書籍紹介『視覚障害教育に携わる方のために 五訂版』
『視覚障害教育に携わる方のために(香川 邦生)』という本の紹介です。
この本は、以前紹介した、『視覚障害教育入門』、『視覚障害教育入門Q&A』と合わせて視覚障がい教育入門書3点セットと言っても差し支えないと思います。
その中でも一番文章量が多いのがこの本ではないでしょうか。僕が初めて読んだときは三訂版か四訂版だったと思いますが、そのときは僕に知識がなかったこともあって読み終わるまでにずいぶん時間がかかった記憶があります。
例によって慶應義塾大学出版会のホームページから目次を引用します。
第1章 眼の機能と視覚障害
1 視覚障害の概要
2 視覚機構と視覚障害
3 視機能の検査
(1)視力の検査
(2)視力以外の視機能の検査
4 視覚障害児童生徒の実態
(1)主な眼疾患
(2)視力別比率
(3)小・中学校等の通常の学級に在籍する弱視児童生徒の実態
第2章 視覚障害教育のあゆみ
1 明治期から昭和初期までの視覚障害教育
(1)視覚障害教育の先駆
(2)近代視覚障害教育の成立
(3)明治期から昭和初期にかけての盲学校の増設と発展
(4)日本訓盲点字の完成と普及
(5)職業教育の変遷
2 戦後における視覚障害教育
(1)判別基準と教育措置
(2)対象児童生徒の実態
(3)教育課程の変遷
(4)教科書等の刊行
(5)弱視教育
(6)重複障害教育
(7)職業教育の充実
3 特別支援教育に向けて
第3章 特別支援教育と視覚障害教育
1 特殊教育から特別支援教育へ
2 障害者の権利に関する条約の批准とインクルーシブ教育
3 特別支援教育と視覚障害教育
4 視覚障害特別支援学校(盲学校)に期待されるセンター的機能への取り組みと課題
(1)求められるセンター的機能
(2)求められるセンターとしての主な機能
(3)視覚障害特別支援学校(盲学校)の抱える問題
5 諸外国における盲学校等のセンター的機能
第4章 視覚障害児童生徒の教育と就学支援
1 視覚に障害がある児童生徒と学校教育
2 現実的な対応の実態と問題点
3 視覚障害教育の場の状況
(1)視覚障害特別支援学校(盲学校)の概要
(2)弱視特別支援学級の概要など
第5章 教育課程と指導法
1 教育課程と指導計画の作成
(1)教育課程と指導計画
(2)特別支援学校の教育課程の基準の特色
(3)重複障害児に対する指導計画作成
2 盲児に対する指導内容・方法等
(1)点字の指導
(2)空間概念の指導
(3)漢字・漢語の指導
(4)ことばと事物・事象の対応関係の指導
(5)運動・動作を伴う指導
(6)盲児に対する指導上の配慮
3 弱視児に対する指導上の配慮
(1)弱視児の理解
(2)弱視児指導の基本
ア.視覚によって明確に認識させるための方策(外的条件整備)
イ.視覚認知能力を高める方策(内的条件整備)
ウ.弱視という状態の理解を促す方策
エ.精神的負担軽減のための方策
(3)弱視児と文字の選択
第6章 自立活動の基本と指導
1 自立活動の本質と性格
(1)自立活動の位置づけと本質
(2)自立のとらえ方
(3)改善・克服すべき障害のとらえ方
2 学習指導要領に示されている内容と具体的指導事項
(1)障害種別や学部を越えて共通の内容を示している意図
(2)具体的な指導事項の選定
(3)教科と自立活動との関係
(4)自立活動のL字構造
3 個別の指導計画作成の課題
(1)指導の充実に直結する個別の指導計画
(2)個別の指導計画作成のシステム
(3)具体的で達成可能な目標の設定
(4)共通の概念に裏づけられた言語の使用
4 視覚障害児童生徒に対する自立活動の指導
(1)空間に関する情報の障害
(2)情報障害改善の手だて
(3)核になる体験の重視
(4)自立活動の中心的な指導内容
(5)具体的指導内容をとらえる観点
第7章 視覚障害児のための教材・教具
1 教科書
(1)点字教科書
(2)拡大教科書
2 補償機器
(1)点字を書き表すための器具
(2)凸図等を書き表すための器具
(3)凸教材
(4)計算のための器具
(5)作図のための器具
(6)感覚を代行する器具
(7)視覚を補助する器具
(8)歩行を補助する器具等
(9)情報機器
第8章 乳幼児期における支援
1 0歳からの早期支援
(1)早期支援の場
(2)両親への支援
(3)早期の発達と育児への配慮
2 幼児期の支援の内容と配慮点
(1)基本的生活習慣
(2)人・物・環境との対応
(3)弱視幼児に対する特別の支援
(4)保護者への対応
3 幼稚部における教育の基本
(1)幼稚部における教育の特性
(2)視覚障害児のための保育環境の整備
(3)保育の実際
4 幼稚園や保育所等に通う視覚障害児への援助第9章 視覚障害者の職業
1 視覚障害特別支援学校(盲学校)における職業教育
2 視覚障害特別支援学校(盲学校)以外の施設における職業教育・訓練
3 視覚障害者が従事する、その他の職種
4 視覚障害者の職業における諸問題
5 視覚障害者の職業の課題
第10章 視覚障害と福祉
視覚障害児(者)に関わる主な福祉制度
(1)手帳
(2)各種手当
(3)年金等
(4)税金の減免
(5)日常生活の援助
(6)医療費の援助
(7)各種料金の割引
視覚障害教育に関わる基礎的文献
索 引
この目次を見てもらえれば、先に紹介した2冊に勝るとも劣らない内容の豊富さがわかってもらえるかと思います。拡大教科書や点字教科書の選定や作成、弱視学級や通級指導について、福祉制度、諸外国における視覚障がい教育、自立とは何かなど、様々な内容が網羅されています。
編著者の香川邦生先生は、全日本盲学校教育研究大会(全日盲研)や弱視教育研究大会(日弱研)で何度もお見かけし、発表に対して厳しい批評と熱意あふれる激励をされていた姿が印象的でした。
その香川先生が研究大会の場で繰り返し言われていた内容を引用します。
弱視児が外界を認知する能力には、次のような三つの段階があると考えられます。
① 見えても見えずの段階
② 見る能力相応に見ることができる段階
③ 見えないものまで見ることができる段階
この三つの段階について若干の説明を加えてみます。
まず、見えても見えずの段階とは、例えば、視力が0.1あるのでこの程度のものは見てしかるべきだと思われるのに、見えない、また見ようとする意欲が感じられない、といった段階の子どもたちです。この段階の子どもたちには、見ることの楽しさを様々な具体的な操作活動を通して体験させていくことが大切です。具体的な学習の進め方については後述します。
こうした具体的な操作活動を通して、見えても見えずの段階の子どもたちは、見る能力相応に見ることができる段階に達していきます。見る能力に相応に見ることができる段階は、能力相応に見ることができる段階ですから、一応自分の生理的な能力をフルに発揮できている段階といっていいでしょう。一般的に言えば、この段階でいいではないかということになりますが、弱視教育は、この段階で満足してはならないのです。この段階をさらに一歩推し進めて、見えないものまで見ることができる段階に到達させねばなりません。
「見えないものまで見ることができる」とは、一体どういう意味なのでしょうか。0.1の視力の者を0.2とか0.3とかの視力にするということではありません。たとえ明確に見えなくとも、今までの経験や体験に基づいて、こうであるに違いないという確かな予測を働かせることができる能力のことを、「見えないものまで見ることができる」と言っているのです。
(第5章 教育課程と指導法 3 弱視児に対する指導上の配慮より)
この「見えないものまで見ることができる段階」と「核となる体験」については、香川先生も度々言われているように、視覚障がい教育の柱だと思います。それと同時に、それ以外の子どもたちにとっても大事な内容なのではないかと、個人的に他校種支援学校に勤務し、我が子を子育てする経験から思います。
乳幼児期や学校教育、進路まで網羅したこの本。タイトル通り、視覚障がい教育に携わる教員はもちろん、保護者やボランティアの方にもおすすめの本です。
表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。