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書籍紹介『視覚に障害のある乳幼児の育ちを支える』

『視覚に障害のある乳幼児の育ちを支える(猪平 眞理)』という本の紹介です。

『視覚障害幼児の発達と指導』

この本が出版されるよりも前、視覚障がい児の幼児期の指導については、『視覚障害幼児の発達と指導(五十嵐 信敬)』という本があり、広D-K式視覚障害児用発達診断検査も掲載されているのですが…僕にはなかなか読み進めるのが難しかったです。ただ細やかに理論などが紹介されていますのでこちらもおすすめです。

という訳で、この『視覚に障害のある乳幼児の育ちを支える』を読むと読みやすい内容でありがとうございますと心底思いました笑。

目次の紹介

慶應義塾大学出版会ホームページから目次を引用します。

 推薦のことば  香川邦生
 刊行にあたって  猪平眞理
  第1章 視覚の仕組みと乳幼児の視覚障害
第1節 乳幼児の視覚の発達と視覚障害 柿澤敏文
第2節 小児の眼の疾患――病態と留意点 富田香
  第2章 乳幼児期の発達の特性と支援の基本
第1節 視覚障害のある乳幼児の早期の支援と育児(0~2歳頃) 猪平眞理
第2節 視覚障害のある幼児の指導の基本(3歳頃~就学前) 猪平眞理
  第3章 早期からの保護者支援
第1節 視覚特別支援学校(盲学校)の育児支援 﨑山麻理
第2節 育児支援を行う基本 馬場教子
第3節 医師の立場から教育相談への連携 山口慶子
  第4章 支援と指導の配慮 ―事例を交えて―
第1節 運動・身体づくり
――視覚障害乳幼児の早期の運動機能の発達を促進するために
 1 姿勢・身体づくり:首の座りから歩行まで 杉山利恵子・森 栄子
 2 リズム運動で楽しく身体を動かす 今井理知子
 3 運動遊び 高見節子
第2節 視覚障害のある乳幼児に対する摂食嚥下リハビリテーション 千木良あき子
第3節 子どもにとっての生活習慣の自立とは 荒木良子
第4節 コミュニケーションとことば
 1 ことばとコミュニケーション 荒木良子
 2 絵本と読み聞かせ 猪平眞理
 3 お話遊び 今井理知子
第5節 手指機能・触覚の世界
 1 幼児の遊びと、触ること 今井理知子
 2 造形遊びと触ること 猪平眞理
第6節 弱視幼児の視覚活用の促進
 1 視覚活用をはかる環境づくりと支援 杉山利恵子・森 栄子
 2 早期からの視覚活用を促す関わりの例  髙橋奈美
 3 追視、注視を促すためのPC、モニター画面を活用した活動例 中村素子・坂本由起子
 4 ぬり絵を通しての弱視幼児の指導例 中野由紀ほか
第7節 保育の環境構成と、遊具・玩具の工夫
 1 幼稚部保育室の環境構成 高見節子
 2 遊具・玩具の活用の目的と主な種類 高見節子
 3 手作り遊具・玩具の特性と紹介 杉山利恵子・森 栄子
 補章 就学に向けて 猪平眞理・楠田徹郎
子どものさらなる成長を願う教師の思い
・「全盲Iさんを担当してくださる方へ」  久田まり子
・小学校 弱視学級を担当して 中野由紀
・共感し合える仲間づくりの大切さ 髙橋里子
・視覚障害と肢体不自由を併せ有する子どもたちに出会って 岩本真抄
 コラム
・育児相談の役割は、お母さんたちを応援すること 岩倉倶子
・院内で気軽に相談を 楠田徹郎
・身体障害者手帳(視覚障害)の取得を! 吉野由美子
・NICUから途切れない支援を 中野由紀
・さわる絵本 猪平眞理
・盲学校内で行うインクルーシブ保育の試み 猪平眞理
・視覚に障害のある乳幼児の発達を把握する工夫 猪平眞理・岩本真抄・全早研発達研究グループ
 著者紹介

この本は、編著者の猪平眞理先生だけでなく、全国の盲学校などの教育関係や医療関係の方も執筆されています。

視覚障がい乳幼児への関わり

かつて視覚障がい児は「何もできず、発達していかない」と捉えられていた時代がありました。しかし、それは見えないから外界への興味が湧きにくく、「見たい、触りたい」という欲求からの自発的な行動が起こりにくいこと、見えないことから模倣がしにくいことなどが原因であり、適切な支援さえあれば、それらの課題はクリアされます。

この本の中では、そんな発達段階や発達の道筋に関する理論や全国の盲学校での実践例などがわかりやすく紹介されています。

いろんなものに興味を持つこと、子どもたちが思わず手を伸ばしたくなるような魅力的なおもちゃを用意すること、音や手ざわり、味やにおいでそれらを感じること、核となる体験を積むこと、身体のボディイメージを高めること、いろんなものを触っていく手を育てること、それらはその先のその子たちの人生にとってとても役に立つものです。そしてそれはその子が自分の人生を自分で生きていくために必要な力でもあります。

そのいくつかは過去の記事でも紹介しました。

そのためには早期からの支援が必要になります。なので幼稚部が設置されたり、乳幼児教室を開催したりといった取り組みをすすめている盲学校があるのです。

早期からの保護者支援

それだけでなく、特に乳幼児期の段階では保護者の方のケアも大切になります。「障がいの受容」という言葉は、支援学校で働く僕にとって当たり前のように聞く言葉ですが、もちろんそんな簡単なものではありません。

この本の内容とは少し変わりますが、僕自身もいろいろな保護者の方と接してきて、子どもとどう接していいかがわからずに手を離しすぎてしまったり、逆に子どものことを考えすぎて腕の中に抱え込みすぎてしまったりといった極端な例が少なくありません。

適切な関わり方は僕自身も難しいと感じることも多いですし、そういった子どもとの関わり方や距離感みたいなものも共有できればいいですよね。そのためには保護者の方とじっくり話し、思いを吐き出してもらい受け止めることのできる関係も大事になってきます。

乳幼児期の発達と関わりを知っておくことの大切さ

視覚障がい乳幼児に関わらずですが、その発達の道筋を知っておくことは子どもたちが進んでいく地図を見ておくようなものです。もちろん地図ばかりみて肝心の子どもを見ないのはどうかとは思いますが。

そして視覚障がい乳幼児は「見えない」ことから他の乳幼児期の子たちへの関わりとは違う支援が必要になります。また盲重複障がいの子たちにとってもそれは同じです。そのことを学ぶために、この本は最適な本ではないでしょうか。

ある研究会で大学の先生が言われていた、「センター試験について、就労について盲学校幼稚部の先生方が語れたら最高ですよね」の言葉のように、乳幼児期からその先を見据えた支援が広がればいいなぁと思います。

著者の猪平眞理先生は宮城教育大学名誉教授として、長年、視覚障がい乳幼児期教育に携わられてきました。また視覚障がい乳幼児研究会全国視覚障害早期教育研究会でも活動されていますので、研究会ホームページものぞいてみてはどうでしょうか。

猪平先生に関するこんなブログもありました。子どもの力を引き出すために、「なんだろう?」「楽しそう!」と思える教材やしかけ、そして学んだ経験への共感って大事だなぁと改めて思いました。


表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。