶ、つぶら
点字は、ドラえもんの絵本にも、切手やコインにもなっています。
点字は、ジャンプー・リンスやエレベーターの表札です。
奏でます、音楽を。いつか、きっと、宇宙船にも描かれるでしょう。
どの国でも、"a b c "の点字は、同じ。日本語も、韓国語も、中国語も、英語も、ドイツ語も、スペイン語も、ラテン語も、点字と仲よし。

 青い地球に、くまなく満ちて
つぶつぶ、つぶつぶ、つぶらな、わたし。
こころから、あなたに。 「こんにちは!」

ちなみに岸先生のnote記事に全文が掲載されていますので、ご紹介します。

科学へジャンプの子どもからの「先生、点字は文字の世界のルーキーやねんな」「エースになるんや」には関西在住なのでそのやりとりが思い浮かび笑ってしまいました。

日本の点字についてのお話は、以前購入していたものの積読になっていて、この講演動画を観る前にふと読み始めた、津山洋学資料館『一滴』第26号の「点字以前 18-19世紀の日本における盲人の身体と文字表記技術の交差(木下 知威)」についても語られていて不思議な縁を感じました。

暁天の星のくだりでは、第94回 令和元年度 全日本盲学校教育研究大会・京都大会での岸先生の特別講演「京都盲唖院教材の手ざわり〜東西2校の交流から全国へ〜」でのお話を思い出します。

日本の点字は、名前の知られる石川倉次さんだけでなく同僚や生徒としての視覚障がい当事者も参画して、幾度かの選定会を経て、満場一致で石川倉治案が採用されました。だからこそ東京と京都、東西の暁天の星が同じ方向を向いて共に歩んで行ったのだという話には並々ならぬ説得力があります。

紹介された左近允孝之進の『盲人点字独習書』も岸先生とのご縁から実物に触れたことがあり、その意義を改めて認識しました。

暁天の星から満天の星になった点字。その光の陰りへの処方としての提案、バリアフリーではなくユニバーサルデザインとしての点字の可能性、どこでもドアならぬどこでも点字の話を聞いてワクワクしてしまうのは僕だけでしょうか。僕自身も微力ながら展示の魅力を発信する一人でいられたらと思います。

先生の最後の教え子、ひらがなの読み書きしかできなかった子が、3年間で一定の点字を読めるようになり「やっと自分の文字を獲得できた気がする」と呟いたエピソードは、福島智さんの講演と繋がります。

さいごに

司会をされていた平松智子さんが「お二人の先生方のお話を聞いて、私自身も点字への想いと言いますか、愛そのものがとっても深まったように感じています」と言われていたように、僕自身も「点字への想い」を再確認させていただきました。動画ということで、何度も内容を聞き返すことができとても有難かったです。とてもよいお話が聴けました。

岸先生の講演のところでも少し書かせていただきましたが、微力ではあるのですが、点字に携わりその魅力を知る一人として、これからも発信することを続けていきたいなと思います。

僕の拙い文章でこの講演の全てを伝えることはできません。最後にもYouTubeのリンクを掲載しておきます。よければぜひ講演を聞いてみてください。



表紙の画像は日本点字委員会ホームページに掲載されている講演会案内より引用しました。