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PORTER ROBINSON

「アルバムを買う」というアクションをすることが少なくなった。ストリーミング・サービスという便利なツールが登場し、大量の音楽に容易にアクセスできるようになった現代、フィジカル・メディアであるCDを買うという行為は、必要性が少なくなったのだ。

しかし、アーティストは「アルバム」という形で作品を出している。そこにはきっと、アルバムという形に宿る何かがあると、思っている。でなければ単曲でリリースし続ければいいのだから。

さて、レコード、カセット、MD、CDとフィジカルメディアにどっぷり浸かって生きてきた自分が、久しぶりにアルバムを買った。それがPorter Robinsonのセカンドアルバム「Nurture」だ。

彼との出会いをちょっと遡ってみよう。


2014年当時、InerFMというラジオ局で番組を担当しており、その番組のDJの1人、Shaulaが「オススメ」としてチョイスしたのが、Porter Robinsonの「Sad Machine」だった。その後、彼のアルバムがリリースされるということで、買って聞いてみた。1stアルバム「World」のどこか無機的なエレクトロサウンドが連なる楽曲の中で、とりわけ自分が惹かれたのが「Flicker」という曲だった。

カット&ペーストによって散りばめられた日本語。MVのベースも日本の風景のようだが、どこか終末観の漂う、言うなればエヴァンゲリオンのような世界観。なんだこれは?と調べてみると日本のアニメ「あの夏で待ってる」のセリフをカット&ペーストしていて、彼自身も日本のアニメ好きということがわかった。やはりそういったことで親近感が湧くものだ。

もちろんアルバム全体を通しても好きなアーティストだったのだが、中でも「Flicker」は時にお気に入りとなった。その後、番組に本人をゲストに迎えることもできた。Shaula、ありがとう。

その後、Madeonとの共作シングル「Shelter」をリリース。

MVはアニメのショートフィルム。楽曲もかなりポップになった。これはニューアルバムも近いか?と思ったが、なかなかリリースがない。リミックス盤や別プロジェクトでのリリースなどはあったが、Porter Robinson名義でのリリースがなかなかされず、1stアルバムのリリースから6年が経った2020年。

世界で徐々に新型コロナウイルスの脅威が広まり始めた中、ついに新曲がリリースされたのだ。しかもニューアルバムも制作しているという嬉しいメッセージ付き。2020年は、ポーター・ロビンソンのアルバムを心待ちにして過ごした1年といっても過言ではないかもしれない。

そんな中で、彼がオンラインで開催したフェス「Secret Sky」で、最後に新曲としてのちにリリースされる「Look At The Sky」がショートバージョンで披露された。すでに世界は新型コロナのロックダウン状態になっており、多くの人が命を落としていた中、この曲はまるで「生きる」ことを後押ししてくれるような、生きてまた同じ空の下で会おう、そんなメッセージに聞こえた。泣きそうになった。それからは本当にこの曲を聴きたくて聴きたくて、YouTubeでショートバージョンを聞いて過ごした。

そしてついに、楽曲としてリリースされた。ほぼ同時に公開されたリリックビデオ。言葉が出ない。


この7年で、Porter Robinsonに何があったのか。それは本人にしか分からないが、2ndアルバムがこんなにも有機的で温かみのあるエレクトロになるとは思いもしなかった。

そして、是非ともアルバムで聞いてほしい1枚となっている。5曲が先行理リリースされたシングルなのだが、その合間に入るアルバムの楽曲がまた個性を放ちつつ、先行リリースの楽曲を繋いでくれる。まるで、1枚のサウンドトラックのような錯覚にまで陥る。


もちろん、ストリーミング・サービスでも「アルバム」として通して聴くことはできるだろうが、やはりフィジカルで手にとって、ジャケットを見ながら、音楽を「流して」聴くと、見えてくるものも変わるのではないだろうか。

アルバムに収録された「Musician」という曲でもCDは重要なファクターとして登場している。是非、このアルバムは「アルバム」として聞いてみてほしい。


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