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書籍紹介『こんなふうに見えています』

『こんなふうに見えています』という京都府立盲学校の視覚支援センターが作成された冊子を紹介します。

冊子は、児童用と生徒用があり、こちらの視覚支援センターのホームページからPDFデータが無料でダウンロードできます。

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(画像は京都府立盲学校より)

もの言わぬ弱視児

「もの言わぬ弱視児」という言葉があります。「日常の学校生活で、あるいは授業の中で、見えなくても見えづらくても特に訴えることもせず(できず)、その見えづらさを気付いてもらえない理解してもらえない状況にいる弱視の子どもたち」のことを指した言葉です。

弱視児、とりわけ先天性の弱視児の多くは、自分の見え方と他の多くの人の見え方の違いを知りません。なので「見えている?」と聞かれても、見えている人からすると見えていないにも関わらず「見えてるよ」と答えてしまう。見えている人の見え方がわからず、相手の表情や黒板の文字が見えていない世界が当たり前だと思ってしまうからです。

また自分の言葉で見え方を伝えるのが難しかったり、何度も見えにくさを説明し、理解してもらうまでの負担(もちろん理解してもらえないこともあります)から、伝えることを諦めてしまうこともあります。思春期になると、周りの友だちと同じでいたいという思いから、使っていたルーペや単眼鏡を使いたくないという思いも出てきます。

そんな状況の中でも、机に座って授業は受けていたものの授業の内容にはついていけず、中学部や高等部から盲学校に入学する子たちもいます。

盲学校という配慮ある環境から出た先で

盲学校というのは、子どもたちの見えに当たり前に配慮があります。僕のいた盲学校では、廊下や階段は右側通行でしたし、玄関には音声付き点字案内板がありました。教室には拡大読書器が設置され、拡大教科書が渡され、プリントは自分の見やすいフォントとポイントを用意してもらえます。

そういう環境の中で、いろいろな経験(中には地域の学校で傷つき、その結果盲学校を選択した子もいます)をし、見えにくさを受け入れてもらえ、それに対する配慮や支援を受け、具体的な方法を身につける中で自信を取り戻す子たちがたくさんいます。

しかし、盲学校の環境というのは、まだまだ特殊な限られた世界です。世の中の大半の場所では、なにも言わずに同じような配慮や支援を受けることはできません。

でも、環境を整えたり、やり方を工夫することで、見えにくくてもできるようになることはたくさんあります。そのためには、自分で自分の見え方や必要な支援について知っておくことや、それを合理的な配慮として求めていく力が必要になるのです。

こんなふうに見えています

この冊子『こんなふうに見えています』は、見えにくい子が自分の見え方と必要な配慮を知るためのツールであり、見えにくい子どもたちに関わる人にどんな配慮や工夫が必要なのかを知ってもらうためのツールでもあります。

内容は以下の4つの項目の中に、いくつかの質問があり、見え方の理解や配慮に関するひとことが載っています。

I 眼の様子について
II 文字の読み書きについて
Ⅲ 学校生活(校内)について
Ⅳ 登下校、社会見学など校外の生活について

もちろんこの冊子で全てが賄える訳ではありません。高等部段階になり、大学進学や企業就労を目指すのなら、よりわかりやすい言葉で説明する方法や(例えば文字が何ポイント以上と言われても大抵の人はすぐにイメージできないので、「新聞の見出し」くらいの文字の大きさなどの例を挙げる)や、具体的な配慮を求め、調整していく力も必要になります。盲学校に限らずてすが、支援学校で子供達が自分自身と必要な配慮を知り、それを自己紹介の中で伝えられるようになるもの必要な力の1つだと個人的に思っています。

この冊子『こんなふうに見えています』はそんな先に続くための一歩を踏み出すサポートをしてくれます。

最後に、この冊子のあとがきを引用して、本の紹介を終わります。

あとがき
弱視児は眼からの情報が不十分なため、手、足の触覚や耳の聴覚、経験、知識なとで補って行動しています。最初に時間をかけて正しくイメージできれば、大抵のことはできるようになりますが、初めての場所や、まわりの状況が急に変わったときなどは、普段と同じように行動できなくなることがあります。(ゴミ箱の場所が少し変わっただけでもぶつかってしまうこともあります。)
また、信頼関係ができるまでは、「見えているふり」と「見ていないふり」をついついしてしまうもので、初めて出会った人たちに、この冊子に書いてあることを全て説明していくストレスの大きさも並大抵ではありません。
また、見えにくい子どもが過度に「頑張りすぎる」ことは、周囲の人々に「見えにくい」ことが伝わりにくい状況をつくってしまいます。本児の心理的負担に寄り添うことを忘れず、見えにくさがある一人一人の見え方に、ご配慮をお願いしたいと思います。

お父さん、お母さんへ
お忙しい毎日だと思いますが、たまにはお子さんのために買い物の機会などを作ってあげてください。スーパーやデパートで様々な商品をゆっくりと見て歩くのもよいでしょう。ご自宅の近くを一緒に散歩して、郵便ポストや自動販売機がどこにあるのか探すのも楽しいことでしょう。
また、なるべく自家用車は使用しないで、電車やバスをつかって移動の経験をさせてあげてください。切符の買い方、運賃の払い方など、視経験の不足から意外に知らないことがあるものです。

ご担当の先生方へ
様々な児童が多数在籍する通常の学校では、非常にお忙しい毎日の中、弱視児の支援になかなか十分な時間がかけられない現状があると思いますが、ちょっとした配慮が「先生が私のために、工夫をしてくださっている」と感じ、意欲につながります。
先生方が作成してくださった見えやすい教材教具が、弱視児の眼の前に置かれた段階で、はじめて晴眼児と同じスタートラインに立てるのです。視覚に障害のある子どもたちが、楽しく豊かな学校生活を送れるようサポートをよろしくお願いいたします。

冊子は、児童用と生徒用があり、こちらの視覚支援センターのホームページからPDFデータが無料でダウンロードできます。


表紙の画像は京都府立盲学校ホームページより引用しました。